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細貝萌が心境を語る「タイリーグの選手としてACLにトライしたい」

2020.06.29

タイでプレーする細貝 [写真]=本多辰成

[サッカーキング アジアサッカー特集号(2019年10月号増刊)掲載]

今年で33歳。プロ15年目のシーズンを、細貝萌はタイで過ごしている。日本からドイツ、トルコのクラブを経て、自身8つ目のクラブはブリーラム・ユナイテッド。日本代表やUEFAヨーロッパカップも経験した円熟のプレーヤーは、タイで何を感じ、何を考えながらプレーしているのか。率直な心境を聞いてみた。

苦しかった柏での2シーズン


【PROFILE】
MF 7|細貝 萌(ほそがい・はじめ)
1986年6月10日、群馬県生まれ。前橋育英高校時代から特別指定選手として浦和レッズに在籍し、2005年にプロ入り。守備的MFやDFをこなす万能型として頭角を現すと、2010年には日本代表に選ばれた。2011年からドイツ、トルコと海外のクラブを経験し、2017年に柏レイソルへ移籍。2019年はブリーラムでプレーし、今季は期限付き移籍でバンコク・ユナイテッドに活躍の場を移している [写真]=本多辰成

――ブリーラム・ユナイテッドでの最初のシーズンが佳境を迎えています。タイリーグでの戦いは、細貝選手にとってどんなものになっていますか?
細貝萌(以下、細貝) チームは今、まさに優勝争いをしているところで、リーグ、タイFAカップ、リーグカップと3つのタイトルを取れる可能性のある状況なので、個人的には3つ取りたいと思っています(タイFAカップは取材後に準決勝で敗退)。外国人選手としての最終的な評価はやっぱりタイトルが取れるかどうかだと思うので、そこはこだわっています。

――ここまで細貝選手は、リーグ戦の第27節を終えて23試合に出場(スタメン20試合)。チームの中心選手として信頼を得ているように見えます。
細貝 タイ語が分からないので、メディアやサポーターがどう評価しているのかといったことはあまり入ってきませんから、ピッチで感じることがすべてになる。とにかくありのままの自分でベストを尽くすしかないと思っています。ただ、去年までの日本での2シーズンが自分にとってはかなり厳しいもので、自分の良さを出すことが難しい状況だったので、今はすごくやりやすさは感じています。

――ブリーラムのチームのスタイルが合っている?
細貝 ブリーラムのスタイルが合っているというよりは、「日本ではない」というのがいいのだと思います。自分はプロになってからずっと、外国人監督のもとでプレーしていました。浦和レッズ時代はすべてドイツ人の監督で、ドイツとトルコでもずっとヨーロッパ系の監督。Jリーグに戻って、柏レイソルで初めて日本人の監督(下平隆宏、加藤望、岩瀬健の3氏)のもとでプレーしたんです。ヨーロッパの監督が求めるものと日本人の監督が求めるものは違っていて、とまどう部分がありました。もちろん適応することができなかった自分の問題なんですが、今までやってきたものとは違うな、という感覚がずっとあった。ブリーラムは今、モンテネグロ人の監督なので、自分にとってはやりやすい面があります。

――日本人の監督とヨーロッパの監督の「求めるもの」は、具体的にどう違うのでしょう?
細貝 言葉で説明するのは難しいんですが、一つは日本人の監督はどちらかというとポジショニングとかパスワークとかの練習をすることが多い。ドイツではそういったことは当然できているという前提で、対人や球際のところを意識して大胆にやるというか。日本では練習の段階から今までと違うものを感じていて、そのイメージで試合に入るとやっぱりうまくいかない、という繰り返しでした。あとは日本人は優しいので、悪い部分をあまり言ってくれない傾向もあるかもしれません。ヨーロッパの監督は「ここが悪いから使っていない」とはっきり言ってくれるので、自分としてはそちらのほうがやりやすかったというのもあります。

――日本でのそういった難しい状況があって、タイリーグへの移籍にもつながったのですね。
細貝 そうですね。サッカーが楽しく思えない状況で、初めて「サッカーを辞めようか」とも考えましたから。そんな中でブリーラムは去年の早い段階から興味を持ってくれて、オファーをしてくれた。これは環境を一気に変えられるいい機会だと感じました。ちょうど浦和時代の同期である赤星(貴文)や高校の同級生の青山(直晃)がタイリーグでプレーしていたので、彼らにも相談して。彼らも「ブリーラムならいいと思う」と言ってくれたので、移籍を決断しました。

2017年、柏レイソルに移籍。7年ぶりの日本復帰となったが「良さを出せなかった」と振り返る [写真]=Getty Images

ブリーラムの待遇は欧州レベル

――ブリーラムはタイを代表するビッグクラブです。チームの実力を含めた総合力の高さから、赤星選手や青山選手も「ブリーラムなら」と言ったのでしょうか。
細貝 そうですね。間違いなくタイリーグを代表するチームの一つですし、規模も大きなクラブだということで2人も勧めてくれたのだと思います。

――資金力もおそらくタイでトップのクラブですが、待遇面も魅力的なオファーだったのでしょうか?
細貝 金銭的な面はヨーロッパレベルに近い感覚だと思いますし、住居や車などの生活面のケアも含まれていて、しっかりとしたオファーをいただきました。もちろん待遇面だけで移籍を決めることはないですけど、ブリーラムの強化担当者がわざわざ日本に来て「これまで海外でやってきた経験も含めて、プレーを評価している」ということも伝えてくれ、誠意も感じました。サッカーの面でも待遇の面でもしっかりと評価してくれているので、結果を出さなければいけません。

――実際にプレーしてみて、ブリーラムというクラブについてはどんな印象を持っていますか。
細貝 もちろんレベルの低いチームではないですし、本当にいい選手もたくさんいます。おそらく他のクラブに比べてオーガナイズもしっかりしていると思う。2部リーグの選手の記事などを読むと、ビザの取得や給与未払いなどいろんな問題があるクラブもあるようですけど、今のところブリーラムではそういった問題も全くありません。

――ブリーラムはカンボジア国境に接するタイの田舎町ですが、生活面でも問題は感じませんか?
細貝 全く問題ないですね。タイの場合、日本のものは何でもありますから。ブリーラムでも、デパートに行けば食品はもちろん、化粧品でもシャンプーでもすべて日本のものがそろう。ヨーロッパではなかなか手に入らないので、妻も「こんなに日本のものがあるんだね」と驚いていました。住居もブリーラムのオーナーが選手やスタッフのために用意したものがあって、快適です。バンコクのように娯楽はないですけど、サッカーに集中できるいい環境だと思っています。

――環境面では気候の違いもあると思いますが、タイの暑さはプレーに影響がありますか?
細貝 タイの一番暑い季節である4月頃はけっこう厳しかったですね。タイのサッカーを映像で見ると、悪く言えば怠けているようにも見えていました。プレスに行かなきゃいけないところで行かなかったり、ボールを目の前にして奪いに行かなかったり。ただ、実際にタイでプレーしてみて分かったんですが、この気候だからああいうサッカーになっているところもあるのだと思う。この暑さで90分、毎回は行けませんから。もちろんサボっている場面もあるとは思いますけど、暑いからこういうサッカーをしているんだな、と。ただ、今は季節的にも少し涼しくなってきて、この気候が普通に感じるようになった。タイの暑さにも体が慣れてきたのを感じています。

取材後、ブリーラムは2019シーズンのリーグを2位、リーグカップを準優勝で終えた[写真]=Getty Images

タイの若手は欧州も狙える

――ひと通りのチームと対戦してみて、タイリーグのレベルについてはどう感じていますか。
細貝 これはちょっと難しいところがあって、Jリーグのようには力が拮抗していないんです。上位グループが5、6チームいて、中位、下位とあると思うんですが、下位グループとの対戦だと5-0、6-0といった試合もある。スコアは2-0でも先制してしまえば負ける気のしない展開だったりもするので、タイリーグのレベルはこう、とは言いにくいところがありますね。

――その中でブリーラムは当然、最上位グループになるわけですね。
細貝 ブリーラムについては、本当にレベルは高いと思います。今、タイ代表にも6人が呼ばれていて、ワールドカップ予選でも第2戦(敵地でインドネシアに3-0の勝利)では全員がピッチに立っていましたから。

――ブリーラムには今後のタイサッカー界を背負っていくような有望な若手が多くいますが、彼らがチャナティップのようにJリーグで活躍する可能性はあると思いますか。
細貝 能力的には間違いなく、J1リーグでもできると思います。もちろんチャナティップほどの活躍ができるかと言えば、監督との相性などもあると思うので簡単なことではないと思いますが。アタッカーのスパチャイ(ジャイデッド)に、スパチョーク(サラチャート)とスパナット(ムアンター)の兄弟、右サイドのナルバディン(ウィーラワットノドム)、左サイドのササラック(ハイプラコーン)あたりは普通にやっていける能力があると思います。

チームにはタイ代表に名を連ねるドリブラーのスパチョーク(右)を筆頭に、若手有望株がそろう [写真]=Getty Images

――先日のW杯予選のインドネシア戦でも2ゴールした20歳のスパチョークと、17歳のスパナットの兄弟は特に大きなポテンシャルを感じます。
細貝 スパチョークは今、タイ代表でも一番いいんじゃないですかね。今シーズンの中でも成長していますし。狭いスペースでも前を向くことができて、力強いドリブルを仕掛けることができるようになった。相手にとってはすごく嫌なプレーなので、僕も「少しでもスペースがあったら前を向け」と彼にはずっと言ってきました。弟のスパナットも、17歳とは思えない高い能力を持っています。自分が17歳のときを考えたら、信じられないレベルです。彼らがこれからどういう選択をするのか分かりませんけど、Jリーグはもちろん、ヨーロッパも狙える選手たちだと思います。

――細貝選手から彼らにアドバイスするようなこともありますか?
細貝 そうですね。彼らがより良くなるように、「こうしたらもっといいんじゃないか」といったことはよく伝えています。タイ人は優しいので、全体におとなしくてコーチングをしないところがあるんです。特にスパナットは能力はすごいんですが、おとなしいのでプレーも消極的になるときがある。もっと我を出したほうがいいと、彼には常に言っているんですが。自分も彼らも来シーズンはどうなるか分かりませんけど、少なくとも今シーズンは最後まで一緒にプレーすることになると思うので、少しでも彼らが良くなるようにアドバイスができればとは思っています。

――今シーズン、細貝選手は体調不良でAFCチャンピオンズリーグには出場できませんでしたが、来シーズンはアジアの舞台でも戦ってみたいという思いはありますか?
細貝 そうですね、素直にACLには出たいと思います。ACLで上のほうに行けばタイリーグのレベルもしっかりしているということが分かってもらえると思いますし、タイリーグの選手としてそこにトライしていきたい。ブリーラムはこれまでベスト8が最高成績なので、まずはベスト4を狙っていきたいですね。そのためにも今シーズン、絶対に国内のタイトルを取らなければいけません。

インタビュー=本多辰成

※この記事はサッカーキング アジアサッカー特集号(2019年10月号増刊)に掲載された記事を再編集したものです

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