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アジアにおけるJリーグの認知度は?…タイでの札幌戦の視聴率は国内リーグと同等以上

[写真]=Getty Images

[サッカーキング アジアサッカー特集号(2019年10月号増刊)掲載]

2012年より本格的にアジア戦略を推進してきたJリーグ。果たして、アジア各国ではどのように情報が展開され、どのくらい浸透してきているのだろうか。タイ人選手の躍動が珍しいものではなくなった昨今のJリーグにおいて、今シーズンはチャナティップ、ティーラトン、ティティパンの3選手がJ1でプレーする。Jリーグの戦略と選手たちの活躍は日本とタイの結びつきを年々強くさせており、その実績はデータにも明確に表れつつある。

今後もタイ人選手のニーズは高まっていくことが予想される

 Jリーグでタイ人選手がプレーすることは、今や普通のことになった。北海道コンサドーレ札幌を牽引する活躍を見せているチャナティップを筆頭に、昨シーズンはヴィッセル神戸、今シーズンは横浜F・マリノスに所属するティーラトン、今年新たに日本へやって来た大分トリニータのティティパンと、J1だけで3人のタイ人選手がプレー。昨シーズン、サンフレッチェ広島に所属していたティーラシンも含め、いずれも一定以上の戦力としてチームに貢献している。

 もともとタイ人Jリーガーの誕生は「アジア戦略」を推進するJリーグの後押しもあって実現したものだが、正直なところ、当初は日本よりも格下に位置するタイの選手たちがJリーグで戦力となるのかという懸念が少なからずあっただろう。

 だが、実際にプレーしてみればタイのトップ選手たちは十分にJ1基準の能力を備えていることが証明された。「提携国枠」の選手として外国人扱いされないというメリットもあるだけに、今後もタイ人選手のニーズは高まっていくことが予想される。

 Jリーグにおいて一つのトレンドとなりつつある「タイ人選手」。一方で、彼らの出身国であるタイにおいてJリーグはどう捉えられているのか。東南アジアはサッカーと言えばプレミアリーグが圧倒的な人気を誇ってきた地域だが、タイでは自国の選手たちの活躍によってJリーグにも一定の注目が集まるようになっているのだろうか。

「アジア戦略」を担当するJリーグ国際部は、2017年から定期的にタイにおけるJリーグの認知・興味度の変化などを把握するための調査を現地で行ってきた。その結果も検証しながら、今、タイでは「Jリーグ」がどんな存在としてあるのかを見ていきたい。

2017シーズンからJリーグでプレーするチャナティップ。札幌の主力として躍動する [写真]=Getty Images

チャナティップの札幌入りは認知度向上に大きな影響を及ぼした

 まず、前提としてタイにおけるサッカーの人気はどれほどのものなのか。これについては、以前からトップクラスの人気を誇るスポーツであったと言って間違いない。タイの伝統的なスポーツと言えばムエタイやセパタクローがあるが、これらは国技的な要素はあるものの人気面でトップに立つわけではない。

 今のタイにおける主な人気スポーツと言えば、サッカー、バレーボール、バドミントンの3つが浮かぶ。バレーボールは特に女子のレベルが高く、日本などと並んでアジアトップレベルの力があり、バドミントンに関しては女子の世界ランキングで1位になったこともあるラチャノック・インタノンを筆頭に世界の舞台でも存在感を見せている。

 Jリーグによる調査結果を見ても、この3種目が「スポーツ競技興味度」の項目でトップ3を占めており、2018年12月の最新データでは1位がバレーボールで87パーセントの人が「興味がある」と回答。サッカーもほぼ同等の数字で86パーセントを獲得して2位、バドミントンが80パーセントで3位と続いている。「とても興味がある」との答えに限ればサッカーが58パーセントでバレーボールの49パーセントを抑えてトップとなっており、数字からもサッカーはタイにおける最大の人気スポーツと言ってもいいだろう。バレーボールやバドミントンと比べればサッカーは国際舞台での活躍度は劣っているものの、逆に言えば純粋に競技自体が関心を持たれている度合いは最も高いのかもしれない。

 とはいえ、国内のサッカーにも興味が注がれてきたかと言えば、以前はそうではなかった。前述したように東南アジアではプレミアリーグの人気が圧倒的であり、タイも例外ではない。タイも含めて東南アジア諸国は近年になってようやく国内リーグが発展を遂げてきた段階にあるため、それ以前はプレミアリーグを筆頭とするヨーロッパのトップリーグに対抗できる存在ではなかったのだ。

 それでも、2010年代に入ってからはタイリーグの隆盛ぶりが顕著で、2010年代の半ばにはタイ国内のある調査でタイリーグの人気がプレミアリーグを上回ったというデータも出ている。これは画期的なことであり、他の東南アジア諸国に先駆けた現象と言えた。Jリーグによる調査でも「リーグ・試合の認知/関心度」の項目を見ると、タイリーグの認知度や関心度はかなり高いことが分かる。認知度92パーセントは、93パーセントでトップのプレミアリーグと変わらない数字。関心度になるとややプレミアリーグとの差が生まれるが、それでも77パーセントの人が「関心がある」と答えている(プレミアリーグは83パーセント)。

 そういった背景の中で近年はタイ国内でサッカー選手のステータスが上がり、トップ選手たちはスター扱いを受けるようになった。Jリーグの調査によればタイ代表のスター選手であるチャナティップのタイ国内での認知度は札幌に移籍した2017年7月の時点で72パーセントあり、国民の大部分が知っている存在であったと言える。

 当然、タイのサッカーファンでチャナティップを知らない者はおらず、Jリーグへの移籍はメディアでも大々的に扱われた。移籍後、札幌での初練習の風景はJリーグのタイ語版フェイスブックページでライブ配信され、1万5000人が視聴。再生回数は103万回を数え、計332万人にリーチしている。移籍そのものが大きな注目を集めたチャナティップの札幌入りは、その後の大活躍もあってタイでのJリーグ認知度に大きな影響を及ぼすこととなった。

高まるJの認知度と関心度。リーガやブンデスにも迫る水準へ

 チャナティップのJリーグ移籍が強い追い風となり、その直前の2017年6月からタイでのJリーグ放送が開始された。現在、放送権を持つのはタイの大手放送局「TRUE」で、テレビとインターネットで毎節4試合をライブ中継。札幌の試合は地上波でも無料で全試合放送されており、チャナティップの出場試合は誰でも視聴可能な環境となっている。海外放送用のカードは節ごとにJリーグが選定しているが、「アジア戦略」の重要拠点であるタイでのニーズを重視して、現状、札幌戦に関しては毎節必ず組み込んでいるという。

 日本とタイは2時間の時差があるため、Jリーグの試合中継はタイでは日中のやや早い時間帯となることが多いのだが、視聴率は好調で札幌の試合に関してはタイリーグと同等以上の視聴率がある。昨年8月19日の川崎フロンターレと札幌の一戦は、タイ時間17時といういい時間帯のキックオフであったこともあり、1パーセントを超える視聴率を記録して約40万人が視聴した。ブリーラム・ユナイテッドやムアントン・ユナイテッドといったタイの人気クラブの試合でも通常1パーセントを超えることはないから、かなりの高視聴率と言える。

ティーラトンはJリーグ2年目の2019年シーズン、横浜FMでリーグ優勝を経験 [写真]=J.LEAGUE

 チャナティップを始めとするタイ人Jリーガーたちの活躍で、タイにおけるJリーグ全体の認知度や関心度は確実に高まっている。Jリーグによる調査結果でも、Jリーグの認知度はチャナティップが札幌に加入した2017年7月の時点で55パーセントだったのが、2018年12月には66パーセントまで上昇。この数字は90パーセント台の認知度を誇るプレミアリーグやタイリーグとは差があるものの、リーガ・エスパニョーラ(74パーセント)やブンデスリーガ(73パーセント)には迫る水準となっている。また、アジアの他のリーグを見ても韓国のKリーグは37パーセント、中国スーパーリーグは35パーセントと、アジア内ではJリーグがダントツの認知度を誇っている。

 Jリーグの公式YouTubeチャンネルの登録者は現在、約2割がタイ人ユーザーで、Jリーグにとってタイ市場はすでに欠かすことのできないものとなりつつある。タイ人Jリーガーが所属するクラブやホームタウンの都市(札幌、神戸、広島など)も認知度が急上昇しており、サッカー観戦を目的とした日本観光も増えているという。また、タイでの販売促進を狙う日本企業がチャナティップを広告塔として起用する事例なども生まれている。Jリーグの目指す「アジア戦略」が見事に形になろうとしているのが今のタイだ。

 さらに興味深いのが、選手自身の知名度もJリーグへの移籍によって急上昇していること。札幌移籍時に72パーセントだったタイ国内でのチャナティップの知名度は、2018年12月には94パーセントにまでアップした。ティーラシンも広島移籍前は79パーセントだったのが91パーセントとなり、ティーラトンも75パーセントから92パーセントへと大幅に認知度を上げている。

3名ともタイリーグに所属している頃から有名な選手であったが、Jリーグに活躍の場を移したことでサッカーの枠を超えて、すべてのタイ人が知るレベルの選手となったと言えそうだ。アジアトップレベルのリーグであるJリーグでのプレーは、タイ国内における選手のブランディングにもつながっている。

文=本多辰成

※この記事はサッカーキング アジアサッカー特集号(2019年10月号増刊)に掲載された記事を再編集したものです

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