2019.10.30

【サッカーに生きる人たち】視聴者に楽しんでもらうために|北川義隆(実況・アナウンサー)

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インタビュー・文=赤坂慎太朗(フロムワン・スポーツ・アカデミー2期生)
写真=兼子愼一郎

「ダニエレ・デ・ロッシの引退試合は、試合前から思わず涙がこぼれました。引退するということだけではなく、様々な想いが込み上げてきて……」

 そう語るのは、DAZNでセリエAを中心に実況を務める北川義隆(きたがわ・よしたか)さんだ。生粋のロマニスタである北川さんは、実況は公正・公平でなくてはならないという固定概念を覆した第一人者でもある。

 サッカーと本格的に関わるようになったのは、高校時代だという。中村俊輔(横浜FC)や本田拓也(モンテディオ山形)の母校でもある桐光学園に通っていたが、サッカー部に所属していたわけではない。高校時代の夏にイタリアに短期留学し、ローマで幹部を務めていた経験のある方の家にホームステイをしたのがきっかけで、筋金入りのロマニスタになった。北川さんは初めて訪れたローマで、日本とイタリアのサッカー文化の違いを感じた。

「最近は、日本でもサッカーが生活の一部になりつつありますが、盛り上がるのは週末の試合があるときだけです。でも、イタリアにはサッカー専門のラジオ局があり、出演者が一日中サッカーの話をしているんです(笑)。日本ではサッカーだけでなく、野球やバスケットボールなども人気がありますが、イタリアで盛り上がる競技と言ったらサッカーで、スタジアムには必然的に人が集まります。ローマダービーは特に盛り上がりますよ。試合翌日には負けたほうのサポーターの家の外壁が相手チームの色に塗り替えられることもあります。日本ではそんなことはありえないですよね」

実況する際に心がけていること

 試合中、選手の名前を言ったり、ボールを追ったりすることは誰にでもできると北川さんは言う。

「基本的に自分の好きなチームは見るけど、格下や自分の好きなチーム以外は見ないという方が多い。そういう方にどうやって興味を持ってもらえるか、毎日悩みます」

 北川さんは、視聴者の声に耳を傾けながら、日々実況のスタイルを試行錯誤している。選手の友達や彼女、奥さんのSNSをチェックしていると、選手が口にしないような情報が入手できるという。

「選手の名前を追っているだけでは、視聴者は飽きてしまいますからね(笑)。多方面の方に食いついてもらえるような実況を心がけています。今はアナウンサーよりファンのほうがいろいろな情報を知っている時代です。ちょっと知らないだけでファンに袋だたきに合ってしまう(笑)。だからコアなファンにも受け入れてもらえるよう、日々たくさんの情報をインプットしています」

実況を担当し、心に残った試合

 数々の試合の実況を担当してきた北川さんには、特に印象に残った試合が2つある。1つは、中田英寿がローマに所属していた00-01シーズンのアウェーでのユヴェントス戦だ。当時はEU圏外の選手枠に制限があり、中田は出場機会が限られていた。しかし、ユヴェントス戦が行われる数日前にセリエAのルールが改定されたことで、その制限は緩和された。ファビオ・カペッロ監督はその試合でキャプテンのフランチェスコ・トッティと中田を交代させると、中田は監督の期待に応える1ゴール1アシストの大活躍。日本人選手がイタリアの名門のスクデット獲得に大きく貢献した。

 もう1つが、冒頭のデ・ロッシの引退試合だ。デ・ロッシは昨シーズンをもって、18年間プレーしたローマに別れを告げた。

「私自身の思い出もあり、思わず実況中に涙してしまいました。引退という寂しさだけでなく、引退後にスポーツダイレクターを務めていたトッティまでもがチームからいなくなるのではという噂が耳に入っていたんです。さらに、シーズン途中に、それもたった3カ月間という異例の契約を交わしたクラウディオ・ラニエリ監督への処遇についても納得がいかず、番組を通して、チームのバンディエラやローマ人としての血を引く監督に対して配慮が欠けているのではないかというメッセージをクラブの幹部へ送りました」

 北川さんにとって、この2試合は実況した試合としてだけではなく、ロマニスタとしても忘れられない試合になったに違いない。

セリエAの注目度を上げるには

 近年、プレミアリーグ、ブンデスリーガ、ラ・リーガに比べ、セリエAの人気が落ちてきている。この状況を打破するには、どうしていくべきか。20年以上もセリエAを愛する北川さんはこう話す。

「とにかく、強くならなければいけません。そして、ユヴェントスの独走を他のクラブが食い止めなければいけない。有名な選手を獲得するのも一つの手段です。クリスティアーノ・ロナウドがユヴェントスに移籍してもいまいち盛り上がりませんでしたが、それはユヴェントスだからです。インテルやナポリがもっと優勝争いに食い込んでこないといけないと思います。将来的には、チャンピオンズリーグの4強がすべてイタリアのチームになるくらい強くなってほしいです」

 北川さんの言葉からは、セリエAに対する熱い気持ち、そして復活への期待がにじみ出ていた。

実況・アナウンサーとしてのこれから

 ロマニスタとしての市民権を得た北川さんは、これからどんなチャレンジに挑むのか。

「他のリーグの実況もやってみたいです。もちろん、最低でも1年ほど準備期間は必要ですけどね。ローマのように、Jリーグのある1クラブの名物アナウンサーになってみたいです(笑)。Jリーグでは特に、アナウンサーは公正・公平でなければならないという風潮が強いですが、時代は変わっていくはず。セリエAの実況を疎かにはせず、新たな挑戦もしてみたいと思っています」

 実況という仕事、そしてローマに情熱を注ぎこむ北川さんならではの回答だった。

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