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【インタビュー】ジェラール・ピケ「誇りある限り」

2018.04.24

無敗のままリーグ首位を走るバルセロナの中で、ジェラール・ピケの実力は改めて高く評価されている。自信を失うこともなく、慢心することもなく―。派手な攻撃陣の陰に隠れがちだが、彼もまたバルサを支える貴重なリーダーの一人だ。
インタビュー・文=ホセ・フェリックス・ディアス 翻訳=高山 港 写真=ゲッティ イメージズ
[ワールドサッカーキング 2018年5月号]

 ジェラール・ピケに話を聞くのは、それがわずかな時間だったとしても楽しい仕事だ。彼はあらゆる質問に答えてくれる。どんなテーマについても明確な考えを持ち、それを遠慮なく、ストレートに言葉にしてくれる。

 その結果として、ピケはしばしば面倒な論争に巻き込まれ、批判を受けたりする。しかし、それはプロの選手として軽率な言動ではなく、むしろ逆だと彼は考えている。「プロフェッショナルとして自然に行動しているだけだ。僕は周囲の反応を気にして言いたいことを我慢するようなタイプじゃないし、言うべきことは言う。だけど、理由もなく誰かを傷つけるような発言はしていないよ」

 その意思は、彼が常にリーダーの立場を自覚してきたことと関係があるのかもしれない。

 バルセロナのカンテラで育ったピケは、10代でマンチェスター・ユナイテッドに移籍し、2008年に古巣へ戻った。当時21歳だった青年は、今年の2月で31歳になった。10年間で6度のリーグ優勝を達成し、チャンピオンズリーグも3度制覇。その間、彼はチームを統率するリーダーとして、常に重要な役割を果たしてきた。今シーズンは彼にとって7度目となるリーグ優勝の可能性も高い。

 まずは、現在のバルサの好調ぶりについて質問を向ける。ピケの言葉はいつにも増して、自信に満ちているように思えた。それだけ今のチームに手応えを感じているのだろう。

ネイマールがレアルに行っても僕は驚かない

――昨シーズン、バルサはコパ・デル・レイの1冠に終わり、ルイス・エンリケ監督が退任した。今シーズンのバルサには懐疑的な見方が多かったけど、ラ・リーガでは首位を独走し、30試合が終了した現時点でいまだ無敗をキープしている。好調の理由は何だろう?

ピケ フットボールとはそういうものだよ。君たちは、昨シーズンのバルサは大失敗だったと思っているかもしれないけど、実際は優勝したレアル(マドリード)とわずか3ポイント差だった。逆に今シーズンは僕たちが首位にいるとはいえ、周りが言うほど簡単なシーズンを過ごしているわけじゃない。特に序盤戦は納得のいくフットボールができていなかった。ただ、シーズンが進むにつれて(エルネスト)バルベルデ監督のやり方が浸透してきたし、自信も生まれてきている。

――今シーズンから就任したバルベルデ監督は従来の4-3-3ではなく、4-4-2を基本にしている。典型的な4-4-2とは違うように見えるけど、どういうコンセプトのシステムなのだろう?

ピケ 確かにバルベルデはシステムを変えたけど、選手の個性に合わせた修正だ。基本的なコンセプトに変化はない。ポゼッションで優位に立ち、レオ(リオネル・メッシ)の能力を生かすフットボールだよ。ただ、4-4-2の場合は、ある程度守備的にプレーしながら、レオと(ルイス)スアレスのスピードを生かす戦い方もできる。試合状況と相手によるけど、戦術の幅が広がるのはポジティブなことだ。最近は(フィリペ)コウチーニョが加わって、(ウスマン)デンベレがケガから復帰したから、再び4-3-3も使えるようになったしね。

――開幕前は、バルベルデ監督の手腕を疑う意見が多かったね。

ピケ 最初はクラブの中にもそういう雰囲気があったけど、バルベルデはすぐにそんな空気を払拭した。彼はまず、一つの“チーム”として戦うことを徹底したんだ。僕たちはチームで攻め、チームで守る。それはバルサが本来大切にしていた哲学でもある。バルベルデは成功を焦ってはいなかったようだけど、すぐに信頼できる人間だと分かったし、ピッチで結果が出たことも大きかった。勝利を重ねることによって選手も自信を回復することができた。

――2トップを採用したのは、ネイマールを放出したからだろう? 彼の移籍をどう思っている?

ピケ 僕は開幕前、ツイッターにネイマールと肩を組んだ写真を載せた。実はその時点で、バルサを出ていくことは知っていたんだ。彼は親友だからね。だけど、バルサのファンの一人としては、すごく残念な決断をしたと思う。ファンが怒る気持ちも理解できるよ。ただ、ネイマールはバルサに忠誠心がなかったわけじゃない。同じプレーヤーとして彼の気持ちは分かるし、ネイマールが去ってもバルサはバルサだ。一人の選手よりもクラブのほうが重要だよ。

――ネイマールを放出したことで、結果的にチームの団結力が増した、ということはない?

ピケ 違うと思う。ネイマールが自己中心的なプレーヤーだという意見は間違いだ。彼は少なくとも、バルサにいた間は完璧なチームプレーヤーだったし、あらゆる状況に対応できる選手だった。確かに今のチームは団結できているけど、それはネイマールの移籍とは関係ないことだ。むしろバルベルデの就任が大きかったね。彼はあくまで組織的にプレーすることを重視しているし、選手がグループで動くための戦術やアイデアも豊富に持っている。

――ネイマールについては、近いうちにレアルに移籍するという話も出ているけど……。

ピケ フットボールの世界では不可能なことはない。実際、ネイマールはバルサからパリ・サンジェルマンに移籍したわけだからね。僕たちはプロのフットボール選手だから、いろんな条件でチームを変えることはやむを得ない。僕自身、若い頃はイングランドでプレーしていたし。ネイマールがレアルに移籍したら残念だけど、もしそうなったとしても僕は驚かないよ。

バルサの選手として必要なすべてを学んだ

――ここで少し、君のキャリアを振り返ってみたい。君はバルサのカンテラで育ち、10代でマンチェスター・Uに移籍した。当時、今のようにバルサに戻ってプレーすることになると考えていた?

ピケ まさか。僕はユナイテッドで成功したかったし、できるという自信もあった。17歳でイングランドに渡った決断を後悔したことはないよ。タフな環境だったけど、僕はあのクラブでプロのキャリアをスタートさせたし、リオ・ファーディナンドのような選手と一緒に練習できたのはラッキーだった。ただ、当時の僕はユナイテッドで4番手か5番手のセンターバックだった。まさかバルサが僕を欲しがるなんて思うわけないよね(笑)。

――しかし2008年、バルサの監督に就任したジョゼップ・グアルディオラは君をバルサに連れ戻した。何を評価されたんだろう?

ピケ いや、重要な役割を果たしたのは、ペップ(グアルディオラ)のもとでアシスタントを務めていたティト・ビラノバだよ。彼は僕やレオ、セスク(ファブレガス)がカンテラにいた頃の監督だった。彼がペップに「ピケを獲得するべきだ」と薦めてくれたんだ。ティトには感謝してもしきれない。彼はカンテラ出身のプレーヤーを本当に信頼していたんだ。

――なるほど。バルサのカンテラ、いわゆる“ラ・マシア”では何を学んだ?

ピケ ラ・マシアでは、バルサの選手として必要なすべてを学んだ。ボールの扱い方、プレーの考え方、仲間を思いやること、フェアであること、対戦相手を尊重すること……。バルサの哲学をすべて教え込まれるんだ。その中でも重要なのは人としての教育だと思う。ラ・マシアでプレーする全員が成功できるわけじゃない。トップチームに上がれるのは数人だし、フットボールを諦めなくちゃいけない選手もいる。厳しい環境だからこそ、仲間を信頼するようになるし、真剣に学ぶことが何より重要だと教えられるんだ。実際、ラ・マシアでは学業の成績が悪い選手は試合に出してもらえなかった。あれはいい仕組みだったと思うよ。バルサのカンテラが他のクラブと違った評価を受けているのは、そういうところにも理由があるんじゃないかな。

――とはいえ、この数年はラ・マシアから有望な若手が出てきていない。何か原因があるのだろうか?

ピケ ラ・マシアの哲学はずっと変わっていないし、今でも常にいいプレーヤーが育っている。ただ、彼らがチャンスを得るためには、トップチームにそれだけの余裕がなければいけない。すべてのポジションがワールドクラスの選手で埋まっていたら、若手が伸びるためのチャンスはどうしても限られてしまうからね。タイミングも大事になるし、監督の手腕も求められる。だけど、そういったバルサの哲学は、バルベルデも理解しているはずだ。心配しなくても、すぐに有望な若手が出てくると思うよ。

ワールドサッカーキング最新号『バルセロナ-異端の美学-』では、ジェラール・ピケが、世代交代の必要性が高まっているバルサの未来、さらにカタルーニャ自治州の独立問題についても自身の思いを語ります。

 今シーズン、コパ・デル・レイを制し、リーグ優勝にも王手かけたバルサの“今”を知るためにも必読です!

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