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アリソン 特別な足で、特別な道へ【雑誌SKアーカイブ】

[サッカーキング No.002(2019年5月号)掲載]

昨シーズン終了後、リヴァプールのファンなら誰もがこう思ったはずだ。
「チャンピオンズリーグ決勝のことなんか二度と思い出したくない」
だが、アリソンが新守護神となった今シーズンは、あのキエフでの悪夢を追い払えるかもしれない。
彼らの目の前には、待ちに待ったプレミアリーグのタイトルがあるのだから──。

インタビュー・文=フェリペ・ロシャ
翻訳=加藤富美
写真=ゲッティ イメージズ

 見ず知らずの人とエレベーターで二人きりになったとき、あなたならどうするだろうか。用もないのにスマホを取り出したり、1秒でも早く着かないかと階数ランプを見つめたりして、その場をやり過ごそうとするはずだ。だが、その相手が、昨年7月に6700万ポンド(約97億円)の大金と引き換えにローマからリヴァプールへやってきた、26歳のセレソンだったら?

 アリソンと私は、ロンドンの街中にあるホテルのエレベーターに乗り合わせた。インタビューのために押さえておいた5階の部屋に向かう数十秒の間に軽く挨拶を交わし、彼は「2日前に首を寝違えたんだよね」とつぶやく。前の晩、エミレーツ・スタジアムで行われたウルグアイとの国際親善試合で好セーブを連発していたから、そのケガが重症でないことはすぐに分かった。ルイス・スアレスのFKを止めたシーンは見事だったと伝えると、彼は照れたような笑顔で「サンキュー」と答えた。

 エレベーターの扉が開くと同時に“プレインタビュー”は終わる。本番はここからだ。

GK一家の少年が試合に出られなかった理由

 アリソンの体には、「GKの血」が脈々と流れている。彼の祖父は1940年代に地元のアマチュアクラブでGKとしてプレーし、父親のホセ・アゴスティーニョも、週末は同じクラブでゴールマウスを守った。兄のムリエルは現在、ポルトガルのベレネンセスで背番号「1」をつけている。ここまではよくあることかもしれないが、母親のマガリまでもがハンドボールのチームでGKを務めていたとなれば話は別だろう。

「毎週末、父のプレーを見ていたよ。それから兄がプロの選手になって、練習にはいつもついて行った。GKの練習は見ていておもしろかったよ」

 アリソンが生まれ育ったブラジル南部のポルト・アレグレ郊外にあるノヴォ・アンブルゴは「靴の街」として有名で、叔父のパウロは製靴業に従事していた。

「いつも叔父お手製のスパイクを履いていたよ。最高の品質だった。僕は家族に恵まれていたと思う。今でも、ピッチに足を踏み入れる瞬間は家族のことを自然と思い出すんだ」

 アリソンにとって、5歳年上の兄は常にお手本のような存在だった。ムリエルは、ブラジルでは有名なU-15の大会コパ・ニケで最優秀GKに選出された。兄がトロフィーを持ち帰った夜、アリソンは同じ栄冠を勝ち取ることを心に決めたという。

 しかし、兄と同じインテルナシオナルのユースでプレーしていた頃、アリソンの名前が一番に挙がることはなかった。それどころか、控えメンバーから漏れることも多く、コパ・ニケには出場できなかった。インテルナシオナルで7年間アリソンを指導したGKコーチのドゥルグ・ヴィダルは、当時をこう振り返る。「時々、彼の父親から電話がかかってきた。『ウチの息子がメンバーに選ばれなくて泣いている。何かしでかしたのか? どうして試合で使われないんだ?』ってね」

 アリソンの出場時間が限られていた理由は、“成長スピード”にあった。15歳のアリソンはチームのGKの中で最も身長が低く、横幅にも問題を抱えていた。食べ盛りの少年にとって、ジャンクフードは最大の敵だったようだ。

 ヴィダルは「こんなこともあった」とつけ加える。「アウェー戦があった日、試合前に自由時間があったんだけど、彼は街中でチョコレートとビスケットが入った大きな袋を持っていた。僕に気がついたあと、無言で袋を渡してくれたよ(笑)」

 体型に変化を感じられるようになったのはコパ・ニケのメンバーから落選して数カ月後のことだったのだから、なんとも皮肉な話だ(彼の身長は1年間で17センチも伸びた)。

確約されたはずの正GKの座が“おあずけ”に

 16歳になったアリソンはインテルナシオナルとプロ契約を結び、2013年2月、ドゥンガのもとで初出場のチャンスをつかむ。先発に定着するチャンスが巡ってきたのは2014年10月。ミランで長年プレーし、日韓ワールドカップでブラジルの優勝に貢献した大ベテランのジダが前節のシャペコエンセ戦で退場処分を受けて出場停止となり、二番手のムリエルがケガに見舞われたタイミングだった。ムリエルは自身の離脱を悔やむより、新守護神の誕生を心から喜んでくれたという。

「兄をプロとしても人としても尊敬している。僕の前を歩んで道を切り開いてくれたからこそ、ここまで来ることができたんだと思う。本当に感謝しているよ」

インテルナシオナウ在籍時のアリソン(左)と兄のムリエル(右)。約3年間、同じチームで切磋琢磨した[写真]=Getty Images


 2015年10月には、前年から2度目の代表監督を務めていたドゥンガのもと、ロシアW杯南米予選のベネズエラ戦で代表初キャップを飾り、ブラジルを3-1の勝利に導いた。

 目覚ましく成長するアリソンには、数多くのビッグクラブが興味を示した。

「ローマに決めたのは僕自身だ。ユヴェントスからもオファーがあったけど、そこへ行けば(ジャンルイジ)ブッフォンとポジションを争うことになる。憧れの選手だし、彼から学べるチャンスを逃したのは大きなことかもしれないけど、自分のキャリアを考えたときに、主力として試合に出続けられる可能性が高いクラブを選ぶべきだと思った。ローマへの移籍はベストな判断だった」

 当時、ローマで正GKを務めていたヴォイチェフ・シュチェスニーはレンタル元のアーセナルへ戻り、アリソンがその座を引き継ぐことになっていた。しかし、予想外の事態が起こった。16-17シーズンの開幕から公式戦10試合で1勝という無残な結果を受けてリュディ・ガルシアが解任されると、新監督のルチアーノ・スパレッティがシュチェスニーのレンタル期間を1年間延長したのだ。結局アリソンは、「ドイツW杯を制したイタリアの守護神ブッフォンに次ぐ2番手」ではなく、「才能はあるが、パフォーマンスが安定しないシュチェスニーの後塵を拝する」ことになり、セリエAデビューシーズンは全38試合をベンチから見つめた。

「監督は『公平な機会を与える』、『練習でベストな状態にあるほうを使う』と約束してくれたけど、実際は違った。だけど昔、兄に『チャンスは必ずやってくるから努力を続けろ』と言われたことがあったから、諦めずに練習を続けたよ」

 クラブでの出場機会が限られていたことで、母国のメディアは容赦ない批判を浴びせた。だが、ドゥンガの後を継いだブラジル代表のチッチ新監督は彼に信頼を寄せ、代表に招集し続けた。アリソンにとって、代表でプレーすることは大きなモチベーションとなった。さらに、1994年のアメリカW杯でブラジルの優勝に貢献し、ブラジル代表のGKコーチを務めるクラウディオ・タファレルの存在は心の拠りどころとなった。

「何といっても、彼は安定感が抜群だ」。タファレルはそう評価する。「どんなに難しい場面でも、いとも簡単にやってのける。今後はさらに大きな成功を収めていくだろうし、世界のトップレベルに君臨し続けるはずだ」

 彼らの厚いサポートを得たアリソンは、ローマでの苦しい時期を乗り越えた。シーズンが終わると、シュチェスニーはアーセナルに復帰し、アリソンをベンチに置き続けたスパレッティはクラブを去った。そして新しい指揮官の座にエウゼビオ・ディ・フランチェスコが就いた。

ブラジル代表GKコーチのタファレルはアリソンの将来性について「今後はさらに大きな成功を収めていく」と太鼓判を押す[写真]=Getty Images

リヴァプールで新しい歴史を築きたい

 長い時間をかけて準備してきたアリソンはすぐに真価を発揮した。17-18シーズン、ローマはリーグ3位という好成績を残し、チャンピオンズリーグでは34年ぶりに準決勝に進出した。セーブ率は79.3パーセント。欧州5大リーグで彼を上回ったのは、マンチェスター・ユナイテッドのダビド・デ・ヘアとアトレティコ・マドリードのヤン・オブラクだけだった。

 準決勝の相手はリヴァプールだった。マージーサイドでの1stレグに臨む前、ディ・フランチェスコは準々決勝でマンチェスター・シティを下した彼らに対して、チームが掲げてきたフットボールを貫くよう鼓舞したという。

「攻めて、攻めて、攻め続けろ」と──。

 しかし、その作戦は裏目に出て、ローマは火だるまとなる。かつてのチームメートであるモハメド・サラーに2ゴールを許し、69分までに5点のビハインドを背負うことになった。試合終了間際にその差を「3」に縮めて2ndレグに望みをつなぐも、合計スコア6-7で敗退。アリソンにとってアンフィールドは悪夢の場所と化した。

「ローマにとっては本当に悲惨な夜だった。アンフィールドの雰囲気に圧倒されたよ。“サポーターは12番目の選手”。まさにその言葉のとおりだった」

5-2で敗れ「悲惨な夜」となったアンフィールドでのCL準決勝1stレグ[写真]=Getty Images


 シーズン終了後、アリソンのもとには再びビッグクラブからオファーが殺到し、最終的にはチェルシーとリヴァプールの一騎打ちとなった。

「ブラジルを後にしたときと同じように、リヴァプールを選んだのは自分自身だ。僕の夢はCLを制覇すること。チェルシーはシーズンを5位で終えたからCLで戦えなかったし、監督を変える予定があることも知っていた。今のリヴァプールなら、夢がかなえられると思った。CLでボコボコにされたときは、あの声援を自分が受けることになるなんて思ってもみなかったけどね(笑)。かつてヨーロッパを5度も制したこのビッグクラブで、新しい歴史を築きたかったんだ」

 準決勝でローマを下したリヴァプールは、6度目のタイトルをつかみかけた。しかし、GKロリス・カリウスの2度の致命的なミスにより、レアル・マドリードにその座を譲ることになる。キエフで行われたこの試合をテレビで見ていたアリソンは、同志の不運を気の毒に思ったという。

「GKのミスで得点が生まれたときは、他のゴールと同じように喜ぶことはできないよ。どれだけ絶望的な気持ちになるかが分かるんだ。彼の姿を見るのはつらかった。誰にだって起こり得ることだからね」

 ユルゲン・クロップ監督は表向きにはカリウスを擁護し続けていたが、彼が代役探しに本腰を入れるのも無理はなかった。リヴァプールがアリソンを獲得するというニュースが流れたのは、ブラジル代表がロシアW杯準々決勝で敗退した2週間後のことだった。

 クラブが彼の獲得に支払ったのは、GKとしては当時史上最高額の6700万ポンド(約97億円)。これがリヴァプールを選んだ大きな決め手になった?

「値札なんて気にしないよ。でも、多額の移籍金はいい仕事をしているっていう証拠だ。努力が認められたのは素直にうれしい」

 リヴァプールの新守護神は、初戦から期待以上のパフォーマンスを披露した。プレミアリーグの最初の15試合で失点数は、わずかに「6」。昨シーズンは同時期に20失点を喫していたのだから、クラブがアリソンに費やした6700万ポンドが“お買い得”だったと考えるサポーターがいても不思議はない。

 しかし、ここまで何の不都合もなくイングランドの生活に溶け込んでいるように見える彼にも、一つだけ問題があるという。

「ブラジルではアメリカ英語が使われているから、イギリス英語のアクセントに苦労している。チームには英語を母国語としない選手が多いからかえって分かりやすいけど、リヴァプール訛りの選手と会話するのは本当に大変だよ(笑)。もっと語彙を増やして、街中でも話せるようになりたい。それ以外は何も問題ない。日々の生活を楽しんでいるよ。イタリアに行ったときよりもスムーズになじめている。ここに来たことは、僕にとって大きなステップアップになったと思う」

プレミアリーグ制覇に向けて高まる期待

チームメートとの言葉の壁はあっても、クロップ監督との間に壁は存在しない[写真]=Getty Images


 ここ数年で、GKに与えられる仕事は革新されている。“モダンなGK”は失点を防ぐだけでなく、攻撃参加型の「スイーパー・キーパー」へと進化し、20年前と比べてはるかに大きなリスクを負うことになった。

 アリソンは「まるで11人目のフィールドプレーヤーみたいだよね」と首をすくめた。「不満や不安は全くないよ。90分間走り続けろと言われると自信がないけど……(笑)」

 彼がリヴァプールに来て犯した最大のミスは、昨年9月のレスター戦で起こった。63分、ペナルティエリア右隅でボールを足元でコントロールしたものの、FWのケレチ・イヘアナチョに奪われて失点を許した。

「監督はあのミスについて一言だけ声をかけてくれた。『君には解決策を見つけ出すことができる。その能力を信じろ』とね。味方にパスを出すか、クリアするか、その判断は僕に任されている。このクラブでは、ベストな結果を出せるようすべての選手が状況に応じて自分自身で選択する自由が与えられている」

 昨シーズンの冬にDFとして世界最高額の7500万ポンド(約109億円)で獲得したフィルジル・ファン・ダイクに始まり、昨夏はアリソンに加えてナビ・ケイタ、ファビーニョ、ジェルダン・シャキリも呼び寄せた。この間に費やした補強金額は2億5000万ポンド(約363億円)にも上る。サポーターを満足させるシーズンにするには、リーグを制覇するほかないだろう。

 しかし、昨シーズンに圧倒的な強さを見せ、プレミアリーグ初の勝ち点「100」で頂点に立ったジョゼップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティの無双ぶりを見れば、サポーターに不安が募るのも無理はない。インタビューが行われた11月中旬時点で、タイトルレースはシティに次ぐ2番手だ(第32節終了時点でもシティが1ポイント差でトップに立っている)。

「シティは昨シーズンよりもさらに強くなっている。でも、僕らだって同じだ。リーグ制覇を目指していることに変わりはないし、そのためのタレントはそろっている。とはいえ、地に足をつけて戦っていかなければならないことも理解している」

 アリソンは真剣な顔つきでそう話す。だが、今シーズンのアンフィールドに漂っている高揚感まで抑える必要はないだろう。今シーズン、チームはかつてないほどの充実ぶりを見せ、国内のみならずヨーロッパで驚異的な存在になりつつあるのだから……インタビューを終えてそんなことを考えていたせいだろうか、ホテルを出るために乗り込んだはずのエレベーターはノンストップで最上階に向かって上昇していた。

※この記事はサッカーキング No.002(2019年5月号)に掲載された記事を再編集したものです。

 

 

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