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変わりつつあるプレミアリーグ【雑誌SKアーカイブ】

プレミアリーグでは「国産化」と「若手化」が進んでいる[写真]=Getty Images

[サッカーキング No.007(2019年11月号)掲載]
1992年のリーグ発足、そして1995年の「ボスマン判決」をきっかけに、
選手や監督のグローバル化が進み、外国資本がそれをさらに加速させた。
おかげで世界一リッチなリーグにはなったが、同時に失われていったものもある。
だが、今シーズンはどうも様子が違う。プレミアリーグに今、何が起きているのだろうか。

文=ティム・リッチ
翻訳=田島 大
写真=ゲッティ イメージズ

 クリスティアーノ・ロナウドにPKを沈められ、ポルトガルの前に散った2006年7月1日、イングランドの“黄金世代”は息絶えた。

 主将のデイヴィッド・ベッカムを筆頭に、当時のチームにはスティーヴン・ジェラード、フランク・ランパード、マイケル・オーウェン、リオ・ファーディナンド、ギャリー・ネヴィル、アシュリー・コールといった名だたる選手がそろっていた。誰もが、2002年の日韓ワールドカップ、あるいはその4年後のドイツW杯で優勝を狙えると信じていた。

 しかし、実際のところはベスト8が限界だった。ゲルゼンキルヒェンでの敗戦後、ベッカムが腕章を返上し、黄金世代は解体されることになった。その後のイングランドはユーロ2008の出場権を逃し、再び本気で世界に挑戦できるようになるまで、10年の歳月を要した。

 そして2019年になった今、イングランド・フットボール界は新時代の幕開けを予感させる。ベスト4に入った昨年のW杯ですら、単なる序章にすぎない。そもそも“新生イングランド”が目標として見据えていたのはロシアではなく、2022年のカタールだ。幸いにも、この大会は11月~12月の開催になる。これまでのように他国より疲れ切って本大会に臨むこともない。何より、プレミアリーグや国外で台頭する新世代プレーヤーたちが全盛期を迎えているはずなのだ。今まさに、イングランドは“新しい黄金世代”を世に送り出そうとしている。

今季序盤戦の数字が物語る“国産化”と“若手化”

マンチェスター・ユナイテッドではワン・ビッサカ(左)、ラッシュフォード(中央)、ジェイムス(右)などが出場機会を獲得し、国産化と若手化が進んでいる[写真]=Getty Images

 手本としたのはドイツの復活劇だ。ユーロ2000で1勝もできずに(イングランドにも負けて!)散った彼らは、育成システムの見直しを図り、それから14年後には世界一の座を奪還した。あのドイツにできたのだ。イングランドにできないはずがない。

 これまでは、皮肉にも飛躍的なスピードで潤った国内リーグが足かせになっていた。2008年のチャンピオンズリーグ決勝戦はマンチェスター・ユナイテッドとチェルシーの「イングランド対決」だったが、代表チームはその年のユーロの出場を逃している。プレミアリーグにおけるイングランド人選手の割合が下降線をたどっていたからだ。

 07-08シーズン、プレミアリーグで一度でもスタメン出場した選手のうち、イングランド人はわずかに35パーセントだった。リーグが華々しく開幕を迎えた1992年が69パーセントだったから、およそ半分にまで落ち込んだことになる。さらに、イングランド代表がユーロでアイスランドに屈辱の敗戦を喫した2016年には、その数字が31パーセントにまで減少した。ユーロ2008で優勝を果たし、その後に一時代を築いたスペインはというと、2008年当時、国内リーグでプレーする自国選手の割合は62パーセントを誇っていた。

 だが、今シーズンのプレミアリーグは少し違う。開幕節の数字は37パーセント。10年前の水準を上回り、数字は回復傾向にある。さらに年齢に目を向けると、若い選手の台頭が見て取れる。今シーズンの開幕3戦の出場時間を年齢別に見ると、21歳以下の選手が10パーセントを占めている。これはプレミアリーグ史上、最高の数値だ。

 並行して、チームの平均年齢も急激に下がってきた。世界的なビッグクラブと言えるチェルシーやマンチェスター・ユナイテッドも例外ではない。プレミアリーグ第4節、シェフィールド・ユナイテッド戦でのチェルシーの平均年齢は24.5歳だった。先発には4名のイングランド人が名を連ねているが、25歳のロス・バークリーを除いたフィカヨ・トモリ、タミー・アブラハム、メイソン・マウントはすべて21歳以下の選手だ。

 その2週間前、ウォルヴァーハンプトンと1-1で引き分けたユナイテッドのスターティングメンバーには、6名の英国人(うち4名がイングランド)が名を連ねた。最年長のハリー・マグワイアでも26歳。以下、ルーク・ショー(24歳)、スコット・マクトミネイ(スコットランド/22歳)、マーカス・ラッシュフォード(21歳)、アーロン・ワン・ビッサカ(21歳)、ダニエル・ジェイムズ(ウェールズ/21歳)と続く。

アカデミーの存在意義は、制度対策とビジネスだった

マンチェスター・シティは2億ポンド(約260億円)をアカデミーに投資したが、台頭したのはフィル・フォーデンのみ[写真]=Getty Images

 もちろん、両クラブが代表強化を重要視したわけではなく、それぞれに若手を抜擢した理由がある。ユナイテッドは相次ぐ大物選手の不発により、オーレ・グンナー・スールシャールが自ら選んで国内の若手を優先し始めたから。

 一方でチェルシーには補強禁止という明確な理由がある。だが、これを好機に変えようと考えたのも事実だ。チェルシーは2010年から2018年まで7度もFAユースカップを制してきた。だが、その若手選手たちは一人たりともトップチームには定着できず、大半がローンに出され、知らぬ間にクラブを去っていった。ユースチームからトップチームへの門は閉ざされ、17-18シーズンには43名もの選手が他クラブへローンに出されていた。その重い門を開いた人物こそ、チェルシーにとって1996年以来、初めてのイングランド人監督となるフランク・ランパードだ。

 そう考えると、今シーズンは英国人監督の多さも目立つ。41歳のランパードやエディ・ハウから、最年長記録を持つ72歳のロイ・ホジソンまで、実に9名。これもまた近年では最多の数字である。彼らはコミュニケーションや自国愛などさまざまな理由から英国選手を優先する。監督の国産化もまた、イングランド人選手の増加につながっているのだ。

 一方で、アカデミーへの「投資額」と「若手台頭」は比例しているとは言い難い。マンチェスター・シティは2億ポンド(約260億円)もの資金をアカデミーに注入したが、2007年以降、“自前”の選手が一人もマンチェスター・ダービーに先発出場していない。「国産」のアカデミー選手でジョゼップ・グアルディオラに認められたのはフィル・フォーデンだけで、その彼ですらレギュラー定着にはほど遠い。

 では、これまでのアカデミー出身者には何が起きていたのか? ビッグクラブにとって彼らは、2015年に導入された「ホームグロウン制度」の対応策にすぎなかった。そして結局は“サラブレッド”の名札をつけられ市場に出され、高値で取引される。悪くないビジネスだ。過去4シーズンの“ビッグ6”に限っても、アカデミー出身者の売却総額は1億1400万ポンド(約148億円)にも上る。そのうちの半分以上の選手が、一度もトップチームの試合に出ることなく、青春を過ごしたクラブに別れを告げてきたのである。

現在のイングランドでは、先入観が覆りつつある

マンチェスター・シティとの契約更新を断ったサンチョがドルトムントで活躍したことで、プレミアリーグの国産若手化が進んだといえる[写真]=Getty Images

 しかし、それさえも「国産化」の波を後押ししている。10年前、「国外でプレーするイングランド人」と言われて頭に浮かぶのは、LAギャラクシーのベッカムくらいだった。現在、その数は増加の一途をたどり、1980年代後半に記録したピークを上回っている。かつては、国外の魅力的な給料に誘われ、欧州カップ戦から締め出されていたイングランドのクラブを離れる者が多かったが、今は違う。金はプレミアリーグにある。彼らは成長を求めて国外へ渡っているのだ。

 イングランドは2017年にU-17とU-20代表チームがワールドカップを制したが、U-17の大会直前にはジェイドン・サンチョ(ドルトムント)が、U-20の大会から半年後にはアデモラ・ルックマン(ライプツィヒ)がブンデスリーガの門戸をたたいた。さらに同世代のリース・オックスフォードもアウクスブルクでプレーしている。

 マンチェスター・シティとの契約更新を断り、チャンスを求めてドルトムントへ渡ったサンチョは、昨シーズンのブンデスリーガのベストイレブンに選出された。もし彼がシティにとどまっていたら、これほど早くA代表に定着することはなかっただろう。彼らのような前例によって、ビッグクラブも非凡な才能の流出を危惧するようになり、若手にチャンスを与えるようになった。そのことが、結果的にプレミアリーグの国産若手化に一役買っているのだ。

 もちろん、新しい黄金世代が“ベッカム世代”を超える保証などない。昨年のW杯ベスト4で足がかりを得たとはいえ、実際のところイングランドは強豪国を相手に結果は残せなかった。“極めて恵まれたグループステージ”を突破するも、クロアチアやベルギーのような実力者にはもれなく敗れた。さらに言えば、決してイングランドだけが世代交代に成功しているわけではない。優勝したフランスの平均年齢はイングランドと同じ26歳。大会2番目の若さだった。

 それでも現在のイングランドでは、伝統的な先入観が覆りつつある。これまで英国人といえば「パワー」と「スタミナ」だったが、FAの育成方針の改革によって他の強豪国に負けないテクニックを持つ若手が台頭してきた。シティのラヒーム・スターリングは、世界中のどのチームでも主軸を任されるはずだ。

 資金もあり、注目度も高いプレミアリーグでは、完成された選手が優遇されてきた。監督の任期が短命になるほど、目前の結果を求めて国外のスター選手に頼ることになる。アレックス・ファーガソンとアーセン・ヴェンゲルが若手を抜擢できたのは、その座が安泰だったからだ。

 だが、複数の条件が重なり、イングランドとプレミアリーグはすさまじいスピードで「国産若手化」へと移行しつつある。期待は、尚早かもしれない。だが、3年後のカタールW杯を待ち遠しく思うのは、きっと私だけではないはずだ。

※この記事はサッカーキング No.007(2019年11月号)に掲載された記事を再編集したものです。

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