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[湘南で生まれ、紡いでいく思い] 湘南ベルマーレが歩む道②

2017.05.18

[写真]=Getty Images

市民クラブとして「湘南ベルマーレ」が歩んできた道は、決して平坦なものではない。多くの喜びと悔しさ、そしてたくさんの涙を乗り越えて、たどり着いた今がある。「夢づくり、人づくり」を使命とするクラブが手にしたものと、これから追い求めていくものとはーー。
文=隈元大吾

Jリーグサッカーキング5月号[湘南ベルマーレ特集]共走-KYOUSOU-


今できるのはいい選手を育てて面白いサッカーを続けること

 ベルマーレは『SPRINT for 2025』と題し、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場などを見据えた2025年までの中長期計画を掲げている。タイトル争いに加わるためにもスカウトと育成のさらなる充実を図り、J1に定着することがまずは肝要だ。それには約15億円(15年度)の営業収益の底上げも欠かせないが、その前に「お金のかけ方が大事」だと坂本SDは説く。

「予算規模は一気には変わらないので、限られた予算をどう配分するか。トップチームの選手獲得に使うことはもちろん一つの方法だけど、例えば優秀な高校生を獲得し、ユースで育てることに費用をかけるとか、予算内でどうやりくりするかは“クラブ力”だと思うんですよ。なかなか難しいことではあるけど、予算がいくらだからうちは勝てないという発想になってしまったら何も面白くない。J1で8位まで行けたという15年の実績もあるし、いい投資を続けていれば予算30億のクラブにも勝てると思う。少し経営的な話ですが、他の経費を削ってもスカウトや育成にはお金をかけるという考え方をしていかなければいけないと思っています」

 限られたお金をどこに投資するか。ベルマーレが大切にする価値観は、例えばキャンプにも表れている。2011年と2013年はタイで、2014年と2015年はトルコでキャンプを張った。昨年は政情不安からやむなく国内に変更したが、海外キャンプを希望する指揮官の意向の下、今年は政情も鑑みてスペインに飛んだ。

 初めてトルコを訪れた際、眞壁会長はトレーニングマッチを観戦し、曺監督が海外キャンプにこだわる理由を理解したという。外国勢特有の激しい球際や勝利への渇望に対峙する経験は得難く、相手の情報が少ない中で選手たちの判断力も磨かれる。海外でキャンプを張れば当然国内のそれよりも費用は高くつくが、かといって倍に跳ね上がるわけではない。多くのJクラブが国内にとどまる中、他の経費を切り詰めてでも海外キャンプに投資する価値観がベルマーレでは大切に育まれている。

[写真]=Getty Images

 J1に定着し、「SPRINT for 2025」を実現するには、「当然チームを強くしていかなければいけない」と坂本SDは語る。

「曺さんに教わりたいと思って来てくれる選手は多い。それは素晴らしいことだけど、他にも、毎試合スタジアムが満員になって応援が熱いとか、クラブの理念に基づいて一貫したサッカーをしているとか、選手にベルマーレでプレーしたいと思ってもらえる魅力づくりをしていかなければいけない。クラブの体力をつけることはもちろん大事です。ただ、予算規模を30億に引き上げればACLに出られるわけではない。現場を預かる自分の立場としては、スタジアムが満員になるようなコンテンツをつくることが先だと思っています」

 スタジアムが満員になるコンテンツとは、端的に言えば、見ていて面白いサッカーだ。体現するにはそれを成し得る人材が欠かせない。スカウトと育成もこれに通じ
ている。

「人を育てることを大事にしたい」

 坂本SDは言う。

「我々が育てた人材が面白いサッカーをすれば、お客さんが集まりスタジアムは満員になる。ベルマーレでプレーしたいと選手も集まり、必然的にスポンサーも増える。そうした循環の中でチームは強くなり、クラブの規模も大きくなっていく。そういう順序で物事を考えた時、今、確実にできるのは、いい選手を育てて面白いサッカーを
やり続けること。抽象的だけど、それに尽きると思う」

 坂本SDは昨シーズン途中まで営業本部長を務めていた。営業としての目線は、現在のそれとは真逆と言っていい。すなわち当時は、チームの強化のために、予算規模を引き上げることを第一に考えていた。裏を返せば、一方の経験があるからこそ、今は「両輪があっていい」と語れるのだろう。

「営業の時は自分たちが頑張ればチームは必ず強くなれると思っていた。でもこのクラブをなんとかしたいと思う気持ちは当然フロントと現場の両方にある。それはお互いにそっぽを向いているのではなく、鶏と卵のたとえのように、それぞれの立場での目標が両輪として回っていればいい。クラブの規模をもっと大きくしていかなければいけないというのは、スタッフの誰しもが抱いている想いです。ただし、実際クラブが求める規模になった時に、現場もフロントもその規模にしっかり耐えうる人材になっていなければうまくいかないと思う。鶏と卵はどちらが先でもいいんですけど、僕は今こうして現場に携わっている立場として、見ていて面白いサッカーをやり続けることがいろいろな意味でクラブの体力をつけていくことにつながると感じています」

うちには有名な選手はいない。ここから有名になるのだから
日本サッカーのためにベルマーレができること

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