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[湘南で生まれ、紡いでいく思い] 湘南ベルマーレが歩む道①

2017.05.18

[写真]=神山陽平

市民クラブとして「湘南ベルマーレ」が歩んできた道は、決して平坦なものではない。多くの喜びと悔しさ、そしてたくさんの涙を乗り越えて、たどり着いた今がある。「夢づくり、人づくり」を使命とするクラブが手にしたものと、これから追い求めていくものとはーー。
文=隈元大吾

Jリーグサッカーキング5月号[湘南ベルマーレ特集]共走-KYOUSOU-


うちには有名な選手はいない。ここから有名になるのだから

 リーグでも指折りの彼らの足を止めたのは試合終了の長い笛だった。2016年10月22日、NACK5スタジアム大宮で試合に臨んだ湘南ベルマーレは2-3で大宮アルディージャに敗れた。勝ち続けなければあとがない状況下、ベルマーレにとってこの日のホイッスルは、ただゲームの終わりを教えただけではなく、J1残留の可能性が断たれたことも同時に告げていた。

 1999年の存続危機を乗り越え、「ベルマーレ平塚」から運営を移行して発足した「湘南ベルマーレ」は2000年、親会社を持たない市民クラブとしてJ2を舞台にリスタートを切った。最初にJ1に復帰したのは反町康治監督(現松本山雅FC監督)が指揮を執った2010年だ。翌2011年には再びJ2を戦うが、2012年に就任した曺貴裁監督の下で昇格し、2013年もJ1に挑んだ。降格を経て再昇格した2015年にはリーグ年間8位の成績を収め、初めてJ1残留を果たした。だが昨シーズンは途中10連敗を喫するなど苦しみ、くだんの大宮戦を迎えたのだった。

 ベルマーレのJ2降格は、曺監督の下では2度目、近年では3度目を数える。要因は様々であろうが、「J1に定着するだけの力がまだなかったということだと思う」と、強化を取り仕切る坂本紘司スポーツダイレクター(SD)は率直に振り返る。

「それは選手や現場のスタッフだけでなくクラブ力の問題。例えばJ1で年間8位まで行ったシーズンの翌年にどんなことが起こりうるのか。活躍した選手にオファーが来て引き抜かれることや、戦い方を相手に研究されること、2年連続J1を戦う経験値も含めて、J1に定着できるだけの力がクラブとしてトータル的に足りなかった。あくまで僕の感覚ですけど、それがベルマーレの現在地かなと思います」

 上がったり下がったりするさまを指して、俗にエレベータークラブと言われることがある。近年の成績だけを目で追えば、現在のベルマーレもそう評されるのかもしれない。毎年継続して結果を残し、J1に定着するには、たしかにクラブの総合力はまだおぼつかない。

 ただ、近年の3度の降格は、3度の昇格があったからこそ成り立つとも言える。その歩みを掘り下げても、年間3勝に終わった2010年から結果とは裏腹にシーズンをとおしてチームの成長を感じさせた13年、圧倒的な成績でJ2を制した2014年を経て、8位にとどまり、初めてJ1残留を果たした2015年と、過去に学びながらクラブは着実に前進している。2000年から2012年まで13年間にわたりベルマーレでプレーした坂本SDも、「上がって下がっての繰り返しをネガティブに言う人もいるけど、確実に階段を上っていると思います」と語る。

[写真]=Getty Images

 昨シーズンもまた然りだ。初めてJ1での2年目を迎え、1年目よりも高い相手の温度や自分たちに対する研究を体感した。トップリーグに定着するために越えなければならない次なる壁を知ったことは、未来への財産に違いない。

 時に万年J2とも揶揄された2000年代の歩みを思う。茂庭照幸(現セレッソ大阪)や石原直樹(現ベガルタ仙台)、中里宏司(引退)、村山祐介(引退)など、生え抜きを含めベルマーレでプロのキャリアをスタートさせてJ1のクラブに移籍する選手は毎年限られていた。ましてや一度に複数の選手が引き抜かれることなどなかったが、曺監督の指導の下、若手の成長著しい近年は様子が違う。15年のオフには永木亮太(現鹿島アントラーズ)や遠藤航(現浦和レッズ)、古林将太(現名古屋グランパス)らが巣立ち、永木と遠藤は日本代表に選ばれるまでに成長した。昨オフにも菊池大介(現浦和)や三竿雄斗(現鹿島)らが移籍した。日本を代表するクラブがこぞって食指を伸ばしているように、育成型クラブとしてのサイクルは確立されつつある。

 ある時語られた眞壁潔代表取締役会長の言葉が忘れがたい。

「うちには誰もが知っているような有名な選手はいません。いるわけがないんです、彼らはここから有名になるのだから」

 選手の成長と成功を願う育成型クラブとしての歩みは、まっすぐに進んでいると言えるだろう。ただその一方で、J1定着がままならないのはジレンマに違いない。

「監督には、勝つことと育てることの両方をやってくださいという難題を押し付けています」

 坂本SDは苦笑交じりに明かす。

「活躍した選手が一気に抜かれるなんて、僕の現役時代を含めて過去10数年なかったから、それに備えておくほうがこれまでは難しかったかもしれない。でもそうした経験があって今に至っているので、現実として毎年数人が入れ替わる可能性があることを想定した中でチームづくりをしていかなければいけないし、戦力を維持しながら新しい選手がどんどん出てくるサイクルをつくっていくことが大事だと思います」

 その気付きもまた、初めてJ1で2年目を戦った昨シーズンの財産だ。

「予算に関係なく、今までもスカウトと育成を大事にしてきましたが、昨年苦しんだ分、この二つの柱をしっかりすることがJ1定着を可能にするという方向性が、よりはっきりと見えました。その想いは現場もフロントも共有しています」

今できるのはいい選手を育てて面白いサッカーを続けること
日本サッカーのためにベルマーレができること

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