2017.02.13

【躍進するアジアフットサル】ベトナム/“ベトナムフットサルの父”が設立したクラブの存在

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ベトナムフットサルにおける2016年は大躍進の年となった。FIFAフットサルワールドカップ初出場を決めると、いきなりのラウンド16進出を遂げるなどアジアのみならず世界を驚かせた。その快挙を可能にした背景には、国内唯一のプロクラブの存在があった―。

文=宇佐美淳(ベトナムフットボールダイジェスト) 監修=長谷川雅治(アジアサッカー研究所) 写真=ベトナムフットボールダイジェスト、ゲッティ イメージズ
Text by Jun USAMI(VIETNAM FOOTBALL DIGEST) Supervision by Masaharu HASEGAWA(Institute for Future Asian Football)
Photo by VIETNAM FOOTBALL DIGEST, Getty Images

[Jリーグサッカーキング2月号増刊「進化を遂げるタイサッカー」]

W杯初出場&ベスト16


“東南アジアはサッカー熱が高い”と言われて久しいが、フットサルも近年、人気が上昇し、すでにいくつかの国はアジアのトップレベルに食い込むほどの実力を備えている。特に急速に力を付けているのがベトナムだ。AFCフットサル選手権2016(兼FIFAフットサルワールドカップ2016予選)準々決勝で、史上最強とうたわれていた日本代表を激戦の末に下し、日本の4大会連続となるW杯出場の夢を打ち砕いた因縁の相手でもある。

 日本にとっては、思わぬ伏兵のベトナムに足元をすくわれた格好だが、ベトナムが急成長しているという情報は各方面で周知の話であった。ただし、ベトナムが勝利するというイメージを誰も抱いてはいなかった。ただ一人、ベトナムの指揮官を除いては。

 ベトナム代表を率いていたのは、スペイン人のブルーノ・ガルシア監督。14年にベトナム代表監督に就任する以前は、スペイン国内の複数のクラブで指揮を執り、スペインサッカー連盟が選ぶ最優秀監督賞を受賞したこともある。その後は、中国のクラブやペルー代表でも辣腕を振るった。柔道の心得があり、二段の腕前だというが、彼がベトナム時代に見せた戦術は“柔よく剛を制す”という柔道の教えから来ているものなのかもしれない。

 ベトナムは日本を徹底的に研究して堅い守備と鋭いカウンターで、何度リードされても最後まで粘り強く食らい付いた。ベトナムは終盤のパワープレーで同点に追い付き、勢いそのままに臨んだPK戦で日本を打ち破り、アジアベスト4に入って同国で初となるW杯出場権を獲得した。

 フットサル大国スペインからやって来た理論派監督は、試合運びや戦術面でもベトナムを大きく進化させたが、モチベーターとしての手腕も光った。日本戦に持てる力のすべてをぶつけて、死闘の末に勝利をつかみ、歓喜に沸くロッカールームでは失神する選手が続出したという。

 W杯では、グループステージ初戦のグアテマラ戦で20歳の新鋭グエン・ミン・チーのハットトリックを含む4-2で歴史的勝利。続くパラグアイ、イタリアには敗れたが、得失点差でグループステージを突破。ラウンド16では、この大会で準優勝したロシアに完敗を喫したが、初出場のベトナムにとっては大成功と呼べる結果だった。ブルーノ監督はこの大会後に勇退し、そのわずか1カ月後に日本代表の新監督に就任した。

タイソンナムFCの存在


 代表チームの活躍で16年はフットサルフィーバーに沸いたが、数年前まではアジアのトップレベルとの実力には大きな開きがあった。わずか数年で急成長を遂げた背景には、ある意欲的な投資家が設立したクラブの存在がある。

 電気機器の輸入販売を手掛けるタイソンナム貿易会社のチャン・アイン・トゥ社長が03年に設立したタイソンナムFCは、当初アマチュアサッカークラブとして活動していたが、国内のフットサル人気の高まりを受けて07年に既存チームからフットサルクラブを独立させて、ベトナムのフットサルクラブとしては初のプロ化を決定した。

 プロ化以降は、海外から指導者や選手を招いたり、国内初のフットサル専用練習場を建設したりするなど、ハード・ソフト両面で積極的な投資を行った。そのかいもあって09年にはベトナムフットサル選手権で初優勝。その後、12年、13年、14年、16年大会でも優勝を飾り、名実共に国内最強クラブの地位を確立した。

 ちなみに、この国内唯一のプロクラブでさえもまだ収益化には至っていないが、ベトナムのフットサルリーグは現在プロ化に向けて準備を進めており、早ければ18年にもプロフットサルリーグが誕生するという。人気が定着すれば、テレビやインターネット中継も開始し、スポンサー収入も見込めるようになり、ベトナムフットサル界全体の長期的な発展につながるだろう。

 タイソンナムにはかつて、Fリーグの府中アスレティックFCを指揮したセルジオ・ガルジェッリ監督、名古屋オーシャンズでもプレー経験を持つ畠山ブルノ・タカシ、現在フウガドールすみだでプレーする稲葉洸太郎が在籍したこともある。15年のクラブ選手権では、ウズベキスタン代表のアルトゥール・ユヌソフと元スペイン代表サウル・オルモ・カンパーニャを擁して、イラクやカタールなどの中東勢を破っての3位という快挙を達成し、アジアでもその名をとどろかせた。

世界を見据えるベトナム


 東南アジアでは、一つの強豪クラブのメンバーがその国の代表メンバーの大半を占めることは珍しいことではない。ベトナムも同様、タイソンナムの選手がフットサルベトナム代表の約7割を占めている。この5、6年は代表チームのコーチングスタッフのすべてがタイソンナムFCと兼務だったため、“タイソンナム-ベトナム代表”と言っても過言ではない。そのため、より集中的なトレーニングが可能となり、短期スパンでのチーム強化につながっている。

 タイソンナムの待遇面は、代表クラスの選手で平均月俸8万”9万円、最高で12万円ほどだという。ベトナムプロサッカー株式会社(VPF)はプロサッカー選手の最低月俸をVリーグ(1部)で約5万円、ディヴィジョン1(2部)で約3万円と規定しているため、まだプロリーグもないフットサル選手の月俸としては、かなりの好待遇だと言える。

 このクラブには主に、ベトナム中部以南の選手たちが所属している。地元ホーチミン出身の選手は自宅から練習場に通っているが、地方出身の選手たちは寮生活を送る。ちなみに、姉妹クラブのタイソンバクには北部出身の選手らが所属し、タイソンナムには及ばないものの、こちらも国内屈指の強豪であり、今後プロ化する可能性もあるという。

 タイソンナムは17年に、プロ化してから10周年を迎える。タイソンナムの会長であり、“ベトナムフットサルの父”とも言えるチャン・アイン・トゥ氏は、「アジアでトップレベルのクラブになること」と今後の目標を挙げた。それはつまり、代表チームのアジアでの上位進出を目指すことでもあり、18年、20年のアジア選手権で確実にトップ5に入っていくことである。

 そうした意味で、当面のライバルはASEANサッカー連盟(AFF)に加盟しているタイとオーストラリアだろう。17年1月には、タイのプミポン国王死去を受けて延期されていたAFFフットサル選手権2016がバンコクで開催され、同年11月にはホーチミン市で、AFFフットサル選手権2017が開催される。まずはASEAN、アジアで結果を残し、そして再び世界の舞台へ-。ベトナムが20年のW杯に出場するための準備はすでに始まっている。

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