2019.05.28

【インタビュー】Jリーグ中継はどうして良くなったの? DAZN責任者に聞いてみた

DAZNの番組編成・制作の総責任者を務める水野重理(みずの・しげのり)さん  
雑誌版SOCCER KING(=SK)編集長。前身の『ワールドサッカーキング』でプレミアリーグやブンデスリーガを担当したのち、すったもんだの末に2016年から編集長を務めた。好きなクラブはサンダーランドと名古屋グランパス。

[SOCCER KING #003(2019年6月号)掲載]

2017シーズンから10年間で総額2100億円――。
破格の大型契約によってJリーグの放映権を手にしたDAZN(ダゾーン)は“黒船”と呼ばれ、当初は金額の話題ばかりが先行した。それから2年半が経った今、DAZNによってJリーグ中継はどう変化しているのだろうか。番組編成・制作の責任者である水野重理さんに話を聞いた。

 

制作主体のJリーグとパートナーのDAZN

──まず、DAZNのヘビーユーザーの一人としてお伝えしますが、DAZNのJリーグ中継はすごく良くなっていると思うんですね。過去の地上波やCS放送による中継と比べてもクオリティが高いし、DAZNの中継がスタートした当初と比べても良くなっているように感じるんです。

そう言っていただけるとありがたいですね。

──なので、「いったい現場では何が起こっているんだろう?」と思って伺いました。

私たちは2017年に明治安田生命Jリーグの「オフィシャルブロードキャスティングパートナー」になりました。それまでは『スカパー!』さんだったわけですが、その当時は1試合を中継するカメラの台数が、J1でも平均して5、6台の規模でした。私たちはそれを増やしたんですね。2017年はJ1なら最低9台、大きな試合の場合は14~16台。2018年も増やしまして、今シーズンはJ1なら最低でも12カメ入れています。

──『スカパー!』時代の2倍のカメラが入っているんですか。

最初にJリーグさんと制作面のスペックを決めたときに、DAZNはイギリスの会社ですから、プレミアリーグの方式を導入しようとしたんです。カメラの台数が増えるとより立体的な映像を撮れますし、リプレイ映像も充実します。そういう部分をイギリス方式に変えました。今はJ1の大きな試合ですと、カメラを20台入れるんです。20カメとなると、ほとんど国際大会の規模です。

──つまり、試合を撮影できるアングルがそれだけ増えたわけですね。

そうなんです。すると、ピッチを広く写した映像はそれほど変わらないんですが、何かが起きたときにリプレイで見せられるようになる。もし「DAZNになって中継が良くなったな」と思われるとしたら、実はそういうところなんです。ゴールが入ったら、どういう流れでゴールが生まれたかを追った映像があるし、別アングルから決定的瞬間を押さえた映像もある。そのあとゴールした選手が喜んでいる、サポーターが喜んでいる、こうしたシーンも全部リプレイで出せます。ここは相当変わったと思いますね。あとはゴールの中にあるカメラもそうです。

──シュートが入ると映像が揺れるヤツですね(笑)。

あのカメラがあると臨場感が違いますよね。あとは、大きな試合の場合はいわゆるワイヤーカメラ。空中から撮影できるカメラを入れています。これまでならワールドカップくらいでしか見られなかった映像が、ごく普通に撮影できるようになってきたんですね。

──それが可能になったのは、やはり制作費が増えたから、ということですか?

端的に言えばそうです。ただ、そこはJリーグさんと私たちの間に合意があることが大きいと思いますね。きちんとコストを掛けて、中継映像を良くしようということで、Jリーグさんと協力して取り組んでいますから。

──つまり、DAZNとJリーグの協力体制によって、中継のクオリティをコントロールする仕組みができたんですか?

そうです。Jリーグの放映権を『スカパー!』さんが持っていた時代は、放送局が自分たちの責任において中継・制作をしていたんですね。カメラの位置、台数といったスペックは放送局が決めますし、制作会社も自分たちで契約して、放送した映像の著作権も放送局が持っていたんです。私たちの場合は全く違っていて、映像の著作権はJリーグさんですし、中継・制作主体もJリーグさんです。DAZNはそのパートナーとして、中継・制作のスペックについて一緒に決めましょう、ということをしています。

──そうか、あくまで映像制作はJリーグ自体が行っていて、DAZNはそれを配信するパートナーであると。そういう構図なんですね。

もう一つ、去年からJリーグメディアプロモーションさんの中に、Jリーグプロダクションという新しい組織を作りました。これはDAZNとJリーグが取り決めたスペックに基づいて、映像の品質を管理する専属部隊です。組織のトップは、『Sky Sports』で20年くらい、プレミアリーグ中継のプロデューサーをやってきたイギリス人なんですよ。彼がプレミアリーグ直伝の制作ノウハウを、現場のディレクターやカメラマンに注入している感じですね。

──そのノウハウというのは、スポーツ中継にずっと関わってこられた水野さんから見て、従来の日本のやり方と全く違うものですか?

違います。まず先ほど申し上げたように、リプレイやカメラ配置に対してリソースを割くということ。それから、どの試合でも毎回、きっちり同じフォーマットで作っていくことです。分かりにくいかもしれないですが、実は『スカパー!』さんだけじゃなく、他の放送局でも毎試合の中継映像にはバラつきがあるんですよ。放送中にどのタイミングで、どのグラフィックスが入ってという構成、私たちは“ランニングオーダー”と呼びますけど、これもそろっていなかった。私たちはそこを全部統一して、どの試合も品質を一定のレベルに保っています。

ファンが見たいものを見せなければ支持は得られない

──僕が何度も自分のコラムに書いているネタがありまして、「プレミアリーグが世界的人気を得たのはなぜか」というテーマなんです。理由はいくつかありますが、最も大きな要素は「英語」、それから「映像」だと思うんですね。プレミアリーグが爆発的に世界に広まったのは1990年代後半ですけども、当時のプレミアリーグをよく見ると、実はそんなにレベルが高くないんです。

なるほど。観客数も、Jリーグと変わらなかった時期がありますよね。

──そうです。ところがあの映像を当時、僕らはベランダにパラボラアンテナを取り付けて、夜中まで起きて見ていたわけですけど、「なんだこれは!」と思った。なんかすごいサッカーをやってるぞって。それはサッカーの質じゃなくて、映像の質によるものだったと思うんです。

そうですね。Jリーグだって、DAZNが中継する前と今とで、サッカーの質がすごく変わったかと言えば、そうではないと思います。しかし中継のクオリティは明らかに変わりました。

──別にこれまでがダメだったとは思わないんですけど、DAZNになってからJリーグ中継を見る時間が確実に増えているので……。ただ、具体的にどこが良くなったのかと言われても難しいんですよね。スタメン発表のときに、選手が腕組みするモーションが出てくるような変化はすぐ分かるんですが(笑)。

あれももちろん、すごく手間がかかりますね(笑)。シーズン開幕前に全員撮影して、途中で移籍したらまた撮り直して……。でも、グローバルスタンダードではもう当然のことですからね。DAZNは海外サッカーも配信していますから、どうしてもプレミアリーグやラ・リーガと比較されてしまうんですよ。

──ああ、そうですね。DAZNだとJリーグもプレミアリーグも全部見られるから、簡単に比べられてしまう。

そのときに、Jリーグも海外サッカーと同じか、それ以上のコンテンツであってほしいんです。今はまだプレミアリーグやラ・リーガに比べて、中継の質は少し劣るかもしれない。でも、3年以内には並んで、いずれは超えるというのが目標なんです。

──その先にはおそらく、Jリーグの映像を世界に配信していこうという考えをお持ちだと思います。

Jリーグさん自体、海外にどんどんJリーグを浸透させたいというビジョンがありますからね。私たちもパートナーとして、そこはぜひお手伝いしたいと思っています。

──もう一つお聞きしたいのが、新しいコンテンツについてです。分割画面で複数の試合を同時に見られる「Jリーグゾーン」だとか、ロッカールームの中にカメラが入っていく「The Locker Room」だとか。特に「The Locker Room」は、クラブの協力なしにはできない試みだと思うんですけど、これも現在の体制だからこそ可能になったということですか?

それは大きいと思います。例えば今シーズンから始めた「Jリーグジャッジリプレイ」は、まさにJリーグさんとのパートナーシップの賜物です。あれはJFAの審判の方々の協力があって成り立っていますから。「イニエスタカメラ」のような新しい試みにしても、提案しやすい環境だと思います。

──その結果なのか、オリジナルコンテンツはすごく充実してきた印象があります。

Jリーグの特定のクラブのファンの方にとって、リーグ戦は1週間に1回しかないわけですよね。その週1回のためにDAZNに加入していただけるかというと、足りないと思います。そういった方に、1週間に何度もDAZNを楽しんでもらうためにはオリジナルコンテンツが必要です。そこで、DAZNがイギリスで培ったノウハウを生かして、まずサッカーのコンテンツを充実させました。試合の前に「プレビューショー」があって、週末には試合を中継して、それが終われば「オールゴールズショー」で得点シーンを振り返って、最後はその週末をもう1回振り返るような位置づけで「ジャッジリプレイ」がある。試合を盛り上げて、ファンが気になるものを振り返って、そうこうしている間に次の週末が来る、という流れを作りたかったんです。

──試合の前後も、Jリーグを楽しみ尽くすための構成になっている。

そのうえで、今後はインサイドやドキュメンタリーが大事だと思っています。「The Locker Room」は名古屋グランパスさん、サガン鳥栖さんにいろいろと協力していただきましたが、もっと続けていきたいですね。

──現場サイドのことはそれなりにわかるので、きっといろいろ大変だっただろうなと思って見てました(笑)。

最初はやっぱり大変ですよ(笑)。だから、名古屋さんや鳥栖さんには勇気があったと思います。ロッカールームにカメラが入るのは簡単なことじゃないですからね。でも、それをオープンにしていただいたことで、ファンの方にはいろいろなものが見えたはずなんです。

──そう思います。僕の周囲でもあの企画は本当に評判が良くて。すると「次はウチのクラブでやりたい」という意識がある積極的なクラブと、消極的なクラブとの差が明確に出るから、そこに競争が生まれてくる。それが今の体制になった効果じゃないかと思うんです。

そう言ってもらえるとありがたいですね。DAZNというメディアはファンとの距離が近いことをすごく重要だと考えています。ファンが見たいものを見せなければ、支持は得られない。クラブにとっても、いろいろなことをオープンにしたほうが理解を得られるし、スタジアムにファンが増えることにつながると思うんです。それは少しずつご理解いただけてきたように思います。

DAZNのJリーグ中継がスタートした2017年のキックオフカンファレンス。ラシュトンCEO(左)が登壇してパートナーシップの意義を訴えた

ライトな方々にどうアプローチするかが課題

──DAZNが日本でスタートしたとき、ストリーミング配信という形式によってファンの視聴行動が大きく変わると言われていました。3年目を迎えて、その辺で見えてきたものはありますか?

みなさん、上手に使い分けていらっしゃるということが分かってきました。例えば朝の通勤時間はモバイルデバイスで、週末はテレビの大きな画面で、という具合です。サービス開始当初は、複数のデバイスを使い分ける人の割合は35パーセントでしたが、今はこの数字が51パーセントに増えています。好きなクラブの試合をテレビ画面で見ながら、同時にスマホで「Jリーグゾーン」を見るというような、私たちもあまり想定していなかった使い方が出てきました。

──なるほど。ユーザーも少しずつ、DAZNの活用法が上手になっている。

もう一つおもしろいデータは、複数のスポーツを見る人が増えていることです。サッカーファンはサッカーだけ、野球ファンは野球だけ、という構図が崩れてきている。実はサッカーファンの中でも、Jリーグしか見ない方、海外サッカーしか見ない方に分かれていたのが、その壁も崩れてきています。それはこの3年間ですごく変わった部分です。

──それはおもしろい傾向ですね。

そこは私たちも努力して、シーズンオフにJリーグの監督に海外サッカーの解説をしていただいたり、川崎フロンターレの中村憲剛さんにクラシコの特別解説をしていただいたりと、両者をつなげる企画にトライしています。ただ、もっと大きな要因は(アンドレス)イニエスタですね。今までは海外サッカーしか見なかった方々が、ヴィッセル神戸の試合を見るようになっている。それはもう、データから明らかなんですよ。

──ずっとサッカーメディアで働いている身としては、海外サッカーファンとJリーグファンの間に垣根があることはよく知っていました。僕はこれ、本当にもったいないと思っていて。

もったいないですよね。ある意味、それは心の壁だったのかもしれません。もともとチャンネルの壁、フォーマットの壁があって、両方とも見ようとすると値段がすごく高くなってしまう。それなら見なくていいや、という心理的な壁だったのかなと。DAZNがスタートして、少しずつその壁がなくなってきているんじゃないでしょうか。

──その動きは、サッカー界全体としてはかなりハッピーなことだと思います。

そういう意味では、コンテンツの編成もより意識していきたいですね。Jリーグとヨーロッパのリーグ戦は時期が違います。そこでうまく、海外サッカーからJリーグへ、Jリーグから海外サッカーへ、もっとブリッジをかけていきたい。あとは人にフォーカスした深いコンテンツですね。私たちはもっとヒーローを作って、ヒーローのストーリーを語っていきたいと考えています。というのも、これからはコアなファンだけじゃなくて、ライトな方々にどうやってアプローチするかが課題なんです。例えば日本代表やワールドカップだけ話題にするような方。彼らにもっとサッカーに触れてもらうには、まず選手を知ってもらうことだと思うんです。イギリス人ならハリー・ケインのことはみんな知っている。そういう、スポーツ文化に貢献できるようなことをやっていきたいですね。

──それは、本質的にはすごく大きな話ですよね。サッカーファンの市場を大きくするということですから。Jリーグもスポーツメーカーも、僕らのようなメディアにとっても、究極的にはそれこそが最大のミッションです。

まさにそういうことだと思うんです。そこを変えていかないと、サッカーの次の展開はない。やっぱり野球場に行くと、職場の同僚たちが仕事帰りに見に来ていたり、若い女性のグループがいたりする。彼らはコアファンではないですが、何となく選手は知っていて、試合も楽しめるんですよ。それは何十年もかけて根づいてきたものがあるからです。同じようにサッカーを社会に広げて、サッカーのことを語る場所を作る。週末の試合を誰もが楽しみにする文化を根づかせる。それはDAZNの力だけではダメで、メディアも含めて、みんなで取り組むべきことだと思います。

水野重理(みずの・しげのり)さん
DAZN Japan 番組編成/制作 シニア バイスプレジデント

よりインタラクティブにパーソナライズされていく

──一つ、個人的に感謝していることがあるんです。締め切り時間に遅れたライターの原稿を待っているとき、イライラしなくなったんですよ。その時間で1試合見れたりするので(笑)。

なるほど(笑)。隙間時間に見るコンテンツということで言えば、昨年末に配信した『ジャイアントキリング』のアニメも新しい試みでしたよ。あれはすごく良い反応をいただきました。

──確かに。DAZNでアニメというのは意外でしたけど、あれは日本ならではのコンテンツだったと思います。

イギリスにはアニメ文化がないですから、社内で理解を得るのが大変だったんですよ。でも、実際に配信してみたら評判が良くて、今はイタリアのDAZNでも配信したいと言い出しています(笑)。こういうコンテンツをスポーツエンターテインメントとして扱うのも日本らしくていいんじゃないかと思います。

──最後にこれからの話を。技術面がより進歩することで、どういったサービスが実現するのかを聞かせてください。

DAZNのようなデジタルプラットフォームが、従来の放送局と最も違うのは、一つはソフトウェアを更新することでバージョンアップして、サービスを広げていけること。もう一つは、それぞれの個人とつながることです。ユーザーのニーズに合わせたサービスができるんですね。例えば名古屋グランパスのファンには、グランパスに関するコンテンツをお知らせしたり、トップ画面の最初に持ってきたりできます。この二つを組み合わせてサービスを進化させていくことが基本的な方向性です。技術的な部分で言うと、画質やアプリの使い勝手はどんどん良くなっていますよ。

──僕は家にいるときはプレイステーションで見ているんですが、画質も使い勝手もすごくいいです。

画質を上げたり、配信が途切れないように改善するような品質向上は日々やっています。そこに、今後はもっと違うサービスも加えていく予定です。例えば試合を見ているときに選手を選んで、スタッツを表示させるとか、重要なシーンにポインターがついて、そこだけすぐに見られるとか。よりインタラクティブになり、パーソナライズされていく。定期的に見ているコンテンツがあれば、毎週決まった時間にダウンロードしてくれるとか、いろんなことが可能になります。まだ言えないこともありますが、次の18カ月くらいでいろんなビジョンをお話しできると思います。

(※取材は2019年4月下旬)
取材=坂本 聡
写真=野口岳彦

SOCCER KING 2019年6月号『The Art of Motivation モチベーションの技法』

[主なコンテンツ]

5月15日発売の『SOCCER KING』2019年6月号は、「モチベーションの技法」を特集します。この特集で取り上げるのは、ユルゲン・クロップ、ディエゴ・シメオネ、そして曺貴裁監督の3人。優れた監督にはいくつもの能力が備わっているはずなのに、彼らはなぜ“モチベーター”としての才覚だけが注目されるのか? 湘南ベルマーレを率いる曺監督の独占インタビューは必読です。その他にも、この夏アヤックスからバルセロナへの移籍が決まっているフレンキー・デ・ヨングのインタビュー記事なども収録しています。

  • 版型/頁数:A4変形・98ページ
  • 発売日:2019年5月15日

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