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感謝も楽しさも悔し涙も…本気の戦いで噛みしめて 高校生の1年が“開幕”

 試合終了のホイッスルが鳴り響くと、勝利チームには笑顔の輪が生まれ、負けたチームのキャプテンはピッチに突っ伏した。その目には悔し涙が光る。“コロナ禍以前”であれば見慣れた光景だったかもしれない。だが、半年以上にわたって、“彼ら”はこうした経験から切り離されていたのだ。

 8月末から高校年代のリーグ戦が続々と“開幕”を迎えた。コロナ禍の影響は高校年代にも広く及んでおり、夏の全国大会は実施されず、各地の各カテゴリーで行われるはずだったリーグ戦も行われなかった。だが、日本サッカー協会も各地のサッカーマンたちも、それを「よし」としていたわけではない。

 もちろん、選手や指導者、審判員、大会運営に携わる人々、そして観戦者の安全を保つことは大前提である。その上で、育成年代の大会開催に向けた感染予防ガイドラインを策定し、無観客など限定的な条件ながら各地で試合開催が実現しつつある。当然ながら学校や行政、施設との関係など難しい面は多々あるのだが、「子どもたちのために」という情熱は関係各位で一致しており、準備と調整が進められた。

 高校年代の最高峰リーグと位置付けられるプレミアリーグは、日本全国を東西二つに分けて実施される広域リーグである。その最大の売りがこのコロナ禍ではネックになり、大会実施は困難になった。このため、地域間の移動を伴わない形にリーグの構成自体を再編した。関東はプレミアリーグに所属するチームが8つと非常に多かったため、この8チームによる単独リーグ、「プレミアリーグ関東」を新たに設ける形でリーグを開催。9月5、6日にはその開幕戦が、無観客の形で実施された。

 ハシゴしながら3試合を観戦させてもらったのだが、いずれ劣らぬ熱戦だった。練習試合はそれぞれこなしているが、「やっぱり(公式戦は)ちょっと違うよ」と浦和レッズユースの池田伸康監督は笑顔で振り返る。前半で1点リードしたものの、後半は市立船橋高校の激しい追い上げを受けてギリギリで逃げ切るゲーム内容。「相手も必死で来るし、こっちも必死で守る。1人ひとり感じるところが練習試合とはまるで違う。市船さんも素晴らしかった。あれをしのぎ切った選手たちを褒めてあげないといけない」と、久々の公式戦の手応えに満足げだった。

 一方、試合後に一人ピッチに突っ伏したのは市船の新主将となったDF石田侑資だった。自身のミスから決勝点を献上してしまったが、その後は攻守で猛烈な存在感。終盤は惜しい場面をいくつも作った。名門の主将として重いものを背負っているのはもちろん、やっと始まった公式戦で、個人として期するものがある。

「プロ以外は考えていない」

 そう夢を語っていた石田にとって、コロナ禍はアピールの場を奪われる何とも苦しい時間だった。進学に切り替える選択肢もなくはなかったが、あくまでプロ入りにこだわり、練習を重ねてきた。再開されたリーグは、その彼にとって待ちに待ったチャンスである。「大会を開催できるようにしてくれた人たちには本当に感謝しかない」という強い思いで試合に臨んでいた。

「(久々の公式戦は)メチャクチャ楽しかったんですけど、終わった瞬間からもう悔しさがこみ上げてきて……」

 涙のあとが残る顔に、何とも言えない笑顔を浮かべながら試合を振り返った市船の主将は、プロ入りを「あきらめない」ことを強調する。その思いを維持できるのも、公式戦という場が戻ってきたからだ。

田畑麟

横浜FCの田畑麟キャプテン(左) [写真]=川端暁彦

「楽しかった」という言葉は、石田に限らず、話を聞いた選手たちから軒並み漏れてきた言葉だった。例えば、横浜FCユースの田畑麟主将は、コロナ禍での自粛期間では「近所の公園で近くの友達と練習していた」という難しい時間も過ごしただけに、今回のリーグ開幕試合を「サッカーって楽しいなあ」と思いながらプレーしていたと笑う。

「今は次の試合を早くやりたい。試合に向けて準備ができる時間が本当に楽しいです」(田畑)

 試合をして楽しんで、悔しがって、反省したり自信を深めたりして、また次の試合へ。サッカーでは「当たり前」と思われていたその幸せなサイクルが、日本の育成年代にも、ようやく戻ってきた。

取材・文=川端暁彦

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