川崎F FW山田新 [写真]=J.LEAGUE
1年後のFIFAワールドカップ滑り込みを狙う国内組にとって、7月8日(火)ホンコン・チャイナ代表戦から幕を開ける東アジアE-1サッカー選手権2025は非常に重要なアピールの場だ。
森保一監督率いる日本代表は6日から現地での活動を開始。海外移籍のため辞退した川﨑颯太、コンディション確認で出発を見合わせた西村拓真を除く24人が室内トレーニングを実施した。開幕に先立って行われた4カ国合同の公式会見では、チームキャプテンの長友佑都が「優勝しか考えていない」と力強く宣言。対戦国の報道では「今回の日本は2〜3軍」といった否定的な声もあるようだが、こうした雑音をシャットアウトしてほしいものである。
2022年大会に続く連覇を果たすためにも、FW陣のゴール量産は必要不可欠だ。今回はアジア最終予選経験者の細谷真大、同じく柏レイソルの垣田裕暉、サンフレッチェ広島で1トップとシャドーを掛け持ちしているジャーメイン良らが選出されているが、2024年のJ1リーグで19得点を決めた山田新も有力候補の一人。川崎フロンターレはご存じの通り、AFCチャンピオンズリーグ・エリートで準優勝を果たし、高度な経験値を含めて大きな期待がかかるところだ。
「海外の選手相手に個で違いを出さないといけないと思うし、起点になるプレーというのは求められるので、そこをやりつつゴールを強く意識して取り組んでいきたいと思っています」と直近5日の鹿島アントラーズ戦後に山田は静かな闘志を燃やしていた。しかしながら、今季は“決定力不足”に喘いでいるのも確か。今季に目を向けると、リーグ戦21試合出場で2得点。5得点を挙げている細谷と垣田、4得点のジャーメインに比べると数字的にはどうしても見劣りしてしまう。
鹿島戦でも、開始早々の9分に三浦颯太の左クロスにファーから飛び出し打点の高いヘッドをお見舞いするが、惜しくも枠を越えていった。山田は前半だけで3本のシュートを放ったものの、得点という形には結び付けられなかった。前半終了間際の伊藤達哉と後半のマルシーニョの得点で川崎は宿敵・鹿島に逆転勝利し、彼自身も安堵感を覗かせたが「点が取れていない」という部分に複雑な感情をにじませたのも確かだ。
そこで山田に声をかけてくれたのが、昨季までの恩師である鹿島・鬼木達監督である。「オニさんはメンタルのところを心配してくれました。今季の自分はなかなか納得いく結果を出せていないのが正直なところ。そんな自分のことをオニさんはすごく理解してくれているし、選手のことが見えている監督。僕が意外と繊細なところがあるのを分かっていて、そこを突いてきた感じです。その分、期待もしてくれているということ。お世話になったオニさんのためにも頑張ろうという気持ちになりました」と話す。
森保監督も今季の山田の状態を十分に把握した上で、招集に踏み切ったはずだ。昨季19得点の男がここまで2得点にとどまっていたら、精神的にも微妙な揺れ動きがあるのも当然。指揮官は「それでも山田は十分戦える」と感じたから戦力と認めたに違いない。まさに千載一遇のチャンス。E-1選手権で本来の姿を取り戻す好機にできれば、本人にとっても、川崎Fにとっても、日本代表にとっても理想的。そういう方向に仕向けていかなければいけないのだ。
「数字のところが足りていないとは思いますけど、直接見てもらって、いいアピールをして、評価してもらえればいい」と山田自身も語気を強めるが、鹿島戦で見せたような敵を背負って収める仕事、鋭い動き出し、守備のハードワークを継続していたら、今大会のどこかで出番は訪れるだろう。そこで昨季見せたゴール前の鋭さを遺憾なく発揮し、日本を勝たせる大仕事をしてくれれば、今季前半戦の足踏み状態から抜け出せる。山田にはそれだけの大きなポテンシャルがあるのだ。
彼にとって前向きな材料と言えるのは、川崎Fアカデミー時代からの同期・宮代大聖とともに代表初参戦を果たしたこと。ご存じの通り、宮代は中村敬斗、久保建英らとともにU-15日本代表時代から日の丸を背負ってきたストライカーで、エリートコースを邁進してきた。その姿を山田は常に追いかけ、ユースから桐蔭横浜大を経て、プロとして才能を開花させるに至った。その2人が今回、同じ舞台で戦うのは興味深いものがある。
「大聖には昔から負けたくないという思いでやってきました。彼が(ヴィッセル)神戸に移籍した時点で『次は代表で一緒にやりたい』と思っていたので、その機会が巡ってきて嬉しく思います。いいライバルでもあるので、お互い競い合って、刺激し合って、やっていければいいですね」。雑草魂を前面に押し出す山田は、同期と切磋琢磨しあいながら一歩先に踏み出すことができるのか。7日から本格活動する日本代表と山田の動向から目が離せない。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子


