[写真]=Getty Images
思いを巡らせれば巡らせるほど、覇権奪回への期待が大きくふくらむ。1月12日開幕のAFCアジアカップに挑む日本代表だ。舞台は中東カタール。一昨年末、同国開催のワールドカップで超大国のドイツとスペインを破り、世界をあっと言わせたのは記憶に新しい。
かの地で再び大事を成し遂げるか。目下、森保一監督率いる一団は飛ぶ鳥を落とす勢いにある。何しろ、国際Aマッチで歴代最多の9連勝中だ。しかも、その中には完全敵地でドイツに4-1の記録的なスコアで大勝した一戦が含まれている。事実、その戦いぶりは充実一途。目を引くのはゴールラッシュだ。1試合平均得点4・33という高い数字を残している。
もっとも、第2次森保ジャパンにおける最大の強みは歴代最高のスペックを誇るバック4だろう。その顔ぶれは右から菅原由勢、板倉滉、冨安健洋、伊藤洋輝(または中山雄太)だ。攻と守、戦術眼、走力など幅広い項目で高い能力を備えている。とりわけ、冨安と板倉がペアを組む2センターバックの働きが絶大だ。現在の日本は絶えずコンパクトな陣形を保ち、簡単には隙をつくらない。それも細やかなライン操作で“間延び”を防ぐ彼らの存在があるからだ。しかも、ハイラインで戦うことを恐れていない。敵にライン裏の広いスペースを突かれても十分に対応できるだけの守備力と自信、経験値がそれを可能にしている。背後の守りに不安を抱え、ラインを上げにくかった従来の代表との決定的な違いだろう。
もちろん、守備力に特化した旧来型のバックスではない。ボールを前進させるビルドアップの要。自在にパスを繰り出す冨安と板倉の姿はアメフトのQBのようだ。言わば“最深部の司令塔”である。鋭いプレスを浴びても慌てず、騒がず、相手の中盤と最終ラインの間に立つ味方へやすやすと縦パスを通すのだから話が早い。それこそ、モダンフットボールで求められるセンターバックの理想像だろう。そんな人材に恵まれたわけだ。
右の菅原、左の伊藤・中山というサイドバックも冨安や板倉のようにピボットでも適応可能な才覚に恵まれている。カタールW杯当時と比べてビルドアップが格段に安定したのも納得だろう。元日にタイを一蹴したテストマッチを含む破竹の進撃も、しっかりした土台(最終ライン)があればこそ――だ。
当然、アジアの覇権奪回に向けたポイントは様々あるが、あえて一つに絞り込むなら、相手にがっちり守られた時の立ち回り。有り体に言えば『ブロック崩し』だ。カタールW杯で辛酸を舐めたコスタリカ戦の苦い記憶をかき消す格好の機会としたい。
その意味で先に触れたバック4の存在は追い風だが、プラス要素はまだまだある。一つはダブル・ピボットの一角にしてキャプテンでもある遠藤航の進化。ひと頃と比べて、ビルドアップの質が格段に向上している。その象徴がワンタッチパスだ。その頻度、速度、精度が上がり、効率よくボールを前進させる場面が増えた。遠藤の相方である守田はこの分野のエキスパートだから、守備側は的が絞りにくくなるだろう。
引いた相手の攻略に紐づけて考えても効果は大きい。そもそもビルドアップの始点で不具合があれば、肝心のブロック崩しはおぼつかない。冨安と板倉、守田と遠藤の4人から守備側の第1ライン、第2ラインをブレイクするパスが繰り出されて初めて、効果的な攻めが可能になる。その期待が一段とふくらむわけだ。
プラス要素は出し手の側だけではない。受け手の側にもある。その筆頭がほかでもない、久保建英だ。守備側の中盤と最終ラインの隙間(ライン間)で縦パスを受けるタイミング、技術と位置取りは見事の一語。スペインの猛者たちを手玉に取るくらいだから、アジアの刺客を出し抜くことなど造作もないだろう。ポジションは右のワイドであれ、トップ下であれ、ゴール前の狭い空間における鮮やかな立ち回りが日本のカギを握ることになるのではないか。この人こそ、敵の堅固な防壁を内側から破壊する“トロイの木馬”だ。
中央からの攻め手を回避し、外回り一辺倒ならコスタリカ戦の二の舞を演じかねない。敵の懐にボールを差し込めば、ワイドのポジションを担う大駒を最大限に生かせる。左の三笘薫、右の伊東純也だ。大外のスペースで彼らに1対1で勝負させれば、一気にゴールへ近づくだろう。そうした状況を整えるために、敵の防壁を中央に収縮させる仕掛けが必須。役者のそろった現在の日本なら、決して難しい相談ではないはずだ。
老婆心ながら、相手にボールを握られる展開は必ずしもネガティブなものではない。ドイツやスペインを見事に仕留めた堅守速攻が火を吹くだけだ。アジア勢でこれをしのぎ切れる国があるのかどうか。確かに過信は禁物だが、勝算は十分と見ていい。
最後に日本への期待という意味では、やはりカタールW杯からの進化を促す新要素に目がいく。日本で数少ない大型ストライカーの上田綺世、左ワイドからアクションを起こし、いつの間にかネットを揺らす中村敬斗らがアジアの舞台でどんな働きを演じるか。カタールW杯ではゲームの流れを一変させる交代策が見事にハマったが、今回のアジアカップでもその重要性に変わりはないはずだ。個性派がそろうアタック陣の中で異質な輝きを放つ上田と中村はベンチに貴重な戦術オプションをもたらす存在だろう。
そして、語り落とせぬ期待がもう一つ。日本のゴールマウスに立つ守護神だ。なかでも、破格のポテンシャルを秘める鈴木彩艶に出場機会がめぐってくるかどうか。いや、誰が定位置をつかむにしても、キーポジションの一つになるのは間違いない。決勝トーナメント以降はPK戦もあり得る。やはり優れた守護神なくして、覇権奪回はおぼつかないはずだ。
初めてアジアの頂点に立った1992年大会以降、日本の優勝は計4回を数える。言うまでもなく、アジア最多記録だ。W杯でグループステージを突破した後の大会では一つの例外もなく決勝へ勝ち上がっている。2004年、2011年、そして前回の2019年大会がそうだ。ジンクスどおりなら、今大会もファイナリストになる。
ただ、過去の優勝はことごとく外国籍の指導者(ハンス・オフト、フィリップ・トルシエ、ジーコ、アルベルト・ザッケローニ)によって導かれたものだ。そのジンクスを破れるかどうか。短期決戦では“時の運”がモノを言う。今大会の本命と目されるとおり、アジアを制するだけの実力は十分だ。となれば、あとは推して知るべし。大事な“アレ”を持っている――そう願いたい。
文=北條聡
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