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J王者の主将が代表で示した存在感…W杯メンバー入りを目指す谷口彰悟の挑戦

2021.06.14

約3年半ぶりに代表でのチャンスを掴んだ谷口彰悟 [写真]=Getty Images

 吉田麻也と冨安健洋の両センターバック(CB)が日本代表の「鉄板コンビ」と言われるようになって久しい。森保一監督も、2019年アジアカップ(UAE)以降の重要局面では必ずと言っていいほど、彼ら2人を起用。絶大な信頼を寄せてきた。

 しかしながら、今回の6月シリーズは2人が東京五輪に向けたU-24日本代表活動に専念。5月28日の2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア2次予選・ミャンマー戦(千葉)で吉田とコンビを組んだ板倉滉もそちらに回っており、A代表のCB陣にチャンスが巡ってきた。

 森保ジャパンはここまで3日のU-24代表戦(札幌)、7日の2次予選・タジキスタン戦(吹田)、11日のセルビア戦(神戸)と3試合を消化。谷口彰悟と植田直通の「大津高校先輩後輩コンビ」がファーストチョイスに位置付けられ、U-24代表戦とセルビア戦に先発フル出場。どちらも無失点で乗り切った。

 2018年ロシアW杯メンバーで海外組でもある植田の仕事ぶりはそこそこ計算できたが、国際経験の少ない谷口にとっては「重要な試金石」だった。とりわけ、世界基準の高さと強さを誇るセルビア戦の出来には注目が集まった。

 そこで彼は持ち前の冷静さと安定感を披露。1対1やヘディングの競り合いでも駆け引きしながら相手を封じた。加えて、後半から思い切った縦パスを何本も入れて攻撃を活性化。リスタートから伊東純也の決勝弾もアシストしてみせた。まさに獅子奮迅の活躍に高評価が与えられないはずがない。U-24代表戦とタジキスタン戦では後半途中からボランチでもプレーしたことを含めて、代表定着への大きな布石を打ったのは事実。9月から始まる最終予選参戦が見えてきたと言っても過言ではない。

「セルビアは欧州でも力のあるチーム。一発目のロングボールの競り合いで相手選手が先に体をぶつけてきて、それが強くて自分のタイミングで飛べなかったので、『これは普通にやっても勝てないな』と。そこで飛ぶタイミングを変えたりして、体格のいい相手にやらせないことがある程度はできたかなと思います。スライドや1対1の対応も混乱することなく自信を持ってやれた。普段やっていることが生かされた感覚でいます」と、谷口自身もJリーグでコツコツと積み上げてきたものの大きさを改めて実感している様子だった。

 この一挙手一投足に刺激を受けたのが、ロシアW杯レギュラーの昌子源だ。

「セルビア戦では彰悟君が本当に一番、素晴らしいパフォーマンスをした。僕自身もA代表で出るまでにすごい時間がかかって、非常に悔しい思いをした。彰悟君もそうだったと思います。そういう選手が出て、素晴らしいパフォーマンスをするというのは見習うべき部分が多い」と最大級の敬意を口にしたが、CBは本当に浮上のきっかけをつかむのが難しいポジションなのだ。

 谷口の場合も、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督時代の2015年にA代表初招集された頃は、吉田や槙野智章、森重真人ら国際経験に秀でる年長者たちが君臨。その傍らでベンチを温めることが多かった。試合出場は初キャップの同年6月のイラク戦(日産)、2015年と2017年のEAFF E-1選手権・北朝鮮戦(武漢・東京)の3試合だけ。忸怩たる思いでいたに違いない。

 その後、川崎は2017、2018、2020年とJで立て続けに優勝。彼はキャプテンとして最終ラインを力強く統率していたのだが、「ドメスティックなDF」の印象が強かったせいか、森保体制でもなかなかお呼びがかからなかった。この7月には30歳の大台を迎えるため「もはや代表はノーチャンスではないか」という見方も強かった。しかし、今回呼び戻され、堂々たる結果を出した。

 こうやって長い間、苦労し、回り道をしてきたからこそ、彼の中では見えたものも多いはず。人生にムダはないのだ。

「今年30歳を迎えますけど、フィジカル的なところもそうだし、メンタル的なところも経験含めて今、本当にいい状態なのかな。DFというのはいろんなことを経験して学んでいくポジション。そういう意味で非常に充実してきていると思います。その反面、国際経験が少ないのは事実です。その差を埋めるためにはいろんな方法がありますけど、まずは今回の代表活動で証明して、次につなげることが大事だと考えていました」

 感慨深げに語る谷口。ただ、国内組の彼がこの先も高度な国際経験値を蓄積していこうと思うなら、代表で生き残り、次も呼ばれ、少しでもピッチに立つ時間を増やしていくしかない。

 6月後半から川崎が参戦するAFCチャンピオンズリーグも最終予選のいいレッスンになるだろう。貴重な国際試合で1対1の間合いや駆け引きを学び、周りを統率しながら守り切る術を身に着けることで、必ずや道が開ける。実際、昌子もロシアW杯では唯一の国内組としてレギュラーを張り、ロメル・ルカク(現インテル)らと互角に渡り合った。谷口にもできないはずがない。

 その領域に到達するためにも今回、長期間にわたった代表活動で長友佑都らから伝授されたプレー強度、判断のスピードや質を脳裏に焼き付けておくことが肝要だ。

「代表活動でトレーニングする中で、強度やスピードはみんなすごく高くて早い。技術やメンタルも含めて何をすべきか整理しながら、日々の環境で取り組んでいかなければいけないと思っています」

 そんな谷口には物事を大局的に捉えるインテリジェンスと視野の広さがある。さすがは筑波大学出身のインテリだ。賢さというアドバンテージも生かしながら、最終予選滑り込みを果たし、カタールへと突き進むことができれば、理想的なシナリオだ。

 30代に突入するチャレンジャー・谷口彰悟の世界舞台への旅は続く。

文=元川悦子

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