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なぜ日本人は受け入れられるのか?…ポルトガル1部の『プリメイラ・リーガ』ってどんなリーグ?

2019.08.22

[写真]=Getty Images

 ベンフィカのリーグ2連覇か? ポルトによる王座奪還か? はたまた、2001-02シーズン以来両者が独占しているタイトルを奪取する伏兵が現れるのか――。

 8月9日、ポルティモネンセがベレネンセスをホームに迎えた一戦で、2019-20シーズンのポルトガル1部リーグが開幕した。今でこそポルトガルでプレーする日本人が増え、スカパー!が試合を放送するなど日本でも認知が広まりつつあるが、未だ多くのサッカーファンにとって馴染みのないリーグであることは否めない。

 日本人が過去類を見ないほどに増加したこのタイミングで、一度ポルトガルリーグの実態についておさらいしたい。

プリメイラ・リーガ、別称は「リーガ・ノス」

2018-19シーズンはベンフィカが37回目のリーグ優勝を手にした [写真]=Getty Images


 ポルトガル全土で行われるリーグ戦は、1部「プリメイラ・リーガ(Primeira Liga)」と2部「セグンダ・リーガ(Segunda Liga)」からなり、その下に、地区を5ブロックに分けた3部「ポルトガル選手権(Campeonato de Portugal)」がある。

 また、リーグと並列して2つのカップ戦が開催され、日本のルヴァンカップの位置付けである「リーグカップ(Taca da Liga ※スポンサー名から別称『Allianz Cup』)」と、天皇杯と同じ位置付けの「ポルトガルカップ(Taca de Portugal)」の2大タイトルが争われる。

 1部リーグと2部リーグは、それぞれの冠スポンサーから、別称「リーガ・ノス(Liga NOS)」と「レドマン・リーガプロ(LEDMAN LigaPro)」と呼ばれる。NOSはポルトガルを代表する通信事業会社で、LEDMANは中国の製造業者である。

 欧州のコンペティションへの出場権は全部で5枠。チャンピオンズリーグ(CL)には、1部リーグ1位がストレートイン、2位が予選3回戦から出場する。ヨーロッパリーグ(EL)には、3位が予選3回戦から、4位が予選2回戦から参戦、ポルトガルカップの優勝チームにはストレートインの権利が与えられる。そのため、リーグ5位のチームが繰り上げでELに参加する場合もある。2019-20シーズンは、前年1位ベンフィカと2位ポルトがCLへ。ポルトガルカップ王者のスポルティングがELにストレートイン。同クラブはリーグでも3位だったため、4位ブラガがEL予選3回戦、5位ビトーリア・ギマラインスが2回戦から、それぞれ繰り上げで参戦する。

約20年にわたる“2強”の独占

[写真]=Getty Images


「ポルトガルの3強」という括りは、読者の皆様も一度は聞いたことがあるかもしれない。ベンフィカ、ポルト、スポルティングの3クラブは、ポルトガルを代表する世界的な名門クラブだ。過去を遡ると、1部リーグは、3強のほかポルト中心部のクラブ「ボアヴィスタ」と、ベンフィカ、スポルティングと同じ首都リスボンのクラブ「ベレネンセス」を加えた5クラブのみが優勝を経験しているが、両者のリーグ優勝はともに1度だけ。1934年のリーグ創設以来、約85のタイトルを、上記の2回を除いて3強が分け合っている。それほどまでに3強の支配は絶大だ。

 しかし、スポルティングは2001-02シーズンを最後にリーグ優勝から遠ざかっており、直近約20年間はベンフィカとポルトが優勝を独占。両クラブを「ポルトガルの2強」と呼称した方が、近年の実態には適っている。

 リーグ全体の勢力図としては、ベンフィカとポルトが優勝争いを繰り広げ、スポルティングが座する3位の席に、ブラガとヴィトーリアの互いに北部ミーニョ地方のライバルクラブである2チームが挑戦。上記5チームによる上位争いに、リオ・アヴェやマリティモなどが関与し、その他クラブは中位または残留争いを繰り広げる、というのが概況だ。

前田大然が加入したマリティモには注目

前田大然は今シーズンからマリティモでプレーする [写真]=Getty Images


 あえて3強を除き今季の注目クラブを挙げるとすれば、このマリティモはダークホースとなり得るだろう。クリスティアーノ・ロナウドの出身地であるリゾート地「マデイラ島」に本拠地を置くクラブで、過去には相馬崇人が所属したため日本でも比較的知名度は高い。

 昨季はリーグ11位と苦難のシーズンを送り、今季は上位返り咲きを狙っている。新監督には、ポルトガル屈指の若手監督、41歳のヌーノ・マンタを招聘。同監督は、昨季こそ自身のコーチングキャリアにおいて一貫して指揮を執ってきたフェイレンセを途中解任されたが、2016-17年にアシスタントコーチからトップチーム監督に途中就任した当時は、この弱小クラブをリーグ8位に導き、一躍脚光を浴びた。今シーズンは、初めてフェイレンセ以外のクラブを率いるにあたり、名誉挽回への思いは強いことだろう。

 松本山雅からレンタルで加入した前田大然は、クラブにとっても監督にとっても勝負の1年となるシーズンでのポルトガル挑戦となった。タイミングとしては、活躍次第でクラブの英雄になり得る絶好の機会だ。実際に開幕戦のスポルティング戦では、すぐに絶好機を迎えてゴールを脅かし、名門クラブ相手に大金星を挙げるヒーローになりかけた(結果は1-1のドロー)。

 今後、上記のような決定機を確実にものにできる力がつけば、さらなる高みへと道が拓けてくる。ポルトガルリーグはそれほどまでに、一夜にして若手選手のサッカー人生が大転換し得るリーグである。

欧州ビッグクラブの見本市

エデルソン、セメド、レナト・サンチェスはいずれもベンフィカでデビューし、すぐにビッグクラブへと引き抜かれていった [写真]=Getty Images


 近年のポルトガルリーグは、欧州のビッグクラブにとって、有望な若手選手が割拠する“見本市”となっている。ベンフィカやスポルティングは、ポルトガル人選手を「育てて高く売る」ことに優れ、ポルトはブラジルやコロンビア、メキシコなど中南米の選手を「安く買って高く売る」ことに秀でており、3強のいずれのクラブも、若手育成に関して世界的なブランドとなっている。

 その中でも、特に近年はベンフィカの人材輩出力が他を圧倒している。2009年から2015年までの6年間で10のタイトルを獲得したジョルジ・ジェズス監督(現・フラメンゴ監督)は、強力な助っ人ブラジル人をチームの中心に据え、あくまで結果にこだわる監督だった (ただし、タイトルレースの中で突出した若手選手は、結果として欧州の名だたるクラブに引き抜かれていった)。一方で、2015-16シーズンに監督就任したルイ・ヴィトーリア(アル・ナスル)は、ジョルジ・ジェズス期から続くリーグ4連覇(自身は2連覇)を達成するなど結果を出し続けながらも、同時に若手選手を大胆に抜擢。錬金術師さながら、わずかな期間で次々と欧州を代表するスター選手へと変貌させていった。

 例えば、エデルソン・モラレスは当時Bチームに所属していたが、Aチームの守護神であった元ブラジル代表GKジュリオ・セーザルの負傷離脱を機にトップチームデビュー。同選手が復帰した後も正GKとしてのポジションを守り抜き、後にマンチェスター・Cへと引き抜かれた。ポルトガル人選手では、就任1年目から右SBのレギュラーに抜擢したネルソン・セメドが、トップチーム昇格からわずか半年間でポルトガル代表に選出されるまで成り上がり、のちにバルセロナへと移籍。また、ポルトガル代表が悲願の初優勝に輝いたEURO2016で世界にその名を知らしめたレナト・サンチェスも、同年にルイ・ヴィトーリアがBチームから抜擢したばかりの若手であり、大会後バイエルンへ羽ばたいていった。

ジョアン・フェリックスの再来にも期待

ジョアン・フィリペは「ジョアン・フェリックスの再来」として期待を集めている [写真]=Getty Images


 ベンフィカは昨季、タイトル獲得と人材育成の功労者であるルイ・ヴィトーリアを成績不振を理由に途中解任し、Bチームを率いていたブルーノ・ラージュをトップチームの監督に抜擢した。そして大ブレイクを果たしたのが、他でもない、ジョアン・フェリックスだ。

 ネルソン・セメド、レナト・サンチェス、ジョアン・フェリックス……。毎シーズンのように下部組織の若手ポルトガル人が、わずか半年から1年という極めて短い期間で、欧州を代表するスター選手へと覚醒しているのは何ら偶然ではない。ルイ・ヴィトーリア時代から脈々と受け継がれるポルトガル人若手選手を育成・抜擢・登用する文化は、当然ブルーノ・ラージュ率いる今季も継続されることだろう。

 特に、ジョアン・フィリペこと通称“ジョッタ”は、U-19世代のEURO2018でゴールデンボール賞に輝き、母国を優勝に導いた逸材。同年のトゥーロン国際大会では、日本代表相手に美しいFKを沈めたことが記憶に新しい。今季はプレシーズンからインパクトを残し、そのオフェンス能力から「ジョアン・フェリックスの再来」として期待されている。

ベンフィカに負けじとポルトにも2人の新星が

ポルトには19歳のロマーリオ・バロー(左)と17歳のファビオ・シウバが台頭 [写真]=Getty Images


 ベンフィカやスポルティングと比較するとポルトガル人若手選手のインパクトに欠けるポルトだが、今季は久々に大ブレイクを期待できる2選手が現れた。

 1人目は、19歳のロマーリオ・バロー。リーグ開幕前に行われたCL予選アウェイのクラスノダール戦では、中心選手であるオタービオ・モンテイロや、中島翔哉、ルイス・ディアスら新加入の代表選手を差し置いてスタメンに抜擢された。そして2人目は、17歳のファビオ・シウバ。プレシーズンにポルト、ポルティモネンセ、ヘタフェ、ベティスの4チームで争われた『イベリアカップ』では、ヘタフェとのファイナルで決勝ゴールを挙げて大会MVPに輝いた。

 昨季は、前者がBチーム、後者はU-19チームに所属。UEFAユースリーグでは、それぞれ10番と9番を背負い、クラブを初優勝に導いた。特にバローは、今季からアルジェリア代表FWヤシン・ブラヒミの8番を継承。クラブからの期待も厚く、ユース世代のエースナンバーを背負ったポルトの双星にとって、飛躍への準備は整っている。

ブームの火種を蒔いた金崎と田中、炎を燃え上がらせた中島

金崎夢生と田中順也はポルトガルでプレーし、後の日本人ブームの火付け役となった [写真]=Getty Images


 ポルトガルリーグは、今でこそ多くの日本人選手がプレーするようになったが、これまでは決して日本との繋がりが密にあるとは言い難かった。過去には廣山望がブラガで、相馬崇人がマリティモでそれぞれプレーしていたが、それも稀有な一例でしかなかった。

 そのような状況下で、日本人ブームの火付け役となったのは、ポルティモネンセ時代にシーズン2桁得点2桁アシストを記録した中島翔哉だ。“中島翔哉・前”と“中島翔哉・後”では、各クラブの育成世代含め、日本人選手の所属数は桁違いだ。しかし、中島が盛大に着火させたその炎の、火種を蒔いた2人の功績を忘れることはできない。

 1人目は、2部時代のポルティモネンセでプレーしていた金崎夢生(現・サガン鳥栖)。2013-14シーズンにニュルンベルクから加入すると、当初こそコミュニケーションの問題もあり味方からの信頼を獲得することに苦労したが、フィジカルや球際の強さを磨くことでチームのエースへと成長した。2014-15シーズンに鹿島アントラーズへ移籍するまでは、ポルティモネンセで10番を背負い、36試合15ゴールとまさに奮迅の働きを見せた。ポルティモネンセは後に中島翔哉を獲得するわけだが、ポルトガルで最も日本人への理解があるこのクラブとJリーグとの関係性を紡いだのは金崎であると言っても過言はない(補足すると、金崎や中島のポルトガル語を通訳する場面でも助けになった亀倉龍希の貢献度も計り知れない)。

 2人目は、2014-15シーズンに日本人として始めて『ポルトガルの3強』でプレーした元スポルティングの田中順也(現・ヴィッセル神戸)だ。マルコ・シウバ監督(現・エヴァートン)の下、1トップとして一定の出場機会を獲得し、途中出場が多い中でもシーズン28試合で7ゴールと優れた記録を残した。特に、ブラガとのリーグ戦にて、後半アディショナルタイムに劇的な決勝弾を叩き込んだ直接FKは、今でもポルトガル国内で語り草となっている。翌年こそ、ジョルジ・ジェズス新監督の信頼を勝ち得ることができず退団したが、ポルトガルの名門クラブで日本人選手が十分に通用することを証明した。

中島翔哉

[写真]=Getty Images

 金崎と田中が築いた土台があるからこそ、中島はポルトガルリーグに呼び寄せられ、移籍当初から好意的に受け入れられた。そして、中島が日本人の価値をポルトガル全土で増幅させられたからこそ、昨季から今季にかけて多くの日本人選手がポルトガルに渡ることが叶ったのだ。

 中島をカタールのアル・ドゥハイルに手放したポルティモネンセは、昨季にGK権田修一を獲得し、今季から安西幸輝や菅嶋弘希、その他U-23チームやユースチームを含めて数多くの日本人選手を受け入れている。マリティモは、前述の通り過去に相馬が所属し、その後は西大伍(ヴィッセル神戸)の獲得も噂されるなど、比較的日本人を受け入れやすい歴史があったが、やはり前田大然の加入は、中島とポルティモネンセの成功例を願っての獲得であろう。

ベンフィカに引き抜かれU-19チームに所属している小久保玲央ブライアン [写真]=Getty Images

 アンダー世代に目を向けると、ベンフィカではGK小久保玲央ブライアンがU-19チーム、ブラガでは安西海斗がU-23チームにそれぞれ所属。すでに、ポルトガルを代表する名門クラブが、即戦力の外国人選手として獲得するのではなく、若き日本人への長期的な投資を惜しまない時代にもなりつつある。

 ポルトガルリーグを観戦する上での最大の魅力は、数年後に欧州のトップクラブでプレーするスターの卵に、いち早く巡り会えることだろう。中島、安西、前田ら日本人選手の活躍を追いかける傍らで、ぜひ、お気に入りの原石を見つけ、彼らが大西洋に面したこの小国の荒波で磨き上げられる過程も楽しんでいただきたい。

文=FutePor-ふとぽる-
写真=ゲッティイメージズ

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