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「最終目標はベルギーリーグじゃない」…シュミット・ダニエルが“4人目の”挑戦へ

2019.07.11

[写真]=Getty Images

「興梠選手と1対1になったとき、僕が引いてもうちょっと迷わせて、時間をかけさせてループを打てないような位置でシュートに対応することができれば、もしかしたら防げたのかなと思います。それができなくてズルズル行っちゃったんで、力負けみたいな印象です」

 7月6日の浦和レッズ戦。ベガルタ仙台にとって過去21年間で4分11敗の鬼門・埼玉スタジアム2002での一戦は、またしても、0-1で苦杯を喫する結果となった。

 ループシュートで決勝点を叩き出した浦和の興梠慎三は試合後、「今考えたら、(身長197㎝の)あんなデカイGKにようループ打ったな」と笑っていた。一方、「デカイGK」と言われたシュミット・ダニエルの方は悔しさばかりが募ったことだろう。シント・トロイデンへの移籍が決まっている彼にとって、13日のリーグ戦(鹿島アントラーズ戦)は仙台でのラストマッチとなる。浦和戦の黒星でチームの連勝は4でストップしたが、「負けて出ていくのは嫌なんで、チームのために全力を注ぐだけ」と気合を入れ直していた。

 シュミットは6月の日本代表2連戦でスタメン出場を果たし、正GKの座に一歩近づいた形になっていた。少し前からベルギー行きが噂され、本人も冨安健洋ら同クラブ所属選手から情報収集に努めつつ、身の振り方を熟考していた。完全移籍が正式決定したのは今月1日。川口能活、川島永嗣、権田修一に続き、ヨーロッパリーグ1部リーグに挑戦する4人目の日本人GKとなることを決断した。

 GKのキャリアを本格的にスタートさせたのは東北学院高校時代だった。プロ入り後はなかなか芽が出ず、J2のロアッソ熊本や松本山雅にはレンタル移籍を経験した。”遅咲きの男”は自分らしいスタンスで、自らの地位を築いていくつもりでいる。

「シンプルにGKとしてレベルアップできるチャンスだと思っているので、日々学んでいければいいかなと思います。最初から出られるとも考えていないけど、あんまり焦ってもうまくいくわけじゃない。環境とか雰囲気をしっかり把握して、チームメートともコミュニケーションを取りながら溶け込んでいくことが大事かなと思います」

 シント・トロイデンで出場機会を得られず、ベンチに縛り付けられるような状況に陥れば、つかみかけている代表レギュラーの座も失う可能性もある。それでも、リスクを承知であえてチャレンジする覚悟を決めたのは、シュミット自身がより高いレベルを見据えているからだ。

「正直、最終目標はベルギーリーグじゃない。そこでどれだけ成長できるか、どれだけ結果を出せるかが大事。ベルギーをステップアップという形で経験できれば一番いい」

偉大な先輩に重なる生き様

[写真]=Getty Images

 こうした生き様は、同じくベルギーから欧州挑戦をスタートさせた川島に重なる。2010年南アフリカ・ワールドカップ直後にリールセに赴き、大量失点で惨敗したこともある。それでも、川島は徐々にその存在価値を認められ、スタンダール・リエージュに引き抜かれ、フランス・リーグ・アンまでたどり着いた。

 偉大な先輩の存在についてシュミットは、「コパ・アメリカの永嗣さんを見ましたけど、シンプルに実力があるし、後ろに彼がいるっていう存在感もあった。実際、重要なセーブもしていましたし、改めてすごい人だなと。僕もそういう存在感を身に着けたいと強く思いましたね。6月の代表で久しぶりに一緒に練習しましたけど、いいアドバイスももらいました。これからもいろいろ情報交換できればいいですね」と大いに刺激を受け、自分自身もさらなる飛躍を誓った。

 日本人離れしたサイズと守備範囲の広さ、スローイングやキック力を駆使したビルドアップ能力の高さ、兼ね備える武器を考えれば、彼には世界で羽ばたけるポテンシャルが十分にある。シュミット自身は「GKにとって一番重要なセービングが課題」と言い続けてきたが、身体能力の高い欧州やアフリカ系選手の強力なシュートと対峙することで改善されていくだろう。

 日本にはない困難に直面して、メンタル的に難しい状況に陥ることもあり得るが、「ダンは身長もあり、幅が広く、人間的にも素晴らしいからきっと乗り越えられると思う」と西川周作も太鼓判を押す。仙台の渡邉晋監督も「去年、CSKAモスクワへ行った西村拓真もそうだけど、我々のクラブから世界に羽ばたく選手が出ることは誇らしい」と前向きにコメントしていた。そうした周囲の期待を力にして、シュミットは目覚ましい成長を遂げてくれるはずだ。

 キャリアを左右する重要なチャレンジを控えているが、まずは仙台でのラストマッチに向かうことが先決だ。前述の通り、13日の鹿島戦が移籍前最後の試合となる。常勝軍団を零封し、勝ち点3獲得の原動力となることが、長年育ててくれたクラブへ最後の恩返しになる。深い感謝の思いをユアテックスタジアム仙台でしっかりと体現することが、今のシュミットに求められる最重要タスクだ。

文=元川悦子

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