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危機感と自信を胸に…武藤嘉紀「“使えない”と思われたら切られる」

2019.01.08

[写真]=Getty Images

 気温22度と爽やかな気候に恵まれた6日のアブダビ。AFCアジアカップUAE2019初戦、トルクメニスタン戦を3日後に控えた日本代表に、武藤嘉紀が戻ってきた!

 昨夏のロシア・ワールドカップではグループステージ第3戦(ポーランド戦)で待望の先発出場のチャンスを与えられながら、肩に力が入って空回りしてしまった。武藤にとって不完全燃焼感が色濃く残る結果となり、チームは0-1で敗戦。夢にまで見た世界の大舞台で「何もできなかった」と悔恨の念にかられたことは、今も脳裏に深く刻まれているはずだ。

 あれから約半年が経過し、新天地・イングランドでキャリアを積み重ねてきた。もちろん、リーグ戦出場12試合(先発5試合)という数字は満足できるものではない。それでも、世界最高峰のリーグで厳しさを体感し、マンチェスター・ユナイテッド戦(2018年10月6日)では見る者を驚かせる初ゴールを決めた。浅野拓磨の代替招集という形だが、自信を胸に森保ジャパン初参戦を果たした。

「(クラブでは)ケガ明けからはポジションを取り返せていないですけど、出ればやれている自信はあります。この前(2018年12月26日)のリヴァプール戦も出て全然できましたし、もう“怖い相手”はいないです」と語気を強める。

 確かにプレミアリーグでのパフォーマンスを見ると、大柄で屈強なDF陣相手でも動じることなくボールを収め、局面でのバトルを繰り返している。そのタフさと逞しさは、ドイツ時代から成長したポイントだ。FWとして確実に進化していることが伺えるだけに、久しぶりの代表での働きには期待が持てそうだ。

「点を取ってスタメンの座を脅かす」

プレミアリーグ初挑戦の今季、マンチェスター・Uから初ゴールを上げた [写真]=Getty Images

 とはいえ、プレミアリーグとアジアカップの戦いは大きく異なる。リヴァプールなど強豪相手には守備重視で挑まざるを得ないニューカッスルとは違い、今大会における日本はまさに逆の立場となる。トルクメニスタンを筆頭に、対戦相手は守りを固め、カウンターやセットプレーから得点を狙ってくるだろう。その難しさを原口元気ら攻撃陣は、5日に行われたアル・ワハダとの練習試合ですでに実感している。前回大会に出場した武藤もそのハードルの高さを熟知している1人。彼は中堅世代として攻撃をリードしつつ、前線で起点を作っていく考えだ。

「アジアとの試合になると相手がベタ引きして、1回のチャンスを仕留めることを狙ってくる。それを打破する仕方を考えないと。全部放り込むとかじゃなくて、落ち着いてやるところも必要。それを僕らは経験しているので、(若い選手に)伝えていかないといけない。若手のサポートはしっかりやっていかないといけないと思います」

 しかしながら、最前線の先発には依然として大迫勇也が君臨している。今大会に向けては右でん部打撲のため国内合宿から別メニュー調整が続いていたが、彼がいてこそ堂安律や南野拓実ら若き2列目が輝ける。それほど超越した存在になっている絶対的1トップに、森保ジャパン初招集の武藤は大きく水を開けられている。このアジアカップでは当初、浅野が選出された経緯もあり、自身の評価が決して高くないことも自覚しているはずだ。だからこそ、ここで明確な結果を出さなければ、バッサリと切り捨てられるという危機感は誰よりも強い。

「森保さんになって『ここで使えない』と思われたら、切られる場所なんでね、代表というのは。いくらでも代わりがいるし、うずうずしてる選手がいるので、そこは競争。結果を出したもん勝ちなのかなと思います。こういう大会は何が起こるか分からないし、途中から出た選手も大事。延長戦もあるし、ケガ人も出るかもしれないから。スタメンで行く、サブで行くってことに関わらず、自分自身は与えられた役割をこなさないと。それは途中で出てOKということじゃなくて、点を取ってスタメンの座を脅かさないといけない。そうしないとチームとしてもいい競争はできないと思います」

世界で得た教訓がアジア制覇へつながる

ロシアW杯ではチャンスを活かせず結果を残せなかったが… [写真]=Getty Images

 当面は控えからのスタートになるだろう。ただ、大迫が万全な状態でない上、アジアカップ制覇までには7試合を戦い抜く必要がある。自ずと総力戦となる今大会では、武藤にも必ずどこかでチャンスは巡ってくるはず。初戦から出番が訪れる可能性も0ではない。そこで武藤に託されるのは、やはり“ゴール”という結果だ。ロシアW杯ではシュートチャンスで打たなかったり、逆に早打ちしてしまったりと判断に微妙な狂いが生じた。今回は同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。世界で得た教訓をどこまで活かせるか。それが武藤の代表生き残り、さらにはアジア制覇へとつながってくるのだ。

 幸いにして、攻撃陣の主軸を担う南野とはヴァイッド・ハリルホジッチ監督時代、何度か一緒にプレーしたことがある。ロシア組の大迫、原口、乾貴士との関係も良好だ。堂安律と北川航也、伊東純也との絡みは少ないが、「そこはもう割り切るしかない。いきなり100%、お互いを分かり合うのは難しいので、必要なことは練習中に伝えてコミュニケーションを取っていかないといけない」と自ら積極的なアクションを起こしていくという。

 そういったリーダーシップを取れるようになってきたのも心強い。4年前のアジアカップは「若手」という位置付けだったが、今は違う。同じ1992年度生まれの柴崎岳や遠藤航らとともに力強くチームを牽引し、ベテランと若手のつなぎ役としても奮闘してほしい。

文=元川悦子

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