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【コラム】全ては「マリノスの残留のため」…天野純、降格の危機迫る名門を救えるか

2018.09.17

日本代表デビューを果たした横浜FMの天野純 [写真]=大木雄介

 11日に行われたコスタリカ戦の75分、中島翔哉(ポルティモネンセ)との交代で待望の国際Aマッチ初舞台を飾った天野純横浜F・マリノス)。得意のFKを蹴る機会にも恵まれた左利きのテクニシャンは「試合が終わったらLINEがめちゃくちゃ来ていたので、すごいことなのかなと。件数? 100ちょっとですかね」と日本代表デビューの感慨を味わっていた。その直後には結婚も発表。人生の大きな節目を迎えた27歳のファンタジスタへの注目はひと際高まった。

 そんな中、日産スタジアムで行われたJ1第26節の浦和レッズ戦。今季のJ1も残り9試合と終盤戦に差し掛かってきたが、今節はV・ファーレン長崎、ガンバ大阪、サガン鳥栖という下位チームが揃って勝利。1993年Jリーグ発足時からの「オリジナル10」である名門・横浜FMと言えども、決して楽観は許されない状況になってきた。この浦和戦は何としても勝ち点3がほしかった。


 序盤は明らかな横浜FMペースで試合が進む。伊藤翔や仲川輝人が立て続けに決定機を迎えるなど、早い段階でゴールが生まれそうな雰囲気も漂った。しかしながら、サッカーという競技は決めるべきところで決め切れないと後が苦しくなる。すると前半終了間際の43分に失点。直後に背番号14をつける天野に絶好の位置でFKのチャンスが巡ってくるも、ゴールネットを揺らすことはできなかった。

「前半のFKの場面で彼にはかなりプレッシャーをかけました。『天野くん』、『純くん』、『純』と呼んでレフェリーに注意されましたけど、本人は笑っていた。その時点で俺の勝ちですね。3~4年前、俊さん(中村俊輔)に同じことをやったら、前髪を散らすだけで全然聞いていなくて直接決められましたから。あいつは若さが出たね」と5日前に同じ代表のピッチに立った先輩・槙野智章(浦和)がしてやったりの表情を浮かべたように、天野には目に見えない重圧がのしかかっていたのだろう。

 後半はややペースダウンしたが、途中出場のウーゴ・ヴィエイラに待望の同点弾が飛び出した。このゴールの起点となる縦パスを入れたのは天野。さすがのパスセンスと技術の高さを印象付けた。しかし、残り10分強というところで浦和に勝ち越し点を奪われる。ラストパスを出した青木拓矢に対する天野の寄せが甘くなったのも一因だった。「2失点目のところは自分のプレスが少し甘かった部分もあるし、細かい部分をしっかり統一していかないといけない」と反省しきりだった。結局、お得意様であるはずの浦和にホームで敗れ、順位は14位のまま。しかも、勝ち点29で16位柏、17位鳥栖に並ばれるという苦境に瀕してしまったのだ。

 ご存知の通り、「オリジナル10」のうちすでに7チームがJ2降格を経験。25年間トップリーグの座を維持しているのは横浜FMと鹿島アントラーズだけだ。ジュニアからユースまでトリコロールのユニフォームを着て育ってきた天野には、その輝かしい歴史がよく分かっている。だからこそ、自分が残留請負人にならなければいけないという思いは強い。

[写真]=大木雄介

「今、一番求められるもの? やっぱりマリノスを勝利に導く個の力。自分がそこを出していかないといけないと思うし、責任を持って絶対残留させる。もっと上の順位を目指せるように自分が活躍したいです」と背番号14は語気を強めた。

 FKとテクニックを徹底的に研究し、サッカーに対する姿勢を間近で学んできたという偉大な先輩・中村俊輔も過去に幾度となく修羅場をくぐり、チームを救い続けてきた。中村は10年以上、代表とクラブを行き来しながらコンディションを維持し、決定的な仕事をし続けてきた。天野が同じクオリティの高さを維持し続けようと思うなら、まずは代表とクラブの行き来に慣れないといけない。今回の浦和戦を見る限り、明らかにコスタリカ戦と比べてキレと精彩を欠いていた。本人も「リスタート含めて自分のパフォーマンスには満足していない。クラブと代表の掛け持ちは誰もが通る道。ここから強くなりたいですね」と本人も決意を新たにしていた。

 フィジカル面のレベルアップという課題に加え、天野に課せられるもう一つのテーマはメンタル面のタフさを増すこと。前述のFKの場面に象徴される通り、槙野のような百戦錬磨のDFとの駆け引きに簡単に負けていては、名門の救世主にはなり切れない。どんな状況でもブレずに得点に直結するような仕事を見せられるような選手に飛躍してこそ、残留請負人になると同時に、代表定着を果たすことができる。

 彼が代表で挑もうとしている攻撃的MFのポジションは、コスタリカ戦で輝きを放った中島、南野拓実(ザルツブルク)、堂安律(フローニンゲン)に加え、ロシアワールドカップで主力だった香川真司(ドルトムント)や乾貴士(ベティス)らもいる。そこに割って入ろうと思うなら、もっともっと精神的な逞しさと粘り強さを身に着けることが肝要なのだ。

「自分自身、より良いパフォーマンスを出して、違いを見せられるようにならないといけない。マリノスの残留のためにも、今の監督のサッカーを信じて貫き通すことが大事。あとは球際で目の前の相手に負けないというサッカーの本質的な部分を徹底してやること。そうすれば結果はついてくると思ってます」

 こう自分に言い聞かせるように語ったトリコロールの新司令塔のさらなる奮起を強く求めたい。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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