森保ジャパンの初陣で輝きを放った中島翔哉 [写真]=新井賢一
「ロシアに行けなかった悔しさ? いや、そこまでは…。そういう感じはあまりなくて、その時は家族と沢山過ごせたので、ホントに幸せでした」
森保一監督体制の第一歩となる今回の日本代表合宿に入ってから、新背番号10・中島翔哉(ポルティモネンセ)はアッケらかんと、こう答え続けた。今年3月にヴァイッド・ハリルホジッチ監督に満を持して招集され、マリ戦(リエージュ)の同点弾など頭抜けた決定力を示し、憧れの舞台だったワールドカップに手をかけながら、突然の指揮官交代で大舞台を逃したことはショッキングな出来事だったはずだ。けれども、本人は苦い過去にこだわることなく「自然に楽しくプレーする」というモットーを新生ジャパンでも堂々と貫いた。11日のコスタリカ戦(大阪・吹田)で小柄なアタッカーが見せた一挙手一投足は、指揮官を筆頭に、見る者全員に鮮烈な印象を残したのだ。
始まりは16分の右CK。佐々木翔(サンフレッチェ広島)のヘディングシュートがDFブライアン・オビエドに当たって入った先制点を誘発したのが中島だった。「そんなにいいボールではなかったけど、すごくうまく合わせてくれたと思います」と嬉しそうに話した。
これで自信を得たのか、4-4-2の2列目左に位置した男は、水を得た魚のように高度な技術を駆使して攻めを仕掛けていく。少し遠めでもミスを恐れずシュートを次々と放ち、相手ゴールを脅かす。「やっぱりサッカーはゴールを奪うスポーツなので積極的に狙っていきたいと思ったし、それを求められて試合に出ている。ボールを失うのはよくないけど、できるだけチャンスがあればシュートを打ちに行こうと思ってました」といい意味での割り切りを前面に押し出した。そればかりでなくチャンスメークでも貢献。相手DFが複数いても持ち前のテクニカルなドリブルで突破を見せた。彼の小気味いい切り返しに7日の韓国戦から中3日のコスタリカ守備陣は全くと言っていいほどついていけなかった。
極めつけは、66分の南野拓実(ザルツブルク)の2点目につながったスルーパスだ。遠藤航(シントトロイデン)からパスを受けた瞬間、「シュートも打てたし、クロスも受けたけど、(遠藤が)いい動きをしてくれたので、そこを使った」と瞬間的に判断。タテに抜けた遠藤を使い、そこからの折り返しを南野が決めた。中島翔哉という男は「どんな時も自ら強引にゴールを狙いに行くエゴイスト」というイメージが強いが、このシーンのように周りの動きを見ながら瞬時にベストなプレーを選択する高度で緻密な判断力を持っている。それは小学校時代から過ごした東京ヴェルディでコーチら大人に交じってミニゲームを繰り返したことで身に着け、ポルトガルという異国に渡って磨きをかけた戦術眼の賜物なのだろう。
75分間のプレー全体を通しても、課題と言われた守備面でもハードワークを怠らなかった。森保ジャパンには「前からはめにいく」というチームコンセプトがあり、南野や堂安律(フローニンゲン)ら前線アタッカー陣も積極的にプレスをかけにいっていたが、中島も意思統一しながら穴を埋めていた。そういう仕事に献身的に取り組むようになったのは紛れもなく成長だ。この日は自らの得点こそなかったが、光り輝いた新背番号10のパフォーマンスはあまりにもインパクトが強かった。試合前日には「4年後のことは、今はあまり考えていない」と話していたが、2022年のカタール・ワールドカップに向けて力強い一歩を踏み出したのは確かだ。森保監督からも大きな信頼を勝ち取ったと言っていい。
となると、ロシアW杯の主力が加わる10月以降、中島翔哉をどう使うかという新たなテーマが森保ジャパンに浮上してくる。ご存知の通り、ロシアで16強入りした西野朗監督体制の4-2-3-1の左サイドを担ったのは乾貴士(ベティス)。セネガル戦(エカテリンブルク)とベルギー戦(ロストフ)での乾の2ゴールがなかったら、日本の成功はあり得なかった。乾本人も「ハリルが監督だったら自分は選ばれていなかった」と公言しており、同じポジションに6歳年下の中島という強烈なライバルの存在を強く認識していた。その新10番が新体制初陣でこれだけの働きを見せたことを、乾もスペインで伝え聞くはず。
そこで今後、2人が1つのポジションを争うのか、中島がトップ下の位置に動いて共存関係になるのかはまだ分からない。森保監督は今回トライしなかった3-4-2-1というシステムも持っているため、中島と乾が2シャドウで並ぶ形も考えられる。ドリブルとゴールという研ぎ澄まされた武器を持つ小柄な2人が技術を駆使し、屈強で大柄な外国人DFをキリキリ舞いする攻撃パターンこそ、今の日本サッカー界が追い求める「ジャパンズ・ウェイ」なのかもしれない。そこに香川真司(ドルトムント)、原口元気(ハノーファー)ら年長者、あるいは今回ともに戦った南野や堂安ら若い世代がうまく融合して連携を深めていけば、これまでになかった創造性ある攻めが確立できるかもしれない。そんな予感をコスタリカ戦の中島翔哉は大いに感じさせてくれたのだ。
「このチームはまだまだ始まったばかりだと思いますし、他にもいい選手がたくさんいる。またこのメンバーで集まれるかどうかも分からないので、お互い成長してまた次に会えるように自分も頑張っていきたいです」と新背番号10は目を輝かせた。楽しんでサッカーをするという哲学を抱きながら、飛躍を続ける中島翔哉がこの先の日本代表で真のエースナンバー10に君臨していくのか否か。そこを興味深く見守っていきたいものだ。
文=元川悦子
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By 元川悦子