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“代表監督の言葉”が一人歩きする怖さと難しさ…森保監督からメディアへの「お願い」とは

2018.09.04

東京五輪世代とA代表の監督を兼任する森保監督 [写真]=Getty Images

「森保さんってどういうサッカーをする人なんですか?」

 A代表監督就任が発表されてから、こんな問いをよく受けるようになった。中には「一言で言うと?」みたいに聞いてくる人までいたのだが、「一言は無理だよ」という話ではある。

 メディア(特にテレビ)は何かワンフレーズでその監督を象徴するようなワードが欲しくなってしまうもの。またその言葉で表される要素、たとえば「デュエル」は、その監督とワンセットで考えられてしまうため、解任されれば雲散霧消する要素であるかのように語られがちである。

 しかし当然、実態は異なるもの。このあたりについて、あるいは自身のサッカー観について、アジア競技大会期間中に行われた取材を通じて森保監督はこんなふうに力説してくれた。

「西野朗さんの代表はポゼッションというか、ボールを握って自分たちから攻める姿勢を出すサッカーだと言われていました。でもダイレクトにゴールに向かえるときには、ゴールに向かって素早く攻める。これはサッカーとして絶対にあるところです。そしてボールを保持して主導権を持って戦いたいけれど、ボールを保持する前にはボールを奪い合うところがある」

西野朗

ロシアW杯で指揮を執った西野朗監督 [写真]=Getty Images

 ボールを持って動かすところを重視するからと言って、背後を狙わないわけはなく、またボールを奪うプレーを軽視するわけではない。ただ、何か極端な表現をされてしまう弊害を、森保監督は感じているようだ。

「守備も前からプレッシャーに行けることもあれば、相手にボールを保持される時間帯もある。奪いに行っても奪えないときは、守備を固めて戦わないといけないときもあります。西野さんも柔軟に戦うことを選手に求めていたと思うので、僕も監督としてアプローチの仕方は違うかもしれないけど、同じようなことを選手に求めていきたいです」

 極端に言うと、「全部できる」のが理想形であるし、現代サッカーはそうした要素を選手に求めるようになってきているという表現もできる。裏も狙えて足元でも動かせて、前から守備に行けて後ろを固めることもできるチームでありたい。そしてそれは自分たちありきというより、相手や試合の状況に応じての選択である。

 続けて森保監督は「メディアの皆さんにお願いしたい」と言って、こう続けた。

「ハリルホジッチさんから西野さんに代わることで『デュエル』とか『速攻』とかいう言葉がなくなったわけじゃないんです」

ヴァイッド・ハリルホジッチ

ハリルホジッチ元日本代表監督 [写真]=Getty Images

 もちろん、監督としてプライオリティの置き方に差は出てくるもの。ただ、ハリルホジッチ監督から西野監督に代わって「球際で戦わなくていいぞ」なんて話にはならないし、「ポゼッションだけしていればいいぞ」なんてことも当然ない。これは西野監督から森保監督にバトンが渡っても同じことだ。サッカーで大切なことが急に180度変わるわけではないのだ。

「球際のところで戦う——。バトル、デュエル、球際で戦う、コンタクト。そういう言葉はベースで絶対あるんだということです。ボールを奪った瞬間も、ボールを保持している時も、(相手の)背後を狙っていくところは、ベースとして消さないでほしいと思います。やはりどうしても、その時の代表監督の言う言葉で取り上げられることが偏り、下のカテゴリーに働きかけられるものになると、『ブレる』という言葉は違うと思いますが、フォーカスするところが集中してしまう面がある。サッカーは攻撃もあれば、守備もあり、速攻もあれば遅攻もあるんだと発信していただきたい」

 森保監督の言葉選びはA代表監督になってから少し慎重になったようにも感じられるが、それは「A代表監督の言葉」が独り歩きしていく怖さと難しさを現場で体感しているからだろう。たとえば、西野監督がポロリと漏らした「ポリバレント」が過剰にフォーカスされたように。

 また指揮官は今回のアジア競技大会のグループステージにおいて「裏を狙わない」、「球際で戦わない」という逆ベクトルの流れが生まれてしまっていることを選手から感じ、トレーニングでもロッカールームでも強烈な発信をするようになった。「まずゴールを観よう」「もっと激しく戦え」というメッセージである。

 これはもちろん「裏を狙えばいい」「球際で戦えばいい」という単純な話ではなく、ボールを保持する部分を含めて「全部必要」という文脈の中で、バランスを取って出てきている言葉だ。事実、指揮官は大会の総括の中で、今後の課題としてもっと主導権を握って戦えるようにしていくことを挙げていた。

 森保監督のサッカーはポゼッションかカウンターか。そもそも、そういう議論には大した意味がない。たとえば準決勝のUAE戦での決勝ゴールは、高い位置でのボール奪取からのカウンターが実った形。だが、そもそも高い位置でボールを奪えたのは、相手を敵陣深くまで押し込んでいく流れがあったからだ。

 ポゼッションが効果的なカウンターを生み出すし、効果的なポゼッションは相手のカウンターの脅威を抑止できる。指揮官の目指している境地をあえて言葉にするなら、「バランス」だろうか。弱い言葉なので流行りはしないだろうけれど、これからA代表の活動が始まるにあたり、どちらかに偏って発信されるようなことがあるなら、ちょっと思い出しておいてほしい言葉である。

取材・文=川端暁彦

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