2018.08.21

日本代表はロシアW杯をどのように戦ったのか?―林雅人とのディスクール(言葉による表現)―

サッカーライター

文=川本梅花

 2018FIFAワールドカップロシアの決勝戦から1カ月以上が経ち、欧州主要リーグでは新シーズンが開幕した。遅ればせながら、ロシアW杯における日本代表の戦いを総括したいと思う。その理由は一つ。この時点においても、サッカーライターとしての私が納得できる、日本代表の評価に巡りあえていないからだ。

 ロシアW杯直前というタイミングでヴァイッド・ハリルホジッチ監督を解任したことに釈然としていないのか。それとも、コミュニケーションの弊害という理由から解任を決めた、日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長に対する不信感なのか。あるいは、西野朗氏を監督に招いた経緯への疑念か。または、森保一氏が新監督になったことへの戸惑いか。

 さまざまな事象を頭の中で巡らせてみたが、どうしても納得できない。そこで、ロシアW杯における日本代表の戦いを検証し、各試合のポイントを整理することにした。そうすれば、なぜ納得できないか、その糸口が見いだせるかもしれない。そう考えてからだ。

 試合を分析するため、ある人物に協力を求めた。その人物とは、FC今治でホームタウングループコーチをしている林雅人氏だ。林氏のプロフィールは、FC今治のWebサイトを参照されたい。
http://www.fcimabari.com/staff/staff_detail/masato_hayashi.html

 林氏は、私のサッカー分析力を開眼させてくれた人物であり、2冊のサッカー分析本で監修をお願いしている。

『サッカープロフェッショナル超観戦術』(カンゼン/2010年)
『サッカープロフェッショナル超分析術システムマッチアップ分析至上主義宣言』(カンゼン/2013年)

 私は、自分の考えを整理しながら、林氏とディスクール(言葉による表現)を開始した。

■攻める必要のなかったコロンビア代表戦


コロンビア代表1-2日本代表
https://www.soccer-king.jp/news/japan/national/20180619/779764.html

――ロシアW杯における日本代表の試合を振り返り、ポイントとなる点を検証したいと思います。

林雅人 けっこう時間が経ちましたからね。記憶をたどりながら話していきましょう。

――まずはグループリーグ第1戦。コロンビア代表との戦い。ポイントはどこにあったと考えますか?

林雅人 そこはもうシンプルに判断して、レッドカードのところですね。

※コロンビア代表カルロス・サンチェスが自陣ペナルティエリア内でハンドリングの反則。日本代表にPKが与えられ、カルロス・サンチェスは退場となる。

――確かに意図的なファウルでしたね。

林雅人 決定的な場面で、手を出して止めた。レッドカードは正当な判断だと思います。

――11対10になってから、コロンビア代表は「1-4-4-1」となり、守備を固めました。

林雅人 どんなチームでも、W杯初戦で10人になったら、相当にキツイはずです。スピードのあるカウンター。「攻→守」「守→攻」の素早い切り替え。前に出て行く力と、それを支える体力。10人で戦うことは相当にキツイ。こうした状況では、体力の消耗も速くなります。

だから日本代表は「もっとプレッシャーを掛け、ボールを奪いに行ってもいい」と思いました。しかし、それほど相手にプレッシャーを掛けなかった。ボールを回すだけでも、相手の体力は消耗される。時間経過とともに、相手の体力は消耗する。そうしたことを考え、プレッシャーを掛けなかったのでしょう。

――日本代表が攻めあぐねたという論評もあります。

林雅人 そんなことはなかったですよ。2点目を取れるチャンスはありましたから。サイドにもう少し振ってもいいかなとは思いました。コロンビア代表は10人になってから守備に入り、固めてきましたよね。コロンビア代表は引いて守っているため、日本代表はカウンターを狙えない。しかし、大きくボールを振ってサイドチェンジすれば、コロンビア代表はスライドする必要がある。そうなると、日本代表は攻撃の選択肢が増えますよね。

――ボールを右から左に大きく振ることで、相手も右から左にスライドして守備をすることになる。スライドしたことでポジションにズレが出る。そうなれば、中央からも攻めやすくなる。

林雅人 ですから最初は「サイドをもっと使ったらいいのに」と思ったのですが、時間が経過するにつれて「この試合はそんなに攻める必要がないな」と感じるようになりました。W杯の開幕戦で、相手は10人。さらにリードしているのだから、手堅い試合で勝てばいい。そう感じている選手もいたと思います。

だから、そんなにサイドを使わないでいい。あまりリスクを負っても仕方がない。とにかく勝てばいい。選手たちは、そう思っていたことでしょう。「もう1点取ろう」という感じは見られませんでしたから。

それを「停滞」あるいは「攻めあぐねた」と表現したり、「もっと攻めなよ」と言ったりすることは簡単です。しかし、格上のコロンビア代表からリードを奪っているのであれば、攻める必要はない。それにコロンビア代表はカウンター狙いなので、無理に攻めれば逆に餌食になった可能性もあります。

■セネガル代表の特徴を分析、利用してスペースを作る


日本代表2-2セネガル代表
https://www.soccer-king.jp/news/japan/national/20180625/783133.html

――グループリーグ第2戦はセネガル代表と対戦。日本代表はセネガル代表に先制されるも追いつき、勝ち越されるも再び追いつく。日本代表では珍しい展開でした。この試合のポイントは?

林雅人 ビルドアップする際に、MF長谷部誠が降りて3バックとなり、ビルドアップを開始したことです。日本代表は、セネガル代表の19番(エムバイェ・ニアン)の1トップになると予想していたのでしょう。

――セネガル代表は「1-4-3-3」の中盤の3人は逆三角形を作る。日本代表は守備時が「1-4―4―2」で、攻撃時は「1-4-2-3-1」。日本代表はビルドアップの際に3バック「1-3-3-3-1(1-5-1-3-1)」になる。

林雅人 8分過ぎに長谷部が、センターバック(CB)の吉田麻也と昌子源の間に降りてくる。長谷部をマークする17番(バドゥ・エンディアイェ)が付いてくる。彼の横にいる5番(イドリッサ・ゲイェ)は逆に全く上がってこない。13番(アルフレッド・エンディアイェ)の後ろに香川真司が入ると、13番は香川に付いていく。そして吉田は19番をマークする。そうすると、日本代表は柴崎岳がフリーになり、前を向いてボールを運べる状態となる。

――この試合で日本代表の良かった点は?

林雅人 香川のポジショニングが良かった。ファーストポジションから下がることで、相手が付いてくると分かると、それを利用してスペースを作っていました。

――日本代表がシステムの組み合わせのメリットを利用した点も良かったと思います。

林雅人 長谷部が降りて3バックになった時点で、最終ラインの日本代表が3人でセネガル代表は1人と、3対1になります。セネガル代表の両ウイングは、日本の長友佑都と酒井宏樹がマッチアップします。中盤では香川と13番がマッチアップする。何よりも、セネガルの両ウイングは、日本代表のサイドバック(SB)が上がっていくと、どこまでも、どんな時でも付いてくる。ホント、すぐに食いついてくるのです。

日本代表のSBが高い位置を取れば取るほど、相手は付いてきてポジションを下げるため、中央が空きますよね。そこに柴崎がフリーとなる構図がある。セネガル代表をよく分析しているなと思いました。

――柴崎は良かったですね。

林雅人 柴崎は縦を意識してボールを出します。体の使い方を見れば、彼がレベルアップしたと分かります。腰を入れてボールをキープするなど、欧州でプレーした結果、相手のプレッシャーの掛け方に慣れたと思います。

――セネガル代表の選手は、ボールを持った日本代表の選手に付いてくる。日本代表の分析班は事前に、このことを理解していたのでしょう。

林雅人 長谷部が下がって3バックになった場合、セネガル代表は2トップにならないとプレッシャーを掛けられない。しかし、セネガル代表は1トップなので、日本代表は最終ラインでボールをキープできる。その結果、前線の選手は動きやすくなる。また、セネガル代表は、どこまでもマッチアップする相手に付いていくため、両ウイングが最終ラインに吸収されて6枚になる。その結果、日本代表は真ん中に動けるスペースを作れたのです。

――日本代表は、フィジカル面で欧州やアフリカの選手にかなわない。そこでフィジカルコンタクトを避けるやり方を選択する。つまり、ボールを回し、なおかつ選手が動くことでスペースを作る必要がある。そしてセネガル代表は、マッチアップの相手に付いていく選手が多いため、それを利用した戦い方をした。

林雅人 日本代表が、欧州やアフリカ、南米の代表相手にした場合、どう戦うのか。僕は、そのやり方が少し見えたように思いました。

――ところでハリルホジッチ氏は「デュエル」という言葉を使っていました。以前話を聞いた時、オランダのライセンス講習の中でも「デュエル」は使われている、つまり、目新しい言葉ではないと話していましたよね。

林雅人 「デュエル」を強調していたのは、特に守備の部分だと思います。フィジカル的に不利であっても、相手にぶつかっていく必要がある。ボールを奪わないといけない。前線の選手は“特に”ですけど、しっかりボールを収めないと試合にならない。

――それは個人戦術ですよね。フィジカルの違いを技術というよりも、個人戦術でカバーする。

林雅人 そうですね。技術というよりも……、例えば、大迫勇也には個人の戦術があると思います。どこへボールをもらいに行くのか。もらった後のボールの置きどころはどうなのか。こうしたことを挙げたら、ものすごく細かくなっていきます。「うまくなる」とか「技術を上げる」よりも、「個人戦術を高める」と言った方が適切だし、具体性が出ますよね。

――個人戦術に長けていないと、相手がプレッシャーを掛けてきた場合に、うまくボールをキープできない。

林雅人 今回の日本代表は特にそうですが、欧州でやっている選手が増えたことで、細かい個人戦術が高まり、相手のプレッシャーの掛け方に慣れてきた。個人戦術の大切さを考えられる選手が増えてきた結果、対戦相手に対してある程度は対応できるようになったと思います。

■試合前にポイントがあったポーランド代表戦


日本代表0-1ポーランド代表
https://www.soccer-king.jp/news/japan/national/20180629/785719.html

――ポーランド代表戦は選手の6人を入れ替えて……。まあなんと言うか、西野朗監督は博打打ちですね。勝つか、あるいは引き分けでもグループリーグ突破できる可能性のある試合でした。

林雅人 試合内容を見れば、最初は勝ちに行っていますね。

――試合開始当初は、ファーストディフェンダーが相手のディフェンダーにプレスに行っていたから、勝つ気持ちはあったと思います。

林雅人 ポーランド代表はグループリーグ敗退が決まっていました。そこで日本代表は前線の選手がボールを追うことで、ポーランド代表のメンタルをくじこうとした。もし、ポーランド代表が多少でも集中力を失ったら、点を取ろうというスタイルだったと考えられます。いずれにせよ、ポーランド代表にとっては消化試合ですから。

――試合終了15分前くらいからは、自陣でボールを回しているだけでした。

林雅人 0-1になってから、ポーランド代表が引いて守っていたため、カウンター攻撃はできない。実際、攻めに行ってボールを奪われ、ロベルトレヴァンドフスキに点を入れられそうになります。

――この試合のポイントはどこでしょうか?

林雅人 6人の選手を替えたことですね。相当な分析をしたと想像します。あらゆる状況を想定した選手選考と戦い方でした。ポーランド代表はグループリーグを通過できない。一方、日本代表はコロンビア代表とセネガル代表の試合結果次第で、負けても突破できる。そこで、照準をグループリーグ第3戦にではなく、次の試合、決勝トーナメント1回戦に合わせた。あの時点で、僕にはそういう決断はできない。だから、相当なギャンブルだと思いました。

――グループリーグを通じ、日本代表の戦い方はどうでしたか?

林雅人 分析班と選手たちのすり合わせから生まれた戦い方だったと思います。そこには当然、西野監督も同席したはずです。このチームは、どうやったら結果を出せるのか?日本代表の分析班の勝利と言ってもいい。この状況ではこうして、こうなったらこうやって、といった分析がすごかったんですよ。ただ、ベルギー代表戦では、2-0でリードした場合の試合分析がなかったと思います。

――確かに、日本代表が後半、2-0でリードする状況は想定不可能だからね。

■ベルギー代表相手に、どうすれば逃げ切れたのか


ベルギー代表3-2日本代表
https://www.soccer-king.jp/news/japan/national/20180703/787896.html

――ベルギー代表戦でのポイントはどこでしょうか?

林雅人 マルアン・フェライニが入ってきてからですね。それまでは、ロメル・ルカクの1トップでした。エデン・アザールが左。ドリース・メルテンスが右。フェライニが入って2トップにしました。

――その場合の対策は?

林雅人 3枚にする方法が1つ挙げられると思います。

――4バックを3バックにする。3枚の1人に植田直通を入れるとかですかね。

林雅人 フェライニよりも大きい選手がいないので、僕ならば、岡崎慎司がケガをしていなければ、CBにしてフェライニをマークさせます。クロスでも競り合えるし、献身的にボールを追いかけられる。この1試合を乗り切ればベスト8ですよ。それならば平常時に取らない対策をしてもいい。とにかく勝てばいいのですから。

――ベルギー代表は、フェライニとナセル・シャドリを入れて「4-4-2」にしました。

林雅人 4バックと言っても、CB2枚とSB2枚の純粋な4バックではないですが。

――2点をリードしての戦い方。そこは準備不足というか、想定外だった。

林雅人 フェライニが入ってきてロングボールを多用してきました。ベルギー代表は、前線の選手がボールを収められていた。そこで日本代表は、ラインを下げてカウンターを狙うべきでした。大迫を残して1トップにする。そして柴崎を残し、縦パスを狙わせる。日本代表は、延長戦に持っていく戦い方を想定していなかった。

――ベルギー代表のカウンターから3失点目を喫した場面は、GKティボー・クルトワをブロックするとか、対応の仕方があったのではないか。いまだに思ってしまいます。

林雅人 山口蛍が自陣に下がってとか、香川のポジショニングとか、挙げたらきりがないのですが“勝負の神さま”は細かいところで勝敗を分けるのだと思いました。これは選手の誰もが「そうだ」とは言わないでしょうが……。おそらくCKが「ラストプレー」だと決めていたのでしょう。だから、次のプレーへの動作が遅れたと思います。

■ディスクールを通じて浮かび上がった違和感の正体

――日本代表の戦い方に可能性は感じましたか?

林雅人 すごく感じましたね。相手をブロックしてキープできる選手が増えてきた。日本人選手の特徴として、ある面では「動き過ぎ」と言われるかもしれないですが、俊敏性と言えばいいのか。そこはやっぱり日本人選手の特徴ですよね。それと、対戦相手の分析ですね。分析班の仕事は、ものすごく高いレベルにあったと思います。そうした裏方の仕事も、今回は表に出てきました。

技術力、つまり個人戦術力をもっと上げれば、今度は相手が日本代表に対応してくることになる。いままでは、日本代表が相手に合わせる戦い方だった。それが逆に、相手が日本代表に合わせる戦い方をしてきたら、それこそ日本代表が強くなった証拠になります。

困難な状況に立たされた時、個で突破できるようになる必要がある。それと、斜めの大きなボールを蹴れる選手が柴崎1人しかいない。そうしたことを自然とこなせる選手が増える必要がある。もっともっと育成年代から個人戦術を高めていけば日本は世界を驚かせることができると信じています。

――ここまでのディスクールを通じ、なぜ、いままで納得できなかったのか、分かってきました。試合の見方や、日本代表の試合に対する評価に、納得できていなかったのだ、とあらためて気付きました。ディスクールに付き合っていただき、ありがとうございました。

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