2018.08.15

ネパール率いる行徳監督の策が日本代表を苦しめる…「アジアの底上げは日本の強化」が形に

U-21日本代表のアジア大会初戦はネパールに1-0の辛勝という結果に [写真]=AP/アフロ
2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

 U-21日本代表のアジア競技大会第1戦は、ネパールに1-0勝利という何とも難しい試合になった。

 シュート数22対1という端的な数字に表されるように、試合は完全な日本ペース。開始7分でMF三笘薫(筑波大学)が先制点を奪ったときはゴールラッシュへの期待感も高まったのだが、そういうゲームにはならなかった。これについて日本側の「決定力」に原因を求めることは容易なのだが、サッカーは相手のあるスポーツ。ネパール側の奮戦についても触れられるべきだろう。彼らが辛抱強く、粘り強く戦い続けたからこそ、スコアは動かなかったのだ。

 そんなFIFAランキング161位のチームを率いていたのは行徳浩二監督。日本人だ。かつて清水エスパルスやFC岐阜でも指揮を執り、大宮ではコーチも務めた。個人的には清水ユースやジュニアユースの監督としての印象も強い指導者である。そんな男がネパール代表監督を務めている背景には、日本サッカー協会が進めるアジア貢献活動がある。

 端緒になったのは1999年にマカオサッカー協会からの要請を受け、上田栄治氏を代表監督として派遣したこと。アジアのサッカー後進地域にとって日本は学ぶべき相手と認識され、指導者の派遣が待望されていることが分かった日本協会は、これを機に組織的な指導者派遣事業を展開するようになった。国際協力機構(JICA)などとも連携し、いまではすっかり定番の施策となっている。さすがに男子のA代表監督は他に東ティモールと北マリアナ諸島くらいだが、モンゴル、チャイニーズ・タイペイ、カンボジア、ブルネイ、シンガポール、ブータン、スリランカといった国々に審判や技術部門などを含めて人材を派遣している。行徳監督はかつてブータン代表監督も務めており、このネパールは二度目の派遣になる。

Jリーグでは清水や岐阜を率いた経験がある行徳監督(写真は2013年・岐阜監督時代) [写真]=J.LEAGUE

 日本側のメリットとしては、ライセンス保持者に雇用の場を創出することや各種の選挙戦での協力を取り付けやすくなるといった現実的な部分に加えて、「アジアが強くならないことには日本も強くならない」(田嶋幸三会長)という考え方がある。欧州や南米が強いのは彼らが高いレベルで競り合い続けているからで、アジアで行われる試合が低レベルで緊張感がなければ、日本代表のレベルアップも難しい。だからこそ、アジアのサッカー後進地域と言われるエリアに人材を送り込み、底上げの手助けをすることが巡り巡って日本サッカーの強化にもなるということだ。

 このネパール戦は、そうした意義を体感させられることになる機会でもあった。行徳監督が「敗れはしたが、悪い結果ではなかった」と試合を総括したように、ネパールの戦いぶりは称賛されるべきもの。また、日本のことを熟知する指揮官がこの試合に向けて準備した「森保スタイル」への対策も、興味深いものだった。3-4-2-1システムを採用する日本の両ウイングバックにマンツーマンディフェンスを貼り付けて徹底監視。一方、4バックはサイドを捨てて中央に絞って1トップ2シャドーを監視し、打開のポイントを封じてきた。

「初めての感覚というか、(長沼)洋一も杉ちゃん(杉岡大暉)も、みんなどうしたらいいか分からへんかった」(初瀬亮)

「なかなかないと言うか、初めて。難しい」(長沼)

 そもそも森保式の3-4-2-1システムの肝はウイングバックを孤立化させてスペースを与え、そこで勝負を仕掛けていくこと。4バックのSBにぶつけられれば理想的な形を作りやすいのだが、相手のSBは絞って、ウイングバックにマンツーマンとなると、イメージしていた形を出しづらい。スタンドから観ていても日本の両翼が戸惑っているのはよく分かった。結局、日本は立ち上がりに相手に守備のミスが出たところから1点を奪っていたことで事なきを得た形だったが、あの先制点がなかったらと思うと、ゾッとする流れだった。森保式への対策としてもアジア各国にヒントを献上してしまうような、そういうゲームだったかもしれない。

三笘薫

早い時間での三笘のゴールが決勝点に [写真]=日刊スポーツ/Aflo

 試合後「われわれは良い仕事をやり切った」と胸を張って行徳監督が言ったのに対し、森保監督も「日本の良さを消してくるための戦術をネパールがしっかりと準備してきたことによって、われわれは厳しい戦いを強いられました。今日、戦術的な戦いはネパールのほうが、と思う」と行徳監督の鍛えたチームの戦いぶりを称えた。加えて、行徳監督に付いてこうも言う。

「習慣も文化も違う中で仕事するのはそんなに簡単ではないと思う。そこで国の中に溶け込み、サッカーという共通のツールを通して、日本のサッカーの指導者がアジアのサッカーのレベルアップに貢献されている。その仕事を日本人として誇りに思っている」

 行徳監督の鍛えたチームとの戦いは日本にとって良いレッスンとなったのは間違いない。引かれた相手に対してどう戦うべきか。今回のネパールのように90分間ウイングバックにマンツーマンを採用してくるチームはそこまでないにしても、リードしたあとの逃げ切り策など時間限定でやってくるチームは十分に想定できる。では、どうすべきだったのか。もっとシンプルにクロスをFWへ入れても良かったかもしれないし、いっそウイングバックを張らせる戦術的な縛りを崩してもよかったかもしれない。それを考えられること自体がポジティブだ。

 この経験値は財産になるし、その背景にはアジア各国に指導者を送り込んでボトムアップを図る日本の施策がある。苦しまされて喜ぶのも実に奇妙な話ではあるが、「アジアのレベルアップなくして日本のレベルアップなし」という言葉の意味が実感される試合でもあった。

取材・文=川端暁彦

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