長友(右)はこの4年間の想いをすべてぶつけるかのような、魂の込もったプレーを見せている [写真]=Getty Images
長友佑都は夢をかなえたことがない。プロサッカー選手になり、ヨーロッパの強豪クラブでプレーし、(素敵な奥さんをもらい、)ワールドカップに3度出場しているにもかかわらずだ。周囲から見れば次々と夢をかなえてきたような人生……しかし、本人には「夢」に対して独自の解釈がある。
「小学生の時にプロサッカー選手になりたいと思った。それは僕にとって大きな夢でした。でも大学に進学して、もしかしたらプロになれるかもしれないと思った瞬間に、その夢は目標に変わった」
夢は夢のままじゃかなわない。だから「なりたい」から「なる」に、「したい」から「する」に変換する。それを、人生を通して実行してきたところに長友の強さがある。しかし、あらゆる夢を目標に変えてきた長友も、4年前のブラジル・ワールドカップは夢が夢のまま終わってしまった。結果は1分け2敗の惨敗。決勝トーナメントの舞台にすら立てず、日本初のベスト8の夢は打ち砕かれた。
「ブラジルW杯のためにすべてを注いできたので、なかなか結果を受け入れることができなかった。消化するのに時間がかかった。4年間で積み上げてきたものが本当に正しかったのか。何度も自問自答しました」
夢を目標に変えるだけの力が足りなかった。目標として狙える位置にさえたどり着いていなかった。ブラジルで味わったのは「人生最大の挫折」だと長友は振り返る。それでも、この4年間で文字どおり血のにじむような努力を重ねてきた。そしてロシア大会では、「ベスト8に行きたい」という夢が目標に変わるところまできた。
日本は決勝トーナメント1回戦でFIFAランキング3位のベルギーと対戦する。この一戦を前に長友は、「ワクワクしている。自分たちの力を信じているし、絶対にいけるという強い気持ちがある」と笑顔を浮かべる。
ベスト8を目標として捉えるようになった今、長友の夢は何なのか。ポーランド戦後にたずねると、少し考えてこう答えた。「一つ勝てばベスト8ですからね。夢はベスト4です」
ベルギーを倒すのは決して簡単ではない。それでもベスト8という夢を4年越しで目標に変換した長友ならば、ベスト4という夢さえも目標に変えてしまうのではないか。彼の強い覚悟と、自信に満ちた表情を見ていると、そう思わずにはいられない。
取材・文=高尾太恵子