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【コラム】夢のW杯初得点で勝利に導いた大迫勇也、“半端ない男”が示した4年間の成長

2018.06.20

値千金の決勝ゴールを挙げた大迫勇也。子供の頃からの夢を叶えた瞬間だった [写真]=Getty Images

 眩しい日差しが照り付けたサランスクのモルドヴィア・アリーナで日本代表の戦いが始まった。6月19日の現地15時にキックオフを迎えた2018 FIFAワールドカップ ロシアのコロンビア戦。その開始早々の3分の出来事だった。

 大迫勇也(ケルン→ブレーメン)がダビンソン・サンチェス(トッテナム)との競り合いに勝ち、抜け出して一目散にペナルティエリア内へ走った。次の瞬間、GKダビド・オスピナ(アーセナル)と1対1になり、思い切って右足を振り抜く。これは守護神に弾かれたものの、詰めていた香川真司(ドルトムント)が拾ってダイレクトでシュート。カルロス・サンチェス(エスパニョール)が手で防いで一発レッドを食らうと同時に、日本にPKが与えられた。

 スタジアムが騒然とした空気に包まれる中、背番号10はGKの動きを見てから蹴る余裕を見せつけ、日本がいきなり先制。数的優位の状況も手に入れることになった。「個人的には決めたかったけど、結果オーライになったのはホントによかった。あそこで負けずにDFに勝てたのは、この4年間ドイツでやってきたから」と先制弾をお膳立てした大迫はしてやったりの表情を浮かべた。

 このワンプレーで自信と勢いを得た点取屋はその後も積極果敢に前へ出る。前半32分にはウィルマル・バリオス(ボカ・ジュニオルス)のバックパスを鋭い出足でカットし、左から持ち込んでシュート。54分にも香川の縦パスを受け、D・サンチェスを背負いながら反転して左足を一閃。これもオスピナに弾かれたが、確実に決定的な場面を作っていた。

 こうしたゴールへの貪欲さが結実したのが、73分の決勝弾だった。その直前に香川と代わって入った本田圭佑(パチューカ)の左CKに、大迫はドンピシャのタイミングで頭を合わせ、ゴールネットを揺らした。

「圭佑さんが練習からいいボールを蹴ってくれて、練習からも得点が多かった。質のいいボールをゴール前に入れてくれたんで感謝しかないです」と本人は目を輝かせた。もともとはヘディングシュートは苦手だったというが、鹿島アントラーズ時代の先輩・秋田豊氏から指南を受け、自分のものにしたという。その伝家の宝刀が日本の命運を左右する大一番でさく裂し、大迫はマン・オブ・ザ・マッチに輝いた。

「自分の中では前回の経験が生きたかなと。前回の初戦(コートジボワール戦=レシフェ)でああいう負け方(1-2の逆転負け)をしてしまって、個人的にも何もできなかった。ワールドカップは全てがうまくいく大会ではないし、ホントに悪い時もある。その中でどれだけ自分たちが歯を食いしばって頑張るかだと思う」と本人がしみじみ述懐した通り、大迫のロシアでの戦いはブラジルで味わった大いなる屈辱が原点だった。

 ドイツ・ブンデスリーガ2部・1860ミュンヘンでの半年間のプレー経験を武器に挑んだ4年前は、初戦と第2戦のギリシャ戦(ナタル)で先発出場のチャンスを与えられたが、全くと言っていいほど仕事ができなかった。その結果が最終戦・コロンビア戦(クイアバ)での出番なし。不完全燃焼感ばかりが募る初のワールドカップになってしまった。

大迫勇也

ブラジル大会でW杯初出場を果たしたが、2試合に出場しノーゴールで終わった [写真]=Getty Images

「意識の問題だと思う。コートジボワール戦は相手のメンツを意識しすぎて引いてしまった。その反省を踏まえてギリシャ戦は前から行って支配したけど、結局ゴールを取れなかった」と国際経験の乏しかった当時24歳のFWは反省しきりだった。

 彼の言う「意識の問題」を克服するには、ドイツで実績を積み重ねるしかない。そう自分に言い聞かせてケルンでコツコツと力を蓄えた。ペーター・シュテーガー監督からは信頼を寄せられ、2014-15シーズンはブンデスリーガ1部で28試合、15-16シーズンは同25試合とコンスタントにピッチに立った。ただ、ポジションは必ずしもFWとは限らず、トップ下や2列目のサイド、時にはボランチ的な役割でも使われた。FWで勝負したい本人はジレンマを抱えたが、それでも腐らず、前向きに戦い続けたことで、16-17シーズンの同30試合出場7得点という一定の成果を残すことに成功。ラストのマインツ戦ではケルンを25年ぶりの欧州カップ戦に導く決勝点を挙げる大仕事もやってのけた。

 今シーズンは残念ながらクラブを2部降格から救うことができなかったが、4年間を通して「欧州トップレベルでも十分やれる」という確固たる自信と風格が備わったのは確かだ。屈強なDFと対峙しても確実にボールをキープし、フィニッシュに持ち込むこの日の一挙手一投足に心身両面での大きな進化が如実に感じられた。

 今大会を迎えるに当たっては、エースFWとしての責任を全うすべく、あえてメディアを遠ざけ、不言実行でここまで来た。「いくら叩かれても試合はあるし、いくらいいことを書かれても試合はあると僕は考えていて、その中で結果を出すことが全てだと考えていた。そこで出せなかったら叩かれてもしょうがないし、もう割り切ってやっていましたね」と周りの目を気にせず、自分の仕事だけに徹底的に集中した。

 こうした努力の結果がコロンビア戦での2得点に絡む目覚ましい働きだったのだろう。かつて2009年正月の高校サッカー選手権で「大迫、半端ない」と対戦相手に言わしめた怪物ぶりを、2度目のワールドカップで遺憾なく発揮した。この男の非凡な才能に賭けた西野朗監督も安堵しているに違いない。子供の頃からの夢だったワールドカップでのゴールを現実にした背番号15が次に見据えるのは、日本の2大会ぶりのラウンド16進出だ。そのけん引役になるべく、絶対的1トップはさらなる高みを目指し続ける。

文=元川悦子

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