2018.06.19

コロンビアの弱点は?日本がとるべき戦術とは?蘭代表&アヤックスユースの日本人アナリストが徹底分析!

コロンビア代表のキンテーロ、ファルカオ、ハメス・ロドリゲス(左から) [写真]=Getty Images
サッカー総合情報サイト

 開幕戦から熱戦が続くW杯は、世界各国のサッカーの見本市として、一流選手たちの4年に一度の“本気”が見られる舞台として、クラブシーンとはまた別の学びがある。

 19日、いよいよ初戦を迎える日本代表。相手となる南米の雄コロンビアはどんなチームなのか? オランダ・アヤックス/オランダ代表のユースカテゴリでアナリストを務める白井裕之氏にコロンビアのスカウティングを依頼した。世界レベルの分析力を持つ白井氏が導き出したコロンビアの戦略とは? ストロングポイント、ウィークポイントを踏まえて、日本代表がとるべき戦術、勝機を見出すポイントは? 初戦を戦う日本代表を念頭に、コロンビアのW杯予選、テストマッチを白井氏に分析してもらった。

取材・文:大塚一樹 提供:COACH UNITED

■対戦相手を分析するスカウティングとは?

アヤックス/オランダ代表のユースカテゴリでアナリストを務める白井裕之氏

「スカウティングと言うからには、ただ対象チームを詳細に分析すればいいというわけではなく、自チーム、この場合は日本代表ですよね。日本代表がコロンビアと戦うことを想定して、つねに噛み合わせを見ながら分析をする必要があります。両チームが戦うシチュエーションや、状態も重要な要素です」

 データ分析が進む欧州の、しかも実戦の舞台で日常的にスカウティングを行っている白井氏は、「コロンビアを丸裸に」「弱点を見つける007」といった日本的なスカウティングのイメージに「多少誤解がある」と説明する。

「相手チームの全体を把握し、自チームが具体的にどう対処し、どう戦うのか、どこに勝機があるのかを見出すのがスカウティングの流れになります」

 スカウティングというと、相手チームの「穴」や特定の選手の特徴、セットプレーのやり方など、とかく部分に目が行きがちで、一部分だけを抜き出した“パターン”が取り沙汰されることが多い。しかし、自チームが戦うため、勝つためにスカウティングを機能させるためには、事実に基づいて相手チームの全体を把握し、自チームとの噛み合わせの中で再現性が高いであろうピンチとチャンスを見分け、相手のやり方に対してどんな「調整」が必要か? 勝機はどこにあるのか? まで見ることが重要だという。

 では、白井氏の言葉でコロンビア戦のスカウティングを行ってもらおう。

■攻撃時のビルドアップに特徴を持つコロンビア

図①

 まず、大前提として考えておきたいのが、日本代表がこの試合をどう位置づけ、どんな狙いを持ってプレーするかということです。W杯の初戦です。初戦を落としたチームがグループリーグを突破する確率は10%未満、まずはここを死守したい。負けないことがこの試合の絶対必要条件になることは、誰の目にも明らかでしょう。

 今回のスカウティングに当たって、コロンビアの試合を相当数見ました。日本代表との比較で言ってもコロンビアは簡単な相手ではありません。相対的な相手との力関係によって何をどう“調整”するのかも重要なポイントです。大切な初戦で「負けないこと」を念頭に置いた場合、日本代表のやるべきことは自ずと決まってきます。

 過去の試合のゲーム分析から見えてきたコロンビア代表の全体像、つまり「戦略」は、攻撃、守備、攻守の切り替えの各チームファンクション(サッカーの局面)と各フィールドごとの「狙いと原則」を見分けることで把握できます。

 多くの人がコロンビアに対して抱いている「個人技に長けていて、攻撃的なチーム」というのは印象でしかありませんが、攻撃時、守備時、そして攻守の切り替えのときにどんな狙いを持って選手たちが動いているのか? 状況に応じて、またはフィールドの場所に応じて、選手たちがどんな原則を守ってプレーしているのかを見分けることが、コロンビアの戦略を見分けることにつながります。

 コロンビアはチームとしてゲームメイク戦略、なかでもポジショナルプレーを採用しているチームです。チームオーガニゼーションは「1-4-3-3」。場合によって形を変えることはありますが、彼らのやろうとしているサッカーから見て、多くは「1-4-3-3」の変形と考えた方がいいでしょう。(※図①参照)

■コロンビアの攻撃の原則は?

図②

 次に見るべきは、攻撃、守備、攻守の切り替えのそれぞれのチームファンクションでどんな原則を持ってプレーしているのかということになりますが、今回はコロンビアの「攻撃」に絞って話を進めたいと思います。攻撃時にフィールド全体を縦に3分割した各フィールドでどんなプレーをしているのか観察することが、相手チームの攻撃時の戦略を解き明かす鍵になります。

 コロンビアは自陣に近いフィールド1から数的優位の状況を作り出すべく、ショートパスでビルドアップを行います。フィールドを広く深く使い、その中でポジションチェンジやドリブルを効果的に使いフリーマンを作り出していくのです。

 中でも特徴的なのが、サイドバックの選手が両サイドに開き、非常に高い位置をとり、ウイングの選手と頻繁にポジションチェンジを繰り返します。これは左右どちらにも、また選手が代わっても共通してみられる傾向でした。

 そして、もう一つの傾向は、両サイドバックが高い位置をとったスペースに両センターバックが開き、主にアンカーを務めるカルロス・サンチェス(エスパニョール)が、DFラインの近くまで下がってボールを受け、フィールド1で数的優位を作り出す点です。(※図②参照)

 ここでリズムを作って、前戦につなげていくのがコロンビアのチームとしての原則です。カルロス・サンチェスはかなり重要な役割を占めていますが、彼が何らかの理由で不在の場合も、誰かがこのポジションで同じタスクを担うはずです。

 もう一つ特徴的なのは、たとえ数的優位が作り出せない状況、数的同数、数的不利なときでも、相手ゴールに近いフィールド3においてドリブルやパス交換といった方法で得点してしまうところです。みなさんご存知のハメス・ロドリゲス(バイエルン・ミュンヘン)の足下にボールが入って、前が向ける状況になったり、ストライカーであるラダメル・ファルカオ(モナコ)にパスが渡るような状況があれば、日本のディフェンスの人数が足りていてもやられてしまうことが予測されます。

 こうした点を踏まえて、日本代表が守備のチームファンクションで優先すべきなのは、コロンビアのビルドアップの妨害(フィールド3に侵入させない)ということになります。相手のビルドアップの原則を見分けて、それを妨害していく。コロンビアのフィールド3では、できるだけボールを自由に動かせないように、フィールド1、2の段階から意図的な守備を行うことが大切です。

■ピッチに「城」を築きコロンビアのビルドアップを妨害せよ!

図③

 ゲーム分析を行っている中で、日本代表がビルドアップの妨害をする際に参考になる試合がありました。アジアのライバル、オーストラリア代表がコロンビア代表と戦った試合です。今年の3月27日に行われたこの試合では、オーストラリアがコロンビアを組織的な守備でシャットアウト、0-0で試合を終えています。

 このときオーストラリアが行ったのは、フィールド1ではプレッシャーをかけに行かず、フィールド2で守備の網を張り、ボールを奪うという戦術の徹底でした。

 こうすることで、コロンビアはオーストラリアの強固な守備ブロックを避けるように、サイドにボールを回さざるを得ない状況に追い込まれました。ウイングの選手とサイドバックがポジションチェンジを繰り返しながら相手陣深くに切り込むサイド攻撃はコロンビアの攻撃のストロングポイントですが、中央でのビルドアップを交えながら有機的に行うサイド攻撃と、パスコースを制限された結果、準備の整った守備陣に向かって行うサイド攻撃ではまったく意味合いが違います。

 こういったシーンはオーストラリア戦だけでなく他の試合でも多く見られました。日本代表が目指すべきは、相手のストロングポイントの発動を防ぎ、あわよくばそれを逆手にとってウィークポイントの発生を促すことでしょう。

 ここからはオーストラリアのやり方をヒントに、日本代表がこう戦えばコロンビアのビルドアップの妨害ができるという戦術を考えてみましょう。

 私は日本代表のスタッフではないので、選手のコンディションや現在の状況を正確に把握しているわけではありません。西野朗監督が、事前にこのような情報を得ている可能性はあっても、チームの状況や選手の状態によってやり方は変わりますし、現場では当初の予測が外れた後にどうアジャストするかの方が大切なので、このやり方が絶対的に正しいというわけではありません。

 ゲーム分析で導き出したコロンビアの戦略をもとに、ビルドアップの妨害がもっとも効果的にできる戦術の一つとして見てもらえればと思います。

 日本代表は、ビルドアップを行うコロンビアをフィールド2で待ち構えてもらいます。具体的には30メートル×30メートルの守備ブロックをまるで城郭を築くように形成し、コロンビアが攻撃しているときのボールをできるだけそのブロックの外で回させるのです。(※図③参照)

 図③がそのやり方を示したものですが、線で囲った青い四角が、日本代表が築く「城」だと思ってください。この中にボールが入らないように選手間のポジションと距離を調整し、コロンビアにはこのお城のお堀の部分、つまり城壁の周辺でボールを回してもらいます。

 右サイドのウイングを務めるフアン・クアドラード(ユヴェントス)は、縦への突進力はもちろん、中に入ったときに決定的な仕事ができる厄介な選手。彼と右サイドバックの選手のポジションチェンジはコロンビアの攻撃オプションの一つですが、お城の外、サイドライン付近での縦のポジションチェンジに限定できれば、守備をする日本にとっては「人が代わるだけ」なので、脅威は半減します。

 ハメス・ロドリゲスに対してのケアも、お城が堅固な状態で保てている間はリスクがかなり軽減します。ハメスは左サイドに下がってボールを受ける傾向がありますが、お城の中にボールを入れさせなければ、城壁付近、またはその外でボールに触るに留まるはずです。

図④

■コロンビアのストロングポイントがウィークポイントにもなり得る

図⑤

 日本の守備に関してはこれでかなりコロンビアのストロングポイントの発動を抑えられることになります。私がこの“お城戦法”を導き出したのは、この戦術が、日本の攻撃、得点の可能性にも直結し、さらにチームとしてコロンビアの攻撃を予測可能化し、かつ可視化することができるからです。

 お城を築く目的は、ピッチの中央を城塞化してコロンビアのビルドアップを妨害することです。しかし、守備は待ち構えているだけ、侵入を防ぐだけでは成立しません。ボールを奪うという目的があるからです。

 お城のサイズはペナルティエリアと同じくらいにコンパクトに保ちます。比較的高いラインを保ちながら、相手にボールを回させるこの戦術では、相手陣でボールを奪う可能性が高まります。

 コロンビアが焦れて無理な縦パスを入れたとき、不用意な横パスをしたときに、チームファンクションはコロンビアの攻撃から日本にとっては“守攻”の切り替え、そして攻撃に移ります。お城を築いている日本代表の選手たちは、一定の距離感でポジショニングすることになります。実は、この距離感が、ボールを奪った瞬間に攻撃に適した配置になるのです。

 コロンビアはビルドアップの際にボールを中心にして、円を描くように選手が集まってきます。両サイドバックの位置は常に高く保たれ、アンカーがディフェンスライン付近まで下がり、効果的にビルドアップをしていきます。これはコロンビアのストロングポイント発動の条件でもあるのですが、同時にボールを奪われた際にはウィークポイントにもなり得るのです。(※図⑤参照)

 相手の攻撃方向を限定し、サイドでボールを奪うことができれば、図のように日本は数的優位の状況を作ることができます。コロンビアのサイドバックの背後、センターバックとパス交換をして、ビルドアップをするために下がっているアンカーの攻守の切り替えの隙を突けば、日本は守備戦術からスムーズに攻撃に移行し、得点を挙げられる芽が出てきます。

■守備的MFは山口蛍と柴崎岳を起用

 選手のコンディションなどは考慮せずに“築城”とカウンターによる攻撃を主眼にメンバーを選びましたが、ディフェンスラインは右から酒井高徳、吉田麻也、昌子源、長友佑都としました。右サイドバックは酒井宏樹という選択肢もありましたが、高徳のディフェンスアクションの頻度、繰り返し同じことができる粘り強さをとりました。

 中盤は、ボール奪取能力に優れた山口蛍とボール奪取を即決定的チャンスにつなげられる柴崎岳、その前に香川真司を置いて、ウイングには右に武藤嘉紀、左に原口元気、そしてストライカーは、ディフェンスラインをかいくぐって速攻を決められる可能性の高い岡崎慎司をチョイスしています。しかし、岡崎に関しては、コンディションによっては大迫勇也の起用でも問題ないと考えます。

 消耗度の激しいサイドの選手は途中交代がマストなので、乾貴士の投入も有効でしょう。

 コロンビアの最近のビデオ分析からすると、攻撃が自陣のフィールド1もしくは2からスタートした場合、ビルドアップが成功していないケースが多く見られました。それは、中央へのパスコースが閉じられている時に発生しています。

 このやり方は、過去のコロンビアの戦い方、戦略や用いてきた戦術、選手の特徴などから導き出した「日本代表がコロンビアのストロングポイントの発動を抑え、ウィークポイントの発生を期待できる戦術」の一つです。また同時に、この戦術でボールを奪うことができれば日本が数的優位を作れないとゴールを奪えない(つまり個で打開できない)というウィークポイントをストロングポイントにかえることができます。

 スカウティングとは、相手チームのやり方を可視化し予測可能化させることで勝利の確率を高めることです。日本代表が戦略においてコロンビアと同じようなゲームメイク戦略、ポジショナルプレーを志向するのはまったく問題ありませんが、相手チームとのレベル差の比較、戦略、狙いや原則の分析によって、戦術部分を調整し、ゲームの目的である“負けない”または“勝つ”確率を高めていくところまでつなげてはじめて、スカウティングは真に意味のあるものになるのです。

記事提供:COACH UNITED

※白井 裕之
オランダの名門アヤックスで育成アカデミーのユース年代専属アナリストとしてゲーム分析やスカウティングなどを担当した後、現在はアヤックス内の別部門、「ワールドコーチング」のスタッフとして海外のクラブや選手のスカウティング、コンサルティングを担当。また、オランダナショナルチームU-13、U-14、U-15の専属アナリストも務めている。
日本国内においては自身がまとめたゲーム分析メソッド「The Soccer Analytics」を用いたチームコンサルティングや、指導者向けセミナーなどを全国各地で行っている。

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