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【ライターコラムfrom柏】柏から世界最高の大会へ…中村航輔「高い壁を乗り越えたときに」

2018.06.16

柏レイソルで得た経験を糧に、中村航輔はロシアのピッチに立とうとしている [写真]=Getty Images

 中村航輔は実直な男である。育成年代の頃から意識が高く、さらなる成長のために自分自身の課題と真摯に向き合い、その改善へと取り組んでいく。この1年間、仮に日本代表の招集を受けていなかったとしても、彼のそうした姿勢は変わることはなかっただろう。

 ただ、昨年5月の代表初選出以来、コンスタントに日本代表の招集を受けてきた。そこで川島永嗣とともにトレーニングを行い、多大な刺激を与えられたことで中村の成長スピードは間違いなく加速した。中にはトライ&エラーもあったが、全ては川島に追いつくためだ。


 昨季のJ1第17節の鹿島戦、そして第23節ガンバ大阪戦では中村らしくないミスを犯した。金崎夢生(鹿島)の強烈なシュートに正面頭上を射抜かれ、G大阪戦ではクロスボールに対して飛び出したがキャッチ仕切れない、あるいは狙いどおりにパンチングで弾き返せずにCKにしてしまうなど不安定なプレーが目立っていた。

 このミスについて、当時GKコーチを務めていた松本拓也コーチに話を聞いたことがある。鹿島戦では、金崎がシュートに入る直前、敵・味方を問わず両チームの選手がゴール前のどこにポジションを取っているのか、中村は瞬時にそれを把握しようとし、実際に各選手のポジションが全て見えていたという。したがって、松本コーチによれば「金崎選手がシュート以外のプレーを選択していたら防いでいる可能性は高かった」と話す。しかし逆に、ゴール前にいる選手たちのポジションを意識することによって金崎のシュートへの対応が遅れた。それゆえに正面頭上を撃ち抜かれた。

昨季の鹿島戦では判断ミスから失点を喫した [写真]=Getty Images

 またG大阪戦では、より広い守備範囲を守ろうと、それまでならば飛び出さなかった範囲のボールでも積極的に出ていった。その点も、松本コーチは「航輔が自分の苦手な部分を改善するために、より広い範囲のクロスに対応できるようにしようと取り組んでいて、意識的にやろうとしたことが空回りした」という。そして、それらをミスで終わらせず、成長へつなげるあたりが中村の能力の高さである。

 例えば、そのG大阪戦の翌週の新潟戦では、ミスを恐れてクロスボールに対して飛び出さないのではなく、前節と同じ範囲のクロスにも積極的に飛び出し、今度は「実際に飛び出してキャッチする場面もあった」(松本コーチ)と目に見えた成果へつなげている。

 さらに第25節の浦和戦の後半には、ラファエル・シルバの放ったシュートが味方に当たってコースが変わり、ゴール前フリーの武藤雄樹の足元にこぼれた。ラファエル・シルバがシュートを放ったポイントは、鹿島戦の金崎のそれと近い位置だった。試合翌日に中村本人から話を聞いたが、「あのシーンをピンポイントで予測はできないけど、ラファエル・シルバのシュートに備えながら、事故が起きてもいいように準備はしていた」と振り返っていた。これはおそらく、鹿島戦で金崎に頭上を射抜かれた反省からきたものだ。そして中村は不測の事態から武藤の足元にボールが入ったときには即座に体を寄せてシュートコースを消し、この絶体絶命のピンチを防いだ。ラファエル・シルバのシュートに備えると同時に、ゴール前の敵・味方のポジションを全て把握していたからこそ生まれたファインプレーだった。

「高い壁(川島選手)を乗り越えたときに見えるものは素晴らしいものがあると思っています。それを見られるかは自分次第」

 これは5月31日に、代表メンバー入りが決まったときの中村の言葉である。柏のアカデミーにいた10代の頃から「いつかは日本代表のゴールマウスを守る逸材」と将来を嘱望されていたが、中村は日本代表に入ったこの1年間で飛躍的な成長を遂げた。その彼に、いよいよワールドカップのピッチに立つチャンスが訪れようとしている。

 これまで見ることができなかった素晴らしい景色を、世界最高の大会で目にできるか。中村航輔という若者の力に期待したい。

文=鈴木潤

By 鈴木潤

『柏フットボールジャーナル』などで執筆するフリーライター。柏レイソルを中心に、ラグビーなども取材。

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