2018.06.07

西野ジャパンは8年前より危機的か?…南アフリカW杯との違いとは

西野ジャパンと8年前の岡田ジャパンの違いとは [写真]=Getty Images
日本代表から海外まで幅広くフォローするフリーライター。

 2018 FIFAワールドカップ ロシア直前合宿地のオーストリア・ゼーフェルト入りしてから5日間。日本代表は2週間後に迫った本番を視野に入れ、急ピッチで調整を行ってきた。

 到着した2日夜は豪雨の中、30分間のランニングを実施。3日は15分走などフィジカル色の濃いメニューに始まり、最後には3-4-3のゲーム形式も盛り込まれた。5月下旬の国内合宿では別メニューが続いていた岡崎慎司(レスター)と乾貴士(エイバル→ベティス)も完全合流。23人全員が臨戦態勢に入った。

 続く4日は初の2部練習。午前中は持久力テストを皮切りに、負荷の高いサーキットトレーニングが行われ、午後は本来の4-2-3-1に戻してビルドアップの確認からゲームに入った。主力組のトップ下に入ったのは本田圭佑(パチューカ)。4年前のブラジル・ワールドカップと同じように背番号4を軸に据えた戦い方を西野朗監督が志向していることが明らかになった。

 5日は再び夕方の1部練習に戻り、FKとCKからの攻守の確認が行われた。「リスタートだけの練習というのはなかった」と山口蛍(セレッソ大阪)も驚いた通り、対人のない軽めのメニューのみにとどまった。これに物足りなさを感じたのか、全体練習後には原口元気(デュッセルドルフ)が遠藤航(浦和レッズ)を相手に右サイドからのドリブル突破を試み、岡崎や乾、香川真司(ドルトムント)が追加ランニングを実施するなど、各々が不足する部分を補った。そして6日は非公開で戦術確認。この日も乾らは居残りで走った様子。このように選手の自主性を促すアプローチはヴァイッド・ハリルホジッチ前監督時代にはなかったものだ。

シュート練習で笑顔を見せる代表メンバー [写真]=Getty Images

 西野監督は「ピッチ外でストレスをかけすぎるのはよくない。つねに頭がクリアで軽い状態でいてほしい」とミーティングで伝え、選手たちがピッチ内外で自由に議論する姿が格段に増えた。さらには、滞在先のホテルで過ごす様子がSNSに投稿されるというハリル時代には考えられなかった出来事も目に付くようになった。「チームの雰囲気はすごくいい」「みんなの笑顔が多くなり、全体が明るくなった」と多くの面々が口を揃えるのも、確かに頷ける。

 しかしながら、今の状況はともすれば「緊張感がない」「ピリピリ感が足りない」という印象にも映る。同じく崖っぷちに追い込まれていた2010年の南アフリカ大会直前の代表はもっと悲壮感が包まれていたからだ。

 8年前の同時期は、田中マルクス闘莉王(京都サンガF.C.)が「俺たちは弱い」と口火を切った選手ミーティングによって、超守備的戦術へのシフトに踏み切ろうしていた頃だった。直前3連戦の2試合目に当たるイングランド戦(グラーツ)で、岡田武史監督(現FC今治代表)は中澤佑二(横浜F・マリノス)から長谷部誠(フランクフルト)にキャプテンを変え、楢崎正剛(名古屋グランパス)や中村俊輔(ジュビロ磐田)といった絶対的主力を次々と外した。そのインパクトは今回を超えるレベルのものだった。

南アフリカ大会で主将を務めた長谷部誠 [写真]=Getty Images

 ただ、現日本代表もロシアW杯2カ月前に指揮官交代という大ナタが振るわれたばかり。西野監督は今になって4バックと3バックの併用に乗り出し、19日の初戦・コロンビア戦(サランスク)での明確な戦い方が描けていないと言う。この現状は、4バックを2年以上継続してきてベースのあった岡田ジャパンより危機的という見方もできるだろう。

 けれども、当時を知る長友佑都(ガラタサライ)は今のチーム状態をそこまで深刻には捉えていないようだ。「南アの岡田さんの時は、ワールドカップ前のチームがうまくいかない中でピリピリ感はあったけど、宿舎に帰るとみんなリラックスしていたし、笑顔が沢山あった。そのメリハリがすごくできていたという印象がある。今の雰囲気もメリハリがあるし、いい状態じゃないかなとは感じてます」と努めて前向きにコメントしていた。

 確かに8年前の岡田ジャパンも四六時中、選手全員が張り詰めた空気の中にいたわけではなかった。直前合宿地のスイス・サースフェー滞在中には半日のオフが与えられ、遠藤保仁(ガンバ大阪)や松井大輔(横浜FC)ら11人が4500メートル超のアルプスの山に登って雪合戦に興じる姿も見られた。長友や本田はこれには参加しなかったが、違った形で息抜きの時間を設けていたのだろう。

 だが、その傍らで、エースナンバー10を背負った中村俊輔はコンディションを上げるべく極秘練習を繰り返していた。10年間の代表キャリアを懸けて全身全霊でトレーニングに取り組むベテランの姿を目の当たりにして、他のメンバーもどこかピリピリしたものを感じたに違いない。一方で、歯に衣着せぬ発言で周囲を鼓舞する闘莉王ような選手もいて、チーム全体がつねに緊張感を漂わせていた。残念ながら、今の代表にはそこまでの緊迫感を醸し出す人間がいない。その差が多少なりとも懸念されるところだ。

中村俊輔

中村俊輔は南アフリカ大会で1試合の出場にとどまった [写真]=Getty Images

 チーム戦術に関しても、8年前は「ガッチリ自陣に引いて守る」という約束事を2週間の準備期間で徹底して本番に突入した。だが、今の西野ジャパンはまだ攻撃的に戦う可能性を模索し続けている。本田も当時より前がかりになる術を必死で探していることを明かした。「南アフリカの守備のやり方はできると思っています。『全員守備でもう行く』『攻撃の議論はなしにしよう』と。その最終パターンはまだある。でも今はまだトライしているし、いろんなパターンで相手の最終ラインを破る議論をしている。2010年はそんな議論はほぼなかった」。

 ただ、それが叶わなかった場合、ここまで約2週間の準備期間が報われない恐れもある。すでにハリル体制の3年間をロスしている日本が、貴重な直前調整の時間も失うのは最悪のシナリオだ。西野ジャパンのチャレンジは大きな賭けだというしかない。

 もう1つ気になるのが、コンディション調整だ。現代表がここまでの約2週間で2部練習を行ったのはわずか1回のみ。ハードな追い込みはほとんどしていない。過度の走りでキレを失った4年前のザックジャパンの反省もあるのか、今回は早川直樹コンディショニングコーチが緻密なデータ計測を実施し、それに基づいた負荷調整が行われているが、このアプローチでどこまで効果が出るのか未知数な部分もある。8日のスイス戦(ルガーノ)と12日のパラグアイ戦(インスブルック)でその一端が見られるはずだが、先月30日のガーナ戦(横浜)よりパフォーマンスが下がるようでは先が思いやられる。

 このように不安材料は少なくないが、まず肝心なのはスイス戦だ。8年前も同時期のイングランド戦で劇的な守備の改善が見られ、チームに光明が差した。だからこそ、この試合の内容と結果に徹底的にこだわらなければいけない。選手たちには楽しいムードに流されることなく、今一度厳しさを持って、大一番に向かってほしいものだ。

文=元川悦子

※(カッコ内のチームは現在所属のもの)

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