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【ライターコラムfromG大阪】「正直、アカンやろうな」から1カ月…守護神・東口は“自信”を携えロシアへ

2018.05.22

サポーターから受け取った日の丸を掲げる [写真]=J.LEAGUE

 アクシデントに見舞われたのは、4月21日に行われた明治安田生命J1リーグ第9節、今年最初の『大阪ダービー』だ。開始からわずか11分、相手GKキム・ジンヒョンのロングフィードに対応しようと、ペナルティエリアから飛び出したGK東口順昭と、下がり気味にボールを追いかけヘディングでクリアをしようとしたDF三浦弦太が空中で激突。このプレーで一度は倒れ込んだ東口は、本能のままにすぐさまゴールマウスへと戻り柿谷曜一朗のヘディグシュートを渾身のセーブで防いだが、直後にピッチに倒れ込んでしまう。ドクターが駆けつけて上半身を起こした際には、すでに右頬は痛々しく腫れ上がり、プレー続行は不可能となった。

「ケガをした瞬間は正直、アカンやろうなっていう考えが過ぎりました」


東口順昭

C大阪戦で負傷退場 [写真]=J.LEAGUE

 これは東口が戦列に復帰後、当時の心境を振り返った言葉だ。その「アカンやろうな」の先に見据えていたのは、6月に迫った2018 FIFAワールドカップ ロシアだ。5月末に予定されているメンバー発表まで、わずか1カ月。シーズンが始まった時から『ロシアW杯』を目標に据え、自身のパフォーマンスを磨くことに心血を注いできた彼だからこそ、右頬に感じる痛みが心にも重くのしかかったことは察して余りある。しかも診断結果は昨年、左頬骨骨折を負った際よりも重症の『右頬骨骨折、右眼窩底骨折』。不安にならないはずがなかった。

 そんな彼が「やれるだけのことはやってみよう」という気持ちになったのは手術を終えてから。もちろん、焦りは禁物だからこそ、回復具合を体と相談しながらやっていくつもりではいたが、昨年の左頬骨骨折の経験もあったからだろう。「術後、どのくらいで回復していくのかは分かっていたし、復帰までの時間も何となく想像できたので、それなら間に合うかもしれないと思った」と東口。ただ、左頬受傷時より重症だと考えれば、同じペースで進めていては必然的に遅れをとってしまう。だからこそピッチ内外で「やれるだけのこと」をやり尽くした。

「顔とはいえ、これだけのケガを負うと体のバランスも崩れるし、なにより血流も悪くなるので、首から下を整体師さんにほぐしてもらうことで血流を良くして腫れが早く引くようにしたり。手術後、しばらくは食べられなかったので筋トレを2日に1度は行い、できるだけ体重を維持しながらコンディションを落とさないことを考えたり。あとは阪神タイガースの桧山進次郎さんに教えてもらった『アピセラピー』を受けに東京まで足を運んだこともありました」

 アピセラピーとは、ミツバチを利用した蜂針療法。蜂針を皮膚に刺すことで血行を良くしたり、刺激作用によって自律神経の調整に役立てたり、人体の自然治癒力を増す効果があると言われている。もっとも、「やれるだけのことはやってみよう」といろんなことに取り組んだことを思えば、何が効果として表れたのかは特定できないが、そうしたポジティブな行動が実を結んだのだろう。

東口順昭

フェイスガード着用で復帰を果たす [写真]=J.LEAGUE

 結果的に、彼は驚異的な回復を見せ、4月23日の手術から2週間も経たない5月4日には練習を再開。しかも、そこから1週間後に行われたJ1第14節・横浜F・マリノス戦で戦列復帰を果たす。レヴィー・クルピ監督がその判断を下した背景には当然、彼が練習に合流して以降、示してきた完全復活を確信するパフォーマンスがあったのは事実だが「こんなに早く戻してもらえるとは思っていなかったので驚いた」と東口。だが結果的に、その横浜FM戦は『自信』を取り戻す上で意味深い一戦となった。

「フェイスガードもしていたので、それなりの緊張感もあったし、『判断』の部分での不安もありました。際どいボールに対してセービングに行ききれるのか、行かないという判断をしてしまうのか。あるいは、自分は『行ける』と思っても、もしかしたら反射的に体がビビってついてこないこともあるかもしれない。そこは、公式戦を戦わなければ分からなかった部分ですが、結果的に思っていた以上に自然と体も動いたし『これを継続していけばいい』という物差しになるパフォーマンスを発揮できたのは自信になった」

 そして、その横浜FM戦から6日後となる、5月18日。東口は日本代表に選出される。選ばれたのは27名。うち、GKは3名だと考えれば、ロシアW杯に大きく近づいたのは事実だが、彼にとってのW杯は「選ばれること」ではなく「試合に出場すること」が目標だと考えれば、選出の事実によって、やるべきことに大きな変化はないはずだ。

 もっとも、そのチャレンジのチャンスを掴んだ今、その思いがより強くなっていることは間違いないが。

文=高村美砂

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