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【インタビュー】大切な感覚を取り戻した原口元気、自然体で初の大舞台に挑む

2018.05.17

取材日は天気に恵まれ、カフェテラスでインタビューを実施。リラックスした様子を見せた原口 [写真]=湊昂大

 いつだって自然体だ。笑いたい時は笑うし、苛立っている時はその苛立ちを隠そうとしない。こちらの問いかけに黙って考え込んでしまうことだってある。話の最中にどんな原口元気が顔をのぞかせるか分からない。だから今回、穏やかな表情で、それでいてどこか楽しそうに話す彼を見て、この冬の移籍は正解だったと確信した。

 ドイツに渡ってからの4年間は「苦しかった」という。それでも「プラスになっている」と言い切れるのは、フォルトゥナ・デュッセルドルフという自分を表現できる場所を見つけたからだろう。弾んだ声で原口が言う。「サッカーが楽しい」。言葉はシンプルであっても、取り戻したその感覚は、ロシア・ワールドカップでのプレーに勢いをもたらすはずだ。

■100パーセントの力を出すために、もがかない

――原口選手の中でW杯出場が明確な目標になったのはいつですか?
W杯に出たいという気持ちはサッカーを始めた時から持ち続けていました。(2011年に)日本代表に入ってからは、ブラジル大会を意識しましたね。W杯って、どんな舞台なんですかね……。正直、分からない。ただ言えるのは、W杯出場は一つの夢であり、サッカーを初めた時から目標にしていた大きな大会だということです。

――実際に出場する選手たちには、私たちが想像もできないようなプレッシャーがあると思います。原口選手は大事な局面で不安を感じてしまうタイプですか? それともプレッシャーを力に変えられるタイプですか?
全部だと思います。緊張もするし、不安にも感じる。逃げ出したくなることもある。でも、そういうビッグゲームが好きな自分もいるんです。緊張感がある試合のほうが楽しいじゃないですか。パワーも出しやすいし。

例えば、プレシーズンの練習試合のように自分で無理矢理パワーを出さなければいけない試合よりも、勝手にパワーが出てくる試合のほうが楽なんですよ。緊張であがってしまって、地に足がつかないというようなことはもうないですからね。デビューして2、3年目まではそういうこともあったけど、海外でそんなことをしていたら試合に出られない。ブンデスリーガやヨーロッパリーグ、W杯の最終予選も経験しましたし、ビッグマッチだからと言ってフワフワすることはない。何の心配もしていないですよ。

原口元気

ベトナム戦に途中出場した原口。試合は1-0で日本が勝利した [写真]=︎Getty Images

――最初に日本代表のユニフォームを着た時(2011年10月7日のベトナム戦でA代表デビュー)はどうでした?
フワフワしましたね(笑)。でも、ピッチに立ったら気持ち良くプレーできました。日本代表のユニフォームを着ている時は、自分でわざわざスイッチを入れる必要がないんです。

――日本代表がアジア以外の強豪国と対戦する時に「世界と戦う」という表現がよく用いられます。日本代表にとって「世界と戦う」とはつまり、どういうことだと思いますか?
対戦する国によって違うので一概には言えません。ただドイツにいると、積み上げてきた歴史が違うと感じることがあって、そういうサッカー先進国に対して負けたくないという気持ちはあります。やっぱり日本人としてのプライドはすごくありますよ。正直、力の差はすごくあると思うけど、どんな試合も0-0から始まる。相手がどこであっても、勝負を諦めることは一瞬たりともないですね。だから、日本人としてのプライドを持って戦うことが、僕にとっての「世界と戦う」ということなのかな。

――W杯でも日本人としてのプライドを示したいと。
日本人の良さは何かということを常に考えているんです。ドイツに来てから、日本人としてどうやってこの国で勝ち続けるか、どうしたらW杯で勝てるのか、と考えるようになりました。真っ向勝負をしても、正直難しい部分があるのは分かっている。でも、日本人として勝たなければいけない。そう考えた時に、主役になろうとするのではなく、一つの駒としてきちんと自分の仕事ができるよう準備をすることが、一番大事なんじゃないかと思ったんです。

勝てればいい。結局、最後はそこに行き着きます。そのためのひと駒でいいんです。でも、本当に23人が自分の仕事をしっかりとこなして、誰もミスをしないくらいの試合をしないとW杯では勝てない。だから、そのひと駒になることが自分のすべきことだし、日本がW杯で勝つ唯一の手段だと思うんです。

そりゃあ、スーパースターになりたいですよ。ここから2カ月でスーパーな能力を身につけられたらいいとは思いますけど、現実的に残りの期間でできることを考えると、残念ながらその能力はない。でも、自分の100パーセントを出せればチャンスはある。自分が主役になるチャンスもあると思っています。

――W杯の舞台では世界のトッププレーヤーでさえ、100パーセントの力を発揮できずに終わることもあります。原口選手が100パーセントを発揮するために、今できることは何でしょう。
自然体でいることですね。大きな舞台が近づくと、もがきたくなるんですよ。やっぱりこれもしたい、あれもしたいって。その日が近づけば近づくほど、みんなが焦り出す。でも、本当にその舞台で100パーセントの力を出すためには、今までやってきたことを最後までしっかりとやって、リラックスすること。自然と試合に向かえるような状態を作れたら、間違いなく簡単にスイッチは入ると思います。そうしたら、100パーセントの自分が出せる。

まあ、こんな分かったようなことを言っていますけど、W杯は経験したことがないし、それ以上のものがプレッシャーとしてのしかかってくるかもしれない。でも、僕はそう思っています。自然体でいることが一番の近道だと。味方がどうであれ、相手がどうであれ、自分の仕事に集中できるようになったのも大きいですね。以前と比べて波がなくなったし、安定して自分のやるべきことができていると思います。

原口元気

もがき苦しみながら成長してきた原口。彼が変化を恐れることはない [写真]=湊昂大

――昨シーズンが終わった時に「自分がどんな選手なのか分からなくなって、自分と向き合う時間が大事だと感じた」と話していました。そういう時期があったからこそ、より自分のことに集中できるようになったのでは?
最近、事務所の人にお願いして、デビューした時から今までの記事を全部集めてもらったんです。今まで何を目指してきて、何を考えて、どう過ごしてきたのか。自分の中でここが一つの区切りでもあるし、もう一度しっかりと振り返って、どういう気持ちで臨めばいいのかを考えたかった。まだ半分くらいしか読んでないですけど、変化し続けていると感じました。

今は自分がどんな選手か分からなくてもいいと思っているんです。これからも変わっていくと思うから。ただ、きちんと自分と向き合って、これまでどうしてきたかをまとめておきたいとは思っています。

――ご自身を客観視してみていかがでしたか?
変化し続けていると言いましたけど、根本的には変わっていないとも感じました。今だって、やっぱり弱い部分はあるし、不安になる部分もある。でも、徐々に安定感が出てきたと思います。その安定感が一番大事だと今は思っています。

――根本的に変わっていない芯の部分というのは?
簡単に言えば、向上心ですね。昔からどうやったらもっと良くなるかを探し続けている。その中でいろいろな変化が起きてきた。プレースタイルを含めてこんなに変化していく選手はそういないと思います。生きる術をその都度探しているんだなあと。若い自分を振り返ってすごく感じましたね。だから、これからもどんどん変化していくと思いますよ。

昔から変わることに対して抵抗がないんです。監督によって求めるものは少なからず違うけど、僕は求められたものを表現したい。最後に決めるのは監督ですからね。もちろん、監督に意見を言うことはありましたよ。変えることによって失うものもあるんです。自分の良さを出しにくくなることもあるし。でも、やっぱり僕の中で優先順位が高いのは試合に出ることなんです。

デュッセルドルフという自分を表現できる場所

――デュッセルドルフに移籍して、よりゴール前での仕事が増えました。自分の中にあった「ゴールを決めたい」、「ゴールに絡みたい」といった欲を解放できるチームだったのでは?
そうですね。「戻ってきたな」という感覚はあります。ボールタッチ数も全然違うし、やりたいことができている。サッカーをしていて楽しいですね。ヘルタ・ベルリンではその欲を抑えていたし、出せなかった部分がある。だからここで今、自分が楽しいと思うプレーをできているのは良かったと思うし、W杯にも絶対につながるはずです。

原口元気

攻撃の中心選手として1部昇格に貢献した [写真]=︎Getty Images

――本大会に向けて、いいタイミングでの移籍になりましたね。
本当にいいタイミングですね。今はサッカーが楽しいです。

――原口選手の口から、久しぶりに「楽しい」という言葉を聞いた気がします。
デュッセルドルフに来て思ったのは、表現したいものを(ヘルタで)もう少し、出しても良かったのかなあと。さっきの話とは矛盾するんですけど、ロボットのように言われたことをやり続け過ぎたのかもしれない。今振り返れば、それが反省点としてあります。それによって得られたものも多いので、自分にとってはプラスではあるんですけど、もう少し柔軟にやっても良かったと思います。

――デュッセルドルフで昇格争いを経験したことも、プラスに働いているのではないでしょうか。
特に(移籍して)最初の6試合は、自分が中心になって周りを巻き込めたと感じているんです。点を取られた試合もあったけど、うまく落ち着かせることができた。自分がボールを取られないことで「まだいける」ということを示したり、話しかけることでチームが自信を失わないような雰囲気を作ったりすることができました。

――もしかして、3月のベルギー遠征の時もそういうことを意識していたのでは? これまで以上に、練習中にチームメートとコミュニケーションを取る姿が印象的でした。
やっぱりデュッセルドルフに来たことが大きくて。ここでは頼られるというか、中心選手としてやらせてもらっている。「もっと自分から話したほうがいいな」というのは、ここに来てから感じたことですね。今まではやるべきことを黙々とやり続ける感じだった。もちろん、その姿勢は変わらないけれど、周りを巻き込みたいと思うようになったんです。自信がなさそうな選手には、こちらからアクションを起こして話しかけにいく。それがデュッセルドルフが試合に勝つためにやり始めたことですね。

自分にそこまでの影響力があるかどうかは分からない。でも、少しでも巻き込んで、いい雰囲気で練習をしたいし、ハードな試合をしたい。そういう雰囲気をクラブでも代表でもチームメートと共有できたらと思っています。

――どちらかと言うと、代表チームではこれまで巻き込んでもらう側だった?
巻き込んでもらう、という感覚はなかったですけど、自分のことだけをやっていましたね。その姿を見て、一緒にやってくれたらいいなとは思っていましたけど、それをコミュニケーションの面でもできるんじゃないか、と気づいたのはここに来てからです。

――実際にアクションを起こしてみて、感触はありましたか?
代表では勝てない試合が続いたので、どうしても暗い部分があった。だからこそ、テンションを高くして練習に臨もうと思いましたし、意味がないことはないですよね。

■大切にしたい「サッカーが楽しいな」という気持ち

――今回のW杯は一つの集大成になると思いますが、原口選手のサッカー人生はその先も続いていきます。ロシア大会の先に、どんな未来を思い描いていますか?
W杯後は楽しみたいですね。今までは「ステップアップしたい」とか、「次はプレミアリーグに行きたい」とか……。そういうことにものすごく縛られていたような気がする。ここに来た時も、最初は2部リーグということにすごく抵抗があったんですけど、「サッカーが楽しいな」って思えるようになった。「ここのサッカーを楽しめているな」という感覚を大切にしていきたい。そう思えるようになったのが最近の変化かな。これをプレミアリーグで体感できるなら、それが一番いいとは思いますけどね(笑)。

ヘルタに戻るのか、デュッセルドルフに買い取ってもらうのか、あるいは他のチームに行くのか。今は先が分からない状態です。できればいいチームを見つけて、なるべくいい選択をしたいし、フラフラしたくはない。ちゃんとサッカーを楽しめて、集中できる環境であれば、どこに行ってもできると思います。

――年齢を考えても一つのターニングポイントになりそうですね。
多分、次の4年間が一番いい時期じゃないですか。その時期を楽しめないのは嫌ですね。一番いい時期だからこそ、「楽しかった!」というふうにしたい。「この4年間が一番サッカーを楽しめた」と思える期間にしたいですね。

原口元気

まずは、ロシアW杯が「楽しかった」と言える舞台になることを願いたい [写真]=湊昂大

――その感覚を持ち続けていれば、おのずと次のW杯も見えてきます。
そうなったら、今回のW杯での経験が間違いなくプラスになる。まあ、そんなに先のことは分からないですけど(笑)。でも、自分の過去の記事を読んで根本の部分が変わっていないことが分かったので、4年後もブレずにやっていると思いますよ。

――ここまでの4年間は苦しかった?
うん……。だって、日本にいた時は、自分の才能、プレーにすごく自信を持っていましたから。それをドイツですぐにへし折られて、「俺って大したことないんだな」というところから始まった。ヘルタではたくさんのことを学んだけれど、「すごく充実していた」とは言えない。成長するために大切な4年間ではあったけど、苦しかった。楽しいことよりも、苦しいことのほうが多かったから。でも、プラスマイナスで考えたら相当プラスですよ。だから、ここから先は楽しみたいですね。

きっとここからの4年間のほうが楽しめると思うんですよ。だって、いろいろなことが分かったし、できなかったことがたくさんできるようになった。サッカーに集中できる環境さえ整えられれば、必然的に楽しめると思うんです。

――まずはロシア大会、楽しみですね。
勝ちたいですね。本当にそこだけ。試合直前は不安のほうが強くなるかもしれないけれど、今は楽しみのほうが大きいです。今まで準備してきたものが評価される場所だと思うので、自分がやってきたことがどう出るか。興味深いですね。

インタビュー・文=高尾太恵子

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By 高尾太恵子

サッカーキング編集部

元サッカーキング編集部。FIFAワールドカップロシア2018を現地取材。九州出身。

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