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【コラム】復帰戦で好セーブ連発…「回り道してきた人生」送る東口、いざ夢の舞台W杯へ

2018.05.14

フェイスガードを着用し復帰を果たす [写真]=J.LEAGUE

 2018 FIFAワールドカップ ロシア本大会予備登録メンバー35名の提出期限直前に行われた、明治安田生命J1リーグ第14節・横浜F・マリノス対ガンバ大阪。ガンバの背番号1を着ける守護神・東口順昭が3週間ぶりにピッチに戻ってきた。4月21日の第9節・セレッソ大阪戦で味方DF三浦弦太と衝突し、右頬骨骨折、右眼窩底骨折の重傷を負いながら、奇しくも自身の32回目の誕生日にスピード復帰を果たしたのだ。

 2002年の日韓W杯で「バットマン」として注目を集めたクラブの先輩・宮本恒靖(現ガンバ大阪U-23監督)と同じメーカーのフェイスガードを装着し、ピッチに立った東口は序盤から好セーブを連発。前半終了間際にウーゴ・ヴィエイラが飛び込んできた場面でも恐れることなく前に出て、ボールを確実にキャッチする。「怖さは特になかったですね」と本人も勇敢な一面をのぞかせた。


 無失点で折り返したガンバは後半開始早々、藤本淳吾の60m級の超ロングシュートで首尾良く1点をリードした。これを守り抜けたら東口にとって最高の復帰戦となったはずだったが、FKの名手・天野純に直接ゴールを決められてしまう。「壁の左端に小さい選手がいたので、その上は狙いやすかった。コース的にはGKが取れない左上ギリギリのところを狙いました」と天野が述懐した通り、この失点は東口のミスではなかった。それでもGKというのは1失点という結果だけが残る理不尽な役割である。「セットプレーは警戒していたんで、残念な失点やったと思います」と生真面目な守護神は神妙な面持ちで語っていた。

東口順昭

失点を喫したものの、復帰戦で好セーブを見せた [写真]=Getty Images

 結局、試合は1-1のドロー。予期せぬ3バック採用で守備再構築を図ったガンバにしてみれば、ある程度納得のいく勝ち点1だろう。そして東口がその原動力になったのは間違いない。彼がいるといないとでは、守備の落ち着きや安定感はガラリと変わる。視察に訪れた日本代表の西野朗監督も「ケガの影響をあまり感じさせないプレーを見せていた」と完全復活に太鼓判を押したように、勇気と冷静さを併せ持つ守護神が1カ月後に迫ったロシアW杯に向けて大きな一歩を踏み出したのは確かだ。

 アジア最終予選の途中まで日本代表の正GKだった西川周作(浦和レッズ)が外されて以来、東口は川島永嗣(メス)、中村航輔(柏レイソル)と三つ巴のポジション争いを繰り広げてきた。3月のマリ代表とウクライナ代表の2連戦では中村と川島が1試合ずつ出場。東口はヴァイッド・ハリルホジッチ前監督から「3番手」と位置付けられる苦境に陥っていた。

 そのハリルホジッチ氏が4月上旬に解任された今、GKの競争は再びフラットな状態に戻った。もちろん2010年の南アフリカW杯、2014年のブラジルW杯の両大会に出場し、8年間の欧州キャリアを誇る川島の絶対的優位は揺るがないが、彼もメスの2部降格決定で少なからずショックを受けている可能性がある。23歳と若い中村も今季はケガやチームの低迷、自身を育ててくれた下平隆宏監督の解任という現実に苦しんでいる。もう一人のライバル・西川は復調気味で、4人の競争は混沌としている。

 同じように代表が揺れ動いていた2010年、大会直前に岡田武史監督(現FC今治代表)が正守護神だった楢崎正剛(名古屋グランパス)を外して川島を抜擢した例がある。今回も何が起きるのか予想がつかない。東口にもロシアのピッチに立てるチャンスが少なからず残されているのだ。

「W杯のことはまだあまり考えていないけど、こうやって(ガンバのレヴィー・クルピ監督に)使ってもらってる責任感はある。(林)瑞輝もいいプレーをしていたし、自分も出る以上はエスケープできへんなと。しっかり責任感を持ってやろうという思いしかなかった」と東口は今回の復帰戦にひたすら集中していたことを明かしたが、それをクリアした今、どうしてもロシアのことが脳裏に浮かんでくるはず。2011年から足掛け8年も代表に名を連ねながら、思うように出番を得られなかった苦労人だからこそ、目前に迫ったW杯に行きたいという思いはず強いだろう。

東口順昭

自身初のW杯メンバー入りなるか [写真]=Getty Images

 ガンバにとっても東口のロシア行きは悲願に他ならない。2002年、2006年大会に連続出場した宮本、2006年から2014年まで3大会連続出場の遠藤保仁を筆頭に、関西の名門クラブは過去4大会連続でW杯戦士を送り出してきた。今回は目下のところ、今野泰幸、倉田秋、三浦も候補者ではあるが、今野は「コンディション? まだ分かんないですね」と自身の状態を不安視している様子。倉田も今季は出番が減っているし、三浦にしても昨季ほどの輝きが感じられない。それだけに、現時点では東口が最後の砦と言ってもいい状況だ。名門の意地とプライドを守るべく、東口には23人のリストに名を連ね、ロシアのピッチに立ってもらいたい……。そんな期待はクラブ内外からも大きい。

「フェイスガードは今週いっぱいで、もうどっちでもいいみたいな感じ。来週(19日)の浦和戦はつけなくてもいいと思います」と本人も言うように、ここまで来ればケガの影響はなさそうだ。あとは自身のパフォーマンスをどこまで上げられるか。実戦感覚を取り戻していくことが早急の課題と言える。

 彼自身も言う「回り道してきた人生」で大輪の華を咲かせるべく、このタイミングを逃さないこと。東口には今、勝負を懸けてもらいたい。

文=元川悦子

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