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【分析】“仮想セネガル”、“仮想ポーランド”の観点から考える欧州遠征の収穫とは

2018.03.29

欧州遠征でマリ、ウクライナと対戦した日本。1分け1敗で本大会前へ弾みをつけることができなかった [写真]=Getty Images

“仮想セネガル”とされたマリは個人の能力もさることながら、オーソドックスな欧州ベースの組織を備えた好チームであり、コートジボワール、モロッコ、ガボンと同居したアフリカ予選は惨敗に終わったものの、U-17W杯やU-20W杯で上位進出したメンバーが結集しており、西アフリカ特有の身体能力にコンビネーションがミックスされた好チームだった。

 言ってしまえば、セネガルのあらゆる要素を一回り小さくしたようなチームであり、スケール感ではセネガルに劣る。ただし、日本の守備に対する間合いの広さ、一瞬でトップスピードに入る仕掛けなどはセネガルの主力選手に勝るとも劣らない。特に中盤の選手のドリブル意識はセネガルより高そうだ。またセネガルはインサイドハーフがシンプルに展開し、サイドアタックを多用するが、マリは中盤からも縦に仕掛ける。

マネ

今季リーグ戦では8得点を挙げている [写真]=Getty Images

 セネガルにはウィングのサディオ・マネ(リヴァプール)、センターバックのカリドゥ・クリバリ(ナポリ)というワールドクラスの選手を攻守に揃えており、他にも中盤とセンターバックを兼任するシェイフ・クヤテ(ウェストハム)、セリエAのラツィオでブレイクしてモナコに移籍した左サイドアタッカーのケイタ・バルデ・ディアオといった準ワールドクラスの実力者もひしめく。そうした点でマリよりはるかに厳しい相手と認識するべきではあるが、前線や最終ラインの選手の特徴も似ており、まさしく“仮想セネガル”として良いサンプルを得られたはずだ。

 一方で“仮想ポーランド”と目されたウクライナはかつての堅守速攻のイメージをぬぐい去り、現在流行しているポジショナルプレーと元イタリア代表のタソッティ・コーチが仕込んだと思われる緻密な守備戦術を見事に組み合わせており、欧州予選でアイスランド、クロアチアに届かず敗退したとはいえ、若い選手の成長次第では目標であるユーロでの躍進が期待できる国だ。

 ポーランドは素早いビルドアップからウィングを起点にチャンスを作っていくが、エースのロベルト・レヴァンドフスキ(バイエルン)にどう得点させるかという共通意識がある。ウクライナにはそうした明確なエースはおらず、強いてあげれば左サイドのイェウヘン・コノプリャンカ(シャルケ)が持ったところから仕掛けるプレーが1つスイッチになっている。もう1人の主力アタッカーであるアンドリー・ヤルモレンコ(ドルトムント)がいれば違った形も見られたかもしれないが、ブラジル産のマルロス・ロメロ・ボンフィム(シャフタール)も強力なアタッカーであり、長友佑都(ガラタサライ)とのマッチアップだけでなく、インサイドに流れての仕掛けも脅威だった。

レヴァンドフスキ

ポーランドは「仮想日本」として韓国と対戦。レヴァンドフスキは先制点を奪った [写真]=Getty Images

 ただ、レヴァンドフスキのフィニッシュから逆算したような固定的な形はないので、日本にとっては的を絞りにくかった部分はある。ポーランドが相手となれば、パーツはウクライナ以上に強力だが、もっと対策を前面に押し出したディフェンスもできるはずだ。ウクライナは[4-1-4-1]だが、ポーランドは[4-2-3-1]を基調としており、欧州予選後は[3-4-2-1]に取り組んでいる。

 ケガから復帰してきたナポリ所属のアルカディウシュ・ミリクが2シャドーのポジションに組み込まれたら非常に危険だ。こうした具体的な戦術は別物と言えるポーランドとウクライナだが、ディフェンスやアタッカーとのデュエルの局面では参考になる部分もある。日本戦で1トップに入っていたアルテム・ベシェディン(ディナモ・キエフ)はかつて代表のスーパーエースとして鳴らしたアンドリー・シェフチェンコ監督の“秘蔵っ子”とも言えるヤングタレントだ。

 現時点でレヴァンドフスキと及ぶべくもないが、植田直通(鹿島アントラーズ)をセンターバックとして起用したことが本大会で生きてくるかもしれない。ただし、基本的な組み立てなど不安要素は多く、ポーランド戦で起用を考えるなら、本大会までの残り3試合の中でも可能な限りプレーさせるべきだろう。

 またインサイドハーフのポジションから日本を苦しめたマンチェスター・C所属のオレクサンドル・ジンチェンコはポーランドの攻撃的MFピオトル・ジエリンスキ(ナポリ)にスタイルが似ている。マッチアップした山口蛍(セレッソ大阪)がジンチェンコの技術だけでなくポジショニングに苦しめられたが、ジエリンスキの自在性の高いプレーに備えるサンプルにはなる。ただ、最近復帰してきた“レヴァンドフスキの相棒”ミリクはウクライナに該当する選手がおらず、6月8日にアウェーで対戦するスイスにも類似選手がいないので厄介だ。

ヴァイッド・ハリルホジッチ

指揮官は、2試合を終えて「W杯のことを考えるとまだ十分ではない」と語った [写真]=Getty Images

 ウクライナは“仮想セネガル”のマリより“仮想ポーランド”の意味合いは強くない。ただし、日本は欧州のこのレベルの国と対戦する機会がないため、そっくりでなくても大きな経験になったことは確かだ。ただ、3カ国のどこも個別にスカウティング、分析して対策を練り、選手が共通理解を持つ必要があることは変わらない。日本はH組の4カ国で最もチーム力が落ちることは間違いないが、だからこそ明確に対策を立ててぶつけていきたい。それこそヴァイッド・ハリルホジッチ監督の真骨頂だろう。

文=河治良幸

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