2018.02.07

W杯のピッチに立つために…酒井高徳が越えなければならない2つの“壁”

ドイツで得たリーダーシップと決意を胸に酒井高徳はW杯を目指す
サッカー総合情報サイト

 名門のキャプテンとしてチームを率いた昨シーズン、酒井高徳は日本人でただ1人、そのプレッシャーを経験した。「チームをまとめる」――、そんなことを考える余裕もなく、劇的な残留でシーズンは終了した。迎えた今シーズンは、ある行動でチームをまとめようと奮闘している。そして、その行動はハリルホジッチ監督が頭を悩ませる問題にもつながるのだが……。悲願のW杯出場を志す男の前には大きな壁が立ちふさがる。それでも、ドイツで培った経験とリーダーシップを日本代表に還元しようとしている。強固な結束を生み出すために。
(編集部注:本インタビューは2017年12月実施)

インタビュー・文=加藤聡
写真=小林浩一、ゲッティイメージズ
取材協力=アディダスジャパン

「『ホッとした』の一言だった」…プレッシャーと戦い勝ち獲った“残留と信頼”

ハンブルガーSVのキャプテンとして2シーズン目を迎えた [写真]=Getty Images

 日本人初の大抜擢だった。2016年11月、ハンブルガーSV(HSV)は、新キャプテンに酒井高徳を指名した。このとき、チームはリーグ開幕から10節を消化し、2分け8敗で最下位に沈んでいた。浮上するためのテコ入れとして白羽の矢が立った。ブンデスリーガで日本人選手がシーズンを通じてキャプテンを務めるのは史上初。しかし、当の本人はキャプテン就任時、大きな違いを感じなかったという。

「日本やドイツのメディアが(キャプテン就任について)バーッと騒いだんで、それでやっと『キャプテンってそんなにすごいんだ』っていう感じでした(笑)」

 特にプレッシャーを感じることなく引き受けた大役だった。しかし、チームは浮上のきっかけをつかめず、シーズン終盤まで残留を争った。HSVはチーム発足以降、2部降格を経験したことがない名門だ。「クラブ史上初の2部降格」――、そのプレッシャーは日に日に大きくなり、チームに暗雲が立ち込めた。

 16位で迎えたシーズン最終戦の相手は、15位のヴォルフスブルク。残留を争うライバルとの直接対決は、88分の決勝ゴールでHSVが勝利。同時に、14位へと順位を上げ、1部残留が決定した。歓喜に沸くスタジアム。そのピッチには、キャプテンマークを左腕に人目をはばからず号泣する酒井高徳の姿があった。

「『ホッとした』の一言だったなぁって……。あと1、2試合勝てば残留がほぼ決まるっていう状況まで行けていたのに、ラスト2試合を前に3連敗して断崖絶壁まで追い込まれた。みんなメンタルもやられていたし、今でも(最終節は)『ホームじゃなかったら確実に負けていたな』とも思いますね」

 苦しみながらチームを牽引し、名門の面子を保った酒井高徳に対するチームの信頼は厚い。今季開幕前、HSVは酒井高徳のキャプテン続投を発表した。

意思疎通を図るためにキャプテンが設けた“話す機会”

チームをまとめるために試合中にも積極的に意見をぶつける [写真]=Getty Images

「やりたいことを相手に言わずにギクシャクしていることが多かった」

 キャプテンとして見たHSVについてそう振り返る。「一人ひとりがもっと主張すべきだ」と感じた酒井高徳は、今シーズンからある行動に出た。

「試合の勝ち負けに関係なくランダムに俺が4、5人集めて、『なぜ良かったか?』『なぜ悪かったか?』、あるいは『どうすれば良くなるか?』ということを話し合っています。『それが俺たちのサッカーだね』『そうやって守らなきゃね』っていう意思疎通を図ることが大事だから。その場で『お前のあのプレーが悪い』っていう指摘はいらない。今後の自分たちが同じ方向を向くように小さいミーティングを勝敗に関係なく今シーズンはやっています」

 年齢や国籍など、多種多様な選手が集まるブンデスリーガにおいて、“チームをまとめる”のは容易ではない。なんとかしようと動いても、ミーティングだけでは理解し合えない部分もあるという。

「我が強いやつも当然いるから、そういうやつには1対1で言うしかないですね。言っていることが正しいなら『ちゃんと伝えれば良い』とか、俺が目に見えて良くないことだと思ったら『それは良くないと思う』とか。選手一人ひとりに色々な状況があるので、良く思っていないやつがいたり。そういうやつを見付けたらなるべく声を掛けに行こうと気を付けています」

 今季もHSVは降格圏に低迷する苦しい状況が続くが、チームを一致団結させるためにピッチ内外で奮闘している。

ハリルと酒井高徳が代表チームに鳴らす警鐘「要求しないのはナンセンス」

ハリルホジッチ監督と同じく酒井高徳もコミュニケーションの必要性を感じている [写真]=Getty Images

 日本代表にも通ずるものがある。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はこれまで、特定の選手の名前を挙げ個々の自己主張やコミュニケーションの少なさを指摘してきた。代表チームのメンバーが揃って練習できる時間は限られている。年齢もバラバラな国内外の選手たちが招集され、短い練習時間で試合に臨まなければならない。チームの連携を深めたり、お互いの特徴を理解するためにも、選手たちが互いにディスカッションするのは当然と言えるだろう。しかし、酒井高徳も日本代表のコミュニケーションに物足りなさを感じていた。

「自分の性格上、思ったことや気付いたことは伝えていきたい。正解とか不正解とか関係なくて、その人個人の意見があったらそれは聞くし、意思疎通を図りたいから『俺がこうしているときは、こうしてほしい』って言う。でも、日本人は先輩・後輩の関係がある。海外だと“先輩”って呼び方もないくらい、『おい!』とか『パス出せよ!』って言うし。それくらいガツガツするのが当たり前。やっぱり、11人で戦っているけど個のスポーツでもあるわけだから。お互いを高めるためにどんどん要求するべきだし、しないのはナンセンスだと思う。海外の選手からもっと学ぶべきところだと思し、そこは俺もハリルさんと同意見というか、『なんで言わないんだろう?』って思う」

 技術力を短期間で飛躍的に上げるのは難しい。反面、意思を共有し、チームの一体感を強くすることは可能なはずだ。現在の日本代表には浅野拓磨や久保裕也ら若い選手も名を連ねる。ロシアW杯では厳しい戦いが予想される。だからこそ、酒井高徳がドイツで培ったキャプテンシーを代表に還元し、若手・ベテラン関係なく強固な結束が生むことはチーム力の底上げに不可欠だ。

「代表にいる限りはレギュラーで」…立ちふさがる葛藤とライバルの存在

酒井高徳がサイドバックのレギュラーとしてW杯のピッチに立つには越えなければならない壁があるという

 サバイバルの様相が色濃くなってきた。ブラジル、ベルギーと対戦した欧州遠征、国内組のみで挑んだEAFF E-1サッカー選手権2017、5月のロシアW杯日本代表最終メンバー選考へ、全選手がふるいにかけられている。

「選ばれればW杯に行くのも3度目になるので、今度こそピッチに立ちたいですね。『W杯の芝を踏みたい』『あの雰囲気を味わいたい』という気持ちは人一倍強いと思うので、そこは1つの夢ですね」

 2010年南アフリカW杯はサポートメンバーとなり、2014年ブラジルW杯はメンバーに選出されるも出場機会は得られなかった。ロシアW杯開催時、酒井高徳は27歳。ドイツで多くを学んで迎える3度目のチャンスとしては年齢的にも申し分ないタイミングだ。しかし、W杯のピッチに立つには、越えなければならない2つの“壁”がある。1つはクラブと代表で守るポジションの違いだ。

 HSVのチーム事情から、今シーズンはボランチを主戦場にしてきた。本職ではないポジションを任されるのも、左右両サイドをそつなくこなす器用さや、ハードワークを厭わないキャプテンへ全幅の信頼が寄せられている証しだろう。ただし、本人はサイドバックとして代表の定位置確保を目指している。クラブで担う役割と代表で望むポジションにギャップが生じている。

「自分に足りないものは結果。残念ながら(代表では)試合に出られていないから、プレーを見せる時間もないし、HSVではボランチでプレーしている。(ハリルホジッチ)監督としてサイドバックで使いづらいというのは必然的なことというか……。ボランチをやらなきゃいけないチーム状況があるし、サイドバックをやりたいけど『信頼されていないのかな』っていう葛藤がないと言ったら嘘になるくらい感じています」

 そして、サイドバックとしてレギュラーをつかむためには、ライバルの存在も無視できない。アジア最終予選で両サイドバックのレギュラーを務めたのは長友佑都と酒井宏樹だった。長友にはインテルという世界有数のビッグクラブで6シーズンにわたりプレーし、過去2度のW杯に出場した経験がある。一方の酒井宏樹は昨シーズン、マルセイユに移籍。1年目からレギュラーに定着すると、フィールドプレーヤーで最多となる35試合に出場。今季もスタメンに名を連ねると、ネイマール、キリアン・ムバッペらと互角に渡り合う活躍を見せた。酒井高徳もアンダーカテゴリーから共にプレーしてきたライバルの変化を目の当たりにしていた。

「やっぱり代表にいる限りはレギュラーとして出たいと思っている。でも、ポジションを争うにあたって、簡単には超えられない選手たちがいます。宏樹に関しては移籍してステップアップした。本人には失礼かもしれないけど、同じくらいのラインに立っていた1人として『少し変わったな』っていう印象です。良いチームにいて良い経験をしているんだなって見えるし、それが代表にも還元されて代表でも良いプレーができて、良い循環で回っていると思う。そういうのを見たら『自分もしっかりしなきゃ』と思う」

 クラブではキャプテンとしてチームをまとめ、代表ではポジションのギャップとライバルの牙城が立ちふさがる。それでも、酒井高徳の信念は揺るがない。ライバルの活躍から刺激を受け、目の前の戦いに全力を注ぐ。

「チームでしっかり活躍して結果を残す、試合に出続けるというのがW杯のメンバーに入るために唯一自分にできることだと思う。そこは継続してやりたい。でも、それだけじゃ足りない。やっぱりW杯はすごくレベルが高い大会だから、どういうレベルアップをしていけばいいのか、考えながら課題を克服したいです」

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