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槙野智章が“崖っぷち”からつかんだチャンス「核となる選手を必ず止める」

2018.02.03

槙野智章が激動の2017年、ロシアW杯への思いを語った。

“激動”――、槙野智章にとって2017年はこの一言に尽きる。シーズン途中に監督が交代し、チームはリーグ戦で低迷。かと思いきや、アジアの舞台で10年ぶりのビッグタイトルを戴冠した。日本代表に選出されると、アジア最終予選を勝ち抜き6大会連続の切符を勝ち取った。さらに、強豪国と対戦した欧州遠征では、2試合連続でフル出場。ワールドカップイヤーを前にレギュラーの座を手繰り寄せた。それでも、槙野は「危機感を常に感じている」と話す。強敵との“デュエル”からつかんだ手応え、勝負の2018年への覚悟を語った。
(編集部注:本インタビューは2017年12月実施)

インタビュー・文=サッカーキング編集部
写真=小林浩一、ゲッティイメージズ
取材協力=アディダスジャパン

監督解任を乗り越え“守備の浦和”が勝ち獲ったアジアタイトル

ACLではフッキら各チームのエースと激しいマッチアップを繰り広げ10年ぶりのアジアタイトルを手にした [写真]=Getty Images

 2017シーズン開幕前、浦和レッズはリーグ王者の筆頭候補だった。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の下、5シーズンにわたり攻撃サッカーを築き上げ、戦力も充実していた。しかし、開幕戦で黒星を喫するとシーズン中盤には負けが込み、優勝争いから脱落。7月末、浦和は指揮官との契約解除を決断した。代わって堀孝史コーチが監督に就任するも、リーグ戦は浮上のきっかけをつかめないまま、7位で終えることに。それでも、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)優勝に照準を合わせると、2007シーズン以来のアジアタイトル戴冠を果たした。

「ペトロヴィッチ監督だったら決勝トーナメントで勝てなかったかもしれないし、堀監督だったらグループステージを突破できなかったかもしれない。両監督のやり方がハマったからこその優勝だったと思います」

 槙野が話すように、両指揮官の特色は数字が物語っている。ペトロヴィッチ監督がチームを率いたグループステージでは、6試合で計18得点をマーク。持ち前の攻撃力を遺憾なく発揮し、グループを突破した。一方、堀監督はチームの守備意識を高めるため、システムを4バックに変更。指揮を執った準々決勝・川崎フロンターレ戦以降、ホームで喫したのは1失点のみと、勝負どころの堅守でトーナメントを勝ち上がった。

「ペトロヴィッチ監督は『自分たちの良さを全面に出そう』、堀監督は『相手の良さを消そう』というスタイルだったので」

 準決勝ではフッキ(上海上港)、決勝戦ではオマル・ハルビン(アル・ヒラル)らを徹底マーク。相手のエースを封じることに全力を尽くした。泥くさく勝利にこだわり、守備の意識を高めることで、近年のJリーグ勢が後塵を拝してきたACLを制した。

 そして、その意識改革の成果は日本代表でも発揮されることとなる。

「自分が負けると日本がやられる」…確かな手応えを胸に世界との戦いへ

欧州遠征2試合にフル出場。ベルギー戦ではロメル・ルカクに真っ向勝負を挑んだ [写真]=Getty Images

 クラブでのパフォーマンスが認められ、FIFAランク2位のブラジル、同5位のベルギーと対戦した欧州遠征では、センターバックのレギュラーに抜擢された。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督就任以降初となるトップランカーとの真剣勝負で、槙野は2試合連続でフル出場を果たす。結果は2連敗に終わったが、確かな収穫を手にした。ターニングポイントとなったのは、ベルギー戦でのロメル・ルカクとのマッチアップだった。

 プレミアリーグで得点を量産する大型FWを相手に真っ向勝負を挑んだ。粘り強くマークして前を向かせず、シュートチャンスを与えても体を投げ出しブロックした。チーム全体を見ても、前半からハイプレスをかけてボールを奪いチャンスを迎える場面もあった。試合後には、ハリルホジッチ監督も「このチームにものすごく可能性を感じた。守備のところでは、ブロックを作ればどんなチームに対してもできると証明した」と守備に手応えを感じていた。槙野も指揮官と同じく手応えを口にする。

「彼(ルカク)を抑えることは無理だろうと思われている中で、『日本人でもこれだけできる』というのを見せないといけなかったし、良い意味でサプライズを起こさないといけないと思っていた。『自分が負けると日本がやられる』とも思っていたし、それくらい自分にプレッシャーをかけながらプレーしました。でも、それがすごく心地良いプレッシャーに変わっていったし、楽しくプレーできました。もちろん、自分が通用しなかった部分というのも痛感しましたけど、“相手が嫌がること”を考えてプレーすることで、試合中に自分が成長していくというか、学んでいるなと感じました」

 ロシアW杯グループステージ、日本はコロンビア、セネガル、ポーランドと相対する。いずれの国も、ラダメル・ファルカオ(コロンビア)、サディオ・マネ(セネガル)、ロベルト・レヴァンドフスキ(ポーランド)ら、世界トップレベルのFWを擁している。槙野にとっては厳しいデュエルが待ち構えているのだが、「有名でうまくて強い選手とのマッチアップは、僕にとって大好物なので(笑)」と清々しいほどの笑顔で言い放つ。欧州遠征チャンスが訪れ、確かな手応えをつかみ、自らの明確な役割も見えた。日本代表勝利のために、槙野に迷いは一切なかった。

「日本がグループステージを突破するために、相手にゴールさせない。僕もメンバーに選ばれるか分からないし、ピッチに立てるかも分からない。でも、出た時のことを考えれば相手の核となる3選手(ファルカオ、マネ、レヴァンドフスキ)は間違いなくキーマンになると思います。彼らを必ず止めないと日本の突破はありません」

“最後のW杯”出場へ「お金と時間をかけてサッカーと向き合う」

食生活改善に加え、例年より早くトレーニングを開始するなど、ロシアW杯出場へ全てを懸ける

 槙野はこれまで、自身の日本代表における立ち位置について“崖っぷち”と口にしてきた。過去に2度、W杯のメンバー候補に名前が挙がるも落選している。さらに、ロシアW杯アジア最終予選の出場は左サイドバックを務めた1試合のみ。その間、センターバックとして出場したのは、同世代の森重真人や年下の吉田麻也、昌子源だった。槙野には十分なプレー機会が与えられないまま、日本は6大会連続のW杯出場を決めた。「30歳で迎えるロシアW杯に出場できるのか?」――、持ち前の明るいキャラクターでチームを鼓舞する裏で、そんな不安を抱いていた。

「危機感は常に感じていますよ。たくさん失敗してきましたし、挫折も味わったから。代表のセンターバックで僕は最年長なんですよね。年齢的にも最後のW杯だと思うし、この大会に懸ける思いは人一倍強いんでね」

 このチャンスを逃すわけにはいかない。ベルギー戦で目を引くパフォーマンスを披露し、ハリルホジッチ監督も一定の評価をしたことで、槙野がセンターバックのレギュラー争いを一歩リードしたという見方も強くなっている。しかし、槙野は来る新シーズンへ、例年にないペースで始動していた。

「いつもはシーズン最終戦が終わったら体を休めて、新年を迎えてからトレーニングを始めるんですけど、クラブワールドカップから1週間くらいしか休んでいなくて、すぐに体を動かしました。コンディションを落とさないようにゆっくりと。2018年は自分の夢でもあるW杯イヤーですし、国内のタイトルを獲らなきゃいけない。いろいろな部分でサッカーへのアプローチの仕方をすごく考えて、サッカーにお金と時間をかけて向き合っていかないといけない」

“サッカーにお金と時間をかける”。この台詞にも槙野のW杯出場への覚悟が込められている。トレーニングにはさらなるクオリティーを求め、コンディション維持のために長友佑都のアドバイスを参考に食事面の改善にも着手している。

「W杯で勝つために――、ということを考えれば安いと思っています。そういう考えに至ったのは、サッカーをやってきて今が初めてですね。特に食事面は全くの無知だったので、長友選手とかの話を聞いて意識するようになりました」

 並々ならぬ覚悟を胸に、槙野智章がキャリア最大の挑戦に立ち向かう。

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