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【コラム】北朝鮮戦では司令塔役…日本史上最年長でのW杯出場へ、存在感を増す今野泰幸

2017.12.11

北朝鮮戦では司令塔役を担った今野泰幸 [写真]=三浦彩乃

 22歳の若き守護神・中村航輔(柏レイソル)のスーパーセーブ連発、同じリオデジャネイロ五輪世代のダイナモ・井手口陽介(ガンバ大阪)の劇的決勝弾で辛くも北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に勝ち切った9日のEAFF E-1サッカー選手権初戦。日本はこのゲームで想像をはるかに超える苦しみを味わった。

 シュート数7対12という数字に象徴される通り、決定機の数で相手に上回られ、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の目指すタテに速い攻めを繰り出せない。前半は1トップの金崎夢生(鹿島アントラーズ)も、右FWに陣取った今季JリーグMVP&得点王の小林悠(川崎フロンターレ)も、仕事らしい仕事ができなかった。後半に入って初キャップのスピードスター・伊東純也(柏)が入って流れを変え、川又堅碁(ジュビロ磐田)や阿部浩之(川崎)が攻めを活性化させたが、チームとしては課題の残る内容だったと言わざるを得ない。

「この試合のよかった点は勝ったところ。プレー面は反省の方を思い出しますね。決定機を作れなかったし、攻撃でなかなかスピードアップできなかったし、守備でも結構簡単にやられてしまった。みんながちょっと自分のポジションにいすぎたのかなと。それで相手の陣形が崩れなかった。そういう工夫がちょっと足りなかったのかもしれないですね」と国際Aマッチ91試合目を戦ったボランチ・今野泰幸(G大阪)は厳しい表情で問題点をズバリ指摘した。

 それでも、彼のデュエルの強さ、読みの鋭さ、的確なポジショニングがチームを救った場面は数多くあった。守備面のみならず、攻撃面でもパス出し役を買って出て、司令塔としてゲームをコントロール。まるで数年前の遠藤保仁(G大阪)を彷彿させるような存在感を示した。終盤には思い切って攻め上がり、井手口の決勝点をアシスト。勝負を分ける局面をかぎ分ける嗅覚と感性の鋭さは、間もなく35歳になろうとしている今も衰えるどことか、磨きがかかる一方だ。

「今ちゃんのサポートとか声かけはすごかったし、非常に経験値が高いなと。結局アシストもしているし、陽介含めてあのボランチ2枚がボールを刈り取ってくれたから、相手の攻撃の芽を摘むことができた」とキャプテンマークを巻いた昌子源(鹿島)も脱帽していた。この一挙手一投足を目の当たりにして、ハリルホジッチ監督も本気で彼をロシアへ連れて行こうという気になったのではないだろうか。

 目下、日本代表ボランチ陣はキャプテン・長谷部誠(フランクフルト)、2014年ブラジル・ワールドカップ経験者の山口蛍(セレッソ大阪)、井手口の3枚が当確と見られている。が、ご存知の通り、長谷部は右ひざの状態が芳しくなく、ブンデスリーガの試合も出たり出なかったり。6カ月後のロシア本大会の時、どのような状態になっているのかも全く読めない。その長谷部がロシア切符を勝ち取った後、「今ちゃんとポジションを争うかもしれない」とコメントしたほど、1つ上の先輩・今野の非凡な能力に敬意を払っていた。もちろん、長澤和輝や遠藤航(ともに浦和)など他のボランチ候補者はいるが、今野がいれば、長谷部の役割や負担は確実に軽減される。チームバランスを考えても、その方がベターだろう。

 代表ではセンターバックやサイドバックなどさまざまなポジションで使われてきた今野も、今度こそ本職で勝負するチャンスを与えられてしかるべき。しかしながら、本人の中ではロシアに対しての具体的なイメージは全くないという。

「代表で自分のやれることは少ないし、先のことは深く考えず、今やれることを冷静に一歩ずつやっていくしかない。次のワールドカップでコロンビアと当たったことも、リベンジとかは別にないですね」と彼は神妙な面持ちで話していた。

 ここ最近、そういった遠慮がちな発言に終始しているのも、2010年南アフリカ、2014年ブラジルの両ワールドカップで苦い思いを味わってきたからだろう。とりわけ、ブラジル大会では最終ラインのレギュラーに君臨しながら、チームを勝たせることができなかった。最たるものがラストのコロンビア戦(クイアバ)だ。「中盤での球際やルーズボールを全部持っていかれたし、パススピードも無茶苦茶速かった。すごい差を感じた」という衝撃は今も忘れることはない。世界トップレベルの高さを嫌と言うほど痛感しているからこそ、軽々しくワールドカップなどと言えない部分があるのかもしれない。

今野泰幸

ブラジルW杯では世界との差を痛感した [写真]=FIFA/FIFA via Getty Images

 今野が見据えているのは、目の前の戦いだけ。中2日でやってくる中国戦(12日)、その後に控えている韓国戦(16日)をどう戦うか。そこに集中するのが、30代半ばに差し掛かった今の彼の流儀である。

「代表戦は重みがある試合だし、負けられない気持ちも強いから、みんな守りに入ってしまうところがある。いろんなことが重なって、北朝鮮戦は見ている人からしたら『消極的なパスが多かった』と思われるゲームになってしまった。自分もパス出しのポジションが低かったし、もっと前に行って、決定機を作る前のパスをどんどん出していきたい。自分がやるべきことをしっかり分かったうえで、次にいい試合ができるのがいい選手。何とか変えていきたいですよね」と今野は改めて前進を誓った。

 その言葉通り、自らチームを統率し、停滞しがちだった攻めのスイッチを入れ、守備面でもより安定感を高める方向へと導ければ、E-1選手権のタイトルが見えてくる。6カ月後の大舞台への道も開けてくるだろう。35歳でワールドカップ出場というのは日本人選手最年長。その壁を彼なら破ることができるはず。そう期待して、今大会の残り2戦をしっかりと見極めたいものだ。

文=元川悦子

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