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豪戦でW杯出場は決まるのか…ハリルホジッチ監督、真価が問われる90分間に

2017.08.25

オーストラリア戦のメンバー発表を行ったハリルホジッチ監督 [写真]=Getty Images

 6大会連続のFIFAワールドカップ出場をかけたアジア最終予選、オーストラリア代表戦(31日)まで1週間を切った。勝てばロシア行きの切符をつかめる一方、勝てなければアウェイのサウジアラビア代表戦(9月5日)に命運は持ち越される。ベンチ入りできる23人に対し、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は27人もの選手を招集した。総力戦の覚悟がにじむ。

 日本代表がその後にたどる道を示唆する一戦になる。過去2度、ワールドカップ出場が決まる瞬間に立ちあって抱く実感だ。2010、2014年大会の切符を手にした90分間をひも解いてみたい。

 2009年6月6日、タシケント。とにかく地元の観客が騒々しいウズベキスタン代表戦だった。喧噪を消沈させたのは9分の岡崎慎司(当時清水エスパルス)だった。

 中村憲剛(川崎フロンターレ)のスルーパスから抜け出して左足でシュート。GKに防がれたこぼれ球に、あきらめず、迷わず、頭から飛び込んで先制点を挙げた。国際Aマッチ出場12試合目で決めた7点目。23歳は「裏を狙う意識を持ち続けていたら、いいところにパスが来た。思いきって打とうとだけ考えた」と初々しく振り返った。

 大一番で勝利をたぐり寄せた、まさに岡崎という泥臭いゴール。代表の主力FWに成長するうえで欠かせない節目となった。いま、国際Aマッチの出場数は109、ゴール数は50まで積み上がっている。

 試合全体を見渡せば、ある予兆があった。1年後のワールドカップ直前に岡田武史監督(当時)が下す決断の予兆だ。

 人数をかけて前がかりに細かいパスをつなぐ志向は、逆襲にもろい守備と背中合わせ。2点目を取りにいった後半は特にピンチが連なり、ウズベキスタンにゴールを脅かされ続けた。攻守の柱だった中村俊輔(当時セルティック)と中沢佑二(横浜F・マリノス)は「苦しい試合だった」と声をそろえた。

 試合を重ねるにつれてほころびは取り繕えなくなり、失点はかさんだ。ワールドカップ初戦まで3週間と迫ったあたりで岡田監督は理想を捨てた。不調の中村俊を先発から外し、突貫工事の堅守速攻に舵を切る。それが勝負のあやとなり、16強進出は導かれた。

 2013年6月4日、6万2172人が詰めかけた埼玉スタジアム2002。主役は本田圭佑(当時CSKAモスクワ)だった。

 引き分けでも出場が決まるオーストラリア戦は0―1で後半アディショナルタイムを迎えていた。日本はPKを奪い、キッカーは本田。ゴールの向こうで、青い群衆が祈っている。大きく息を吐き、ど真ん中に蹴り込んだ。吠える背番号4を中心に歓喜の渦が広がった。

 翌日に開かれた記者会見では2分半にわたる演説をぶった。世界に挑むため、必要なこと。

「シンプルに言えば、個。結局、最後は個で試合を決することがほとんどなんで。もちろん、日本の最大のストロングポイントはチームワークなんだけど、それはもう、生まれ持ったもの。どうやって自立した選手になって、個を高められるか」

 ただでさえ大きかった本田の存在感は、良くも悪くもさらに大きくなった。選手を尊重する、ある意味で尊重しすぎたアルベルト・ザッケローニ監督(当時)よりチーム内外への影響力は増した印象を受けた。選手間で呪文のように繰り返された言葉は、パスと連係でボールを保持しながらきれいに攻め崩す「自分たちのサッカー」。個を高めれば、自分たちのサッカーを貫いて勝てる。4年前と異なり、ワールドカップ優勝を公言してはばからない本田を中心に最後まで理想を追った。

 結果、素早いサイド攻撃が売りだったはずのイタリア人に率いられたチームは、組み立てが遅攻に偏った。自分たちのサッカーを封じられた場合の備えを整えないまま本番に臨んだ。コートジボワール代表との初戦、香川真司(当時マンチェスター・ユナイテッド)と長友佑都(インテル)の連係で左から仕掛ける得意形は研究し尽くされていた。2敗1分け。グループステージで散った。

 さあ、31日の埼スタだ。いまのオーストラリアの強みはフィジカルにとどまらない。足元もうまい。先のFIFAコンフェデレーションズカップでは前線から積極的にプレスをかけ、ドイツ代表やチリ代表を慌てさせている。日本の連動攻撃をオーストラリアが受け止め、ロングボールで逆襲に転じる従来の展開から趣は変わるかもしれない。

 そんな時、ロシアをめざす日本の真価が問われる。世界と渡り合うために不可欠な要素とハリルホジッチ監督が考え、強調してきた「デュエル」(1対1の競り合い)と「縦」の真価だ。果敢なつなぎとプレスに球際でひるまない。前に出てくる相手の裏を取り、縦に簡潔に攻めきる。長谷部誠(フランクフルト)を中心に体を張ってボール争奪戦を制し、原口元気(ヘルタ・ベルリン)らのスピードを生かして手数をかけずゴールを陥れる。そんな筋書きだ。

 監督就任から2年半。歩んできた道が間違ってはいなかったと証明する90分間でもある。

文=中川文如

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