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【コラム】“ガンバ・トライアングル”が示したクラブユニット有効活用の道

2017.06.08

試合を落ち着かせた(左から)井手口、今野、倉田の“ガンバ・トライアングル” [写真]=Getty Images

 13日の2018 FIFAワールドカップロシア アジア最終予選・イラク戦(イラン・テヘラン)を視野に入れ、内容ある勝利が求められた7日のキリンチャレンジカップ2017・シリア戦(東京)。日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は3月のUAE(アラブ首長国連邦)戦(アル・アイン)で機能した4-3-3を採用。センターバックの昌子源(鹿島アントラーズ)を除き、その大一番で先発出場した10人を送り出し、2カ月半前の再現を狙った。

 ところが、開始早々の7分に香川真司(ドルトムント)がマハムード・アルマワス(9番)との競り合いで左肩を脱臼するアクシデントに見舞われ、チームの歯車がいきなり狂った。指揮官は倉田秋ガンバ大阪)を投入して試合を落ち着けようと試みたが、選手たちは相手のパワーとスピード、個の打開力に面食らったのか、劣勢を強いられる。「中盤にたくさんの選手がいたのに、相手から5メートルくらい離れて立っていた。消えている選手が何人かいた」とハリルホジッチ監督も不満を吐露したが、確かに前半は選手間の距離が遠く、連動したプレスもかからなかった。シュート数こそ7対4と相手を上回ったものの、主導権を握られる時間が長かった。

 日本は後半頭から久保裕也(ヘント)と本田圭佑(ミラン)を交代。相手右ショートコーナーから不意打ちの1点を食らうと、すぐさま山口蛍(セレッソ大阪)に代えて井手口陽介ガンバ大阪)を投入する。この交代によって中盤にはアンカー井手口と今野・倉田のインサイドハーフという“ガンバ・トライアングル”が形成されることになった。

「普段、一緒にやっているので、そこはやりやすさを感じました」と初キャップの井手口が言えば、倉田も「陽介とはガンバでずっと一緒にやっているので考えなくても合わせられる間柄になっている。俺と今ちゃんと陽介が出たときはいいリズムでできたと思います」と手ごたえを口にしたが、彼らが共存することで中盤の連動性は短時間で飛躍的に向上した。

 後半58分に今野の同点弾が生まれた際も、長友佑都(インテル)のクロスに本田、倉田、今野の3人が反応。ゴール前に飛び出していて、前半にはなかった前線の厚みを感じさせた。「左サイドの崩しが完璧だったんで、左サイドのおかげだと思います」と結果を出した今野も恐縮していたが、前半はいまひとつだった彼が尻上がりに調子を上げることができたのも、慣れ親しんだメンバーとのプレーの成果だったはずだ。

 インターナショナルウィークしか活動できない代表チームにおいて、連携やコンビネーションをどう深めていくかというのは非常に難しいテーマだ。

 そこで、各国代表監督がよくやっているのが、強豪チームのユニットをそっくり持ってくる方法。ユーロ2008(スイス&オーストリア)、2010年の南アフリカ・ワールドカップ、ユーロ2012(ポーランド&ウクライナ)を連続優勝したスぺインは、バルセロナのシャビ(現アル・サッド)とアンドレス・イニエスタを軸に織りなす中盤を生かしたチームで世界の頂点に君臨した。2014年のブラジル・ワールドカップを制したドイツもマヌエル・ノイアー、フィリップ・ラーム、トーマス・ミュラーらバイエルン勢に足りないところを加えた集団だった。

クラブユニットを有効活用しW杯を制したスペイン代表(左)とドイツ代表(右)[写真]=Getty Images

 ハリルホジッチ監督も常日頃から「準備期間が足りない」と嘆いているが、海外組がチームの半数以上を占めるようになった今、選手を集めて入念な戦術練習をする時間的余裕はない。だからこそ、クラブユニットを有効活用することを考えたのだろう。後半の短い時間ではあったが、その思惑は一応の成果を得たと言っていい。

 後半63分に今野と浅野拓磨(シュトゥットガルト)が交代した後は、井手口がアンカーに入り、本田と倉田がインサイドハーフに並ぶ形になった。この時間帯になると、前日来日でラマダン(断食)中のシリアの動きが一気にダウン。それも追い風にはなったが、中盤でリズムを作って攻めに転じる回数が圧倒的に増えた。原口元気(ヘルタ・ベルリン)と交代した乾貴士(エイバル)の傑出したドリブル突破力が前面に押し出されたこともあったが、ようやく日本らしい戦い方ができるようになった印象が強かった。

 その時間の立役者である本田もまたガンバ大阪のアカデミー出身だ。中学時代3年間を過ごしただけとはいえ、ガンバにはやはり独特のボール回しのリズム、あるいは個人技やアイディアを大事にするカルチャーがある。それは同ジュニアユース出身の昌子もよく理解している点に違いない。彼らが共通する感性をピッチ上で瞬時にすり合わせてピッチ上で表現してくれるのなら、日本代表にとって好材料に他ならない。この日出番のなかった宇佐美貴史(アウグスブルク)、東口順昭、三浦弦太を含め、“ガンバ勢”の影響力は今後も拡大しそうな雲行きである。

 さしあたって、肝心なのは、次なるイラクとの決戦だ。シリア戦が1-1のドローという不完全燃焼感の色濃いゲームになってしまっただけに、二の舞は許されない。香川の負傷欠場が有力視される中、再びハリルホジッチ監督が4-3-3を採用するのであれば、今野・倉田・本田のいずれかがインサイドハーフのコンビを組むことになる。アンカーも山口が足の痛みを訴えているため、井手口がスタメンに抜擢される可能性もゼロではない。ガンバ勢が大一番で日本を勝利へと導いてくれるのなら最高のシナリオ。スペイン代表にとってのバルセロナ、ドイツ代表にとってのバイエルンになるべく、彼らには自覚を持って敵地に乗り込んでほしいものだ。

文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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