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【コラム】先発濃厚の昌子源、“3つの誓い”を胸にロシアへの足ががりを掴む

2017.06.07

代表でレギュラー定着を目指す昌子源 [写真]=野口岳彦

 大きなチャンスが目の前に待っている。大勢が決した試合終盤から投入された、昨年6月3日のブルガリア代表とのキリンカップ2016を最後に遠ざかっている国際Aマッチの舞台。通算3度目の代表戦出場が先発として訪れそうな状況でも、DF昌子源鹿島アントラーズ)は泰然自若としていた。

「何かやったろうと、変にアピールしようと思う必要はないのかなと。平常心でいつも通り鹿島でやっているプレーを出せば、自然といいアピールになる。自分がJリーグでやってきたことに、すごく自信を持っているので」


 シリア代表を東京スタジアムに迎える、キリンチャレンジカップ2017を翌日に控えた6日の公式練習の段階でも、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督からは何も言われていない。もっとも、今回招集された4人のセンターバック陣の顔触れは、明確なメッセージとなって伝わっていた。

 アルベルト・ザッケローニ元監督時代の2013年9月から継続的に招集され、ハリルジャパンでも吉田麻也(サウサンプトン)と不動のコンビを結成。41もの代表キャップを獲得してきた、30歳の森重真人(FC東京)の名前がリストから消えた。

 ケガをしているわけではない。同じく常連だったGK西川周作(浦和レッズ)やMF清武弘嗣(セレッソ大阪)をリストから外した理由を、指揮官は短い言葉に集約させる。

「何人かの選手の所属クラブでのパフォーマンスに、私は満足できなかった」

 今回は28歳の吉田を軸に、24歳の昌子に加えて槙野智章(浦和レッズ)と三浦弦太(ガンバ大阪)がセンターバック枠で招集された。もっとも、24キャップを獲得している30歳の槙野は、これまでは左サイドバック枠で入ることが多かった。22歳の三浦は将来を見越した初招集となる。

「びっくりしましたけど、森重くんが入っていないということは、今回はセンターバックが一番注目されるポジションだと思っている」

 吉田とコンビを組み、13日に待つイラク代表との2018 FIFAワールドカップ ロシア アジア最終予選のイラク代表戦(テヘラン)に臨むのは果たして誰なのか。いわばオーディションとなるシリア代表戦へ。前日練習後に取材に応じた昌子が残した言葉からは、“3つの誓い”が伝わってきた。

 1つ目は冒頭でも記した「気負わないこと」だ。舞台となる東京スタジアムは2015年3月31日、ハリルジャパンの初陣シリーズとなったウズベキスタン代表とのJALチャレンジカップで、A代表デビューを先発で果たした場所でもある。

ウズベキスタン代表戦で初先発した [写真]=Getty Images

「あの時の気持ちとはちょっと違ったところがあるし、自分自身のレベルも上がっていると思う」

 鹿島でも決して順風満帆な道を歩んできたわけではない。同じ2011シーズンに入団したMF柴崎岳(テネリフェ)とは対照的に、最初の3年間はほとんど試合に絡めなかった。期待の裏返しとばかりに、ディフェンダー出身の大岩剛ヘッドコーチ(現監督)から、米子北高校時代に培ったものすべてを否定された。

「自分としては自信があったんですけど、実際は歯が立たんかった。(大岩)剛さんから『何回同じミスをするのか』とか『何でその場面で足を出すのか』と何度言われたことか。ヒヨッ子でしたよね」

 負けてたまるかと必死に食らいつき、2014シーズンからレギュラーに定着。翌年からは秋田豊、岩政大樹と歴代のディフェンスリーダーに託されてきた「3番」を背負い、同年のヤマザキナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)、昨シーズンのJ1と天皇杯とタイトル獲得に貢献してきた。

 鹿島で刻んできた軌跡が、今現在に繋がっていると自負する。吉田とコンビを組んだことはまだ一度もないが、リザーブとしてハリルジャパンの戦いを見てきた長い時間を含めて、積み重ねてきた濃密な経験で補えると胸を張る。

「鹿島でもそうでしたけど、いろいろなタイプのセンターバックと組んでも自分なりに合わせられるというか、初めての人とでも良い関係が築ける。サッカーはだいたいにして、コーチングで解決できる。(吉田)麻也くんもそうですけど、僕もかなり声を出すタイプなので」

 2つ目の“誓い”は「振り返らないこと」だ。初制覇を目指したAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のラウンド16で敗退し、石井正忠前監督が解任されたのはわずか1週間前。大岩新監督の下で迎えた4日のサンフレッチェ広島戦で昌子はゲームキャプテンを託され、3-1で勝利した。

大岩監督の初陣で主将を任される [写真]=Getty Images

 J1が中断する代表ウイークは、新監督の戦い方を浸透させる絶好の機会となる。鹿島からただ一人、ハリルジャパンに選出されたことを意気に感じる一方で、わずかながら抱いていた後ろ髪を引かれる思いを、前日練習を視察に来ていた大岩監督が断ち切ってくれた。

「剛さんからは『こっちのことは心配せずに、代表に集中して来い』と言われました。今は鹿島のことを忘れるというか一時置いて、しっかりと代表で、という気持ちです」

 ハリルジャパンで確固たる居場所を築き上げることが、鹿島の仲間たちを奮い立たせる最高のエールになる。そして3つ目の“誓い”が、「目線をより高く据えること」だ。

 レアル・マドリード(スペイン)が、大会史上初の連覇を達成した先のUEFAチャンピオンズリーグ決勝。昨年12月のFIFAクラブワールドカップ ジャパン 2016決勝で対峙し、延長戦にもつれ込む熱戦を演じた同じチームだとは、昌子には到底思えなかった。

レアル・マドリードを相手にも臆すことなく対峙した [写真]=Getty Images

「間違いなく自信になった大会ですし、あの時点では世界一を懸けて戦いましたけど、彼らが本気じゃなかったことは対戦した僕たちが一番分かっている。ああいう選手たちともっと真剣勝負ができる舞台に立ちたいとあらためて思ったし、それはやはりワールドカップになるんですよね」

 気負わない。振り返らない。そして、より高く目線を据えた3つの“誓い”の先に「森重くんがいなくても、昌子に任せればと思ってもらえれば」という内容と、ロシアの地へとつながる扉を開く結果を追い求めて、昌子は仮想・イラクとなるシリア戦のキックオフを静かに待つ。

文=藤江直人

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