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【コラム】8カ月間の沈黙の末に…節目の50ゴールで“感覚”を取り戻した岡崎慎司

2017.03.29

岡崎はタイ戦で節目の代表通算50ゴールをマークした [写真]=Getty Images

 昨年6月、ブルガリア代表とのキリンカップで日本代表通算49ゴール目を決めたとき、50ゴールを達成するまでに、まさかこれほどの時間がかかるとは、当の本人も想像していなかったに違いない。

 8カ月間、ノーゴール――。

 2008年10月に代表デビューを飾って以来、岡崎慎司日本代表でこれだけゴールを奪えなかったのは、初めてのことだった。

 その間、岡崎は文字通り、産みの苦しみを味わっていた。

 前年王者として新シーズンを迎えたレスターでは激化したポジション争いのなかで、ベンチを温める時間が増えた。

 出場してもセカンドトップとしてハードワークや前線と中盤のリンク役を求められる。一方、日本代表では1トップとしてゴールを求められ、その役割の違いに悩んだ。

 答えが見えたのは、イラク代表、オーストラリア代表と戦った10月シリーズの頃だった。

「レスターと代表ではポジションも役割も違うけど、ハードワークしてチームを助け、チームがうまく回る状況を作れば、結果として自分にチャンスが回ってくる。つまり、レスターでも代表でもやることは同じなんだって、整理できてきました」

 ハリルジャパンでの生きる道が見えてきた――。ところが皮肉にも、その矢先のオーストラリア戦で戦術上の理由によって本田圭佑に1トップの座を譲ると、オマーン代表、サウジアラビア代表と戦った11月シリーズでは、ケルンでの好調をひっさげて代表に復帰した大迫勇也にポジションを奪われてしまう。

 UAE代表、タイ代表と対戦した今回の3月シリーズは、岡崎にとって「控えのFW」という立場で迎える久しぶりの代表戦だったのだ。

 メンタル面において岡崎が難しい状態に置かれているということは、UAE戦後の言葉からうかがえた。負傷した大迫に代わってピッチに立った岡崎は終了間際、原口元気のパスを受けてフリーでシュートを放ったが、ボールはゴール左へと逸れ、枠を捉えることすらできなかった。この場面を振り返り、岡崎が胸のうちを明かした。

「今、レスターでも決定的なポジションにいれていないし、今日外した場面もそうですけど、ああいうところで自信をもって打ち切れなくなっている。でも、外すのはよくないですけど、ああいう場面を迎えることで、ストライカーとしての自分をこの代表で取り戻したいと思う」

 その言葉は、自分自身に言い聞かせているようだった。

 失われつつあるゴールの感覚を取り戻すため、岡崎はイメージトレーニングに励んでいたという。元イタリア代表のストライカー、フィリッポ・インザーギのゴール集を何度も見返し、ゴールのイメージを頭の中にためこんだ。タイ戦の19分、久保裕也のクロスに頭を合わせた代表通算50ゴールは、まさに頭の中で膨らませていたイメージを具現化したものだった。

「(ゴールの)感覚が全然なかったんですけど、ゴール集とか見て、インザーギとか最近ずっと見返して、イメージだけでもって。ほんとに実際、ボールが当たる瞬間まであのゴールをイメージできたので、自分にとってはよかったと思うし、チームにとっても大きかったと思いますね。ああいうヘディングっていうのは最近なかったんで、自分のFWとしての感覚をもう一回蘇らせる意味でもよかったと思います」

 2009年1月のイエメン代表戦でCKの流れのなかから蹴り込んだ代表初ゴールから8年かけて届いた50ゴール。その上には、今なお現役を続ける三浦知良(55ゴール)と、不世出のストライカー、釜本邦茂氏(75ゴール)しかいない。

 もっとも、岡崎には大台に届いた感慨や実感がまるでないという。前述の初ゴールも、南アフリカ・ワールドカップ出場を決めたウズベキスタン戦でのゴールも、二度のワールドカップで決めた2ゴールも、自身のゴールのほとんどが、チームメイトのお膳立てによって成り立ってきたものだと理解しているからだ。
「なんで俺はこんなに下手なんだとか思いながらやってきたんですけど、周りに自分の動きを見てもらって、それを生かしてもらってゴールを取れてきたっていうのを毎回思い返している。今日もいいパスが入って、あのクロスで自分が生かされたと思っている。そのためには自分は何でもしなきゃいけない。だから、50点だからといって(特別な想いは)ないですね」

 岡崎にとって50ゴールは、通過点に過ぎない。むしろ「それよりも」と言って喜びを隠さなかったのが、90分フル出場できたことだった。

「代表でのフル出場なんてここ最近なかった気がする。何年ぶりとかなんじゃないかな。そういうのも個人的には良かったなって」

 フル出場するのは、15年9月のアフガニスタン代表戦以来のこと。「チームを助けられる選手になりたい」と公言する岡崎にとって、チームを楽にさせる追加点を奪ったことだけでなく、指揮官から最後までピッチに必要な選手と思われたことが嬉しかったのだ。

「自分の役割としてはサコがやっているプレーを参考にしたいと思ったし、今日も参考にしたプレーがけっこうできたんじゃないかなと思います。逃げずに戦うことで、逆にチームを助けられる。それが今日、分かった。まだまだですけど、この1トップというポジションを改めて、もっとやりたいなっていうか、ここで耐えて、代表で出て、ゴールを取りにいきたいなって。レスターとはまったく違う役割で、帰ればレスターのスタイルだし、代表に来たらゴールを求められるし……でも、ありがたいですよね、そんなに役割がいっぱいあるのは」

 レスターと日本代表で岡崎に課せられる多くの異なる役割は、成長のチャンスにほかならない。

 大迫にポジションを譲った昨年11月のサウジアラビア戦のあと、「久しぶりにこういう立場になって、燃え上がるものがある」と自身を奮い立たせた岡崎は、こんなことを言っていた。

「今はレスターでも、代表でももがいている。きっかけを掴めるのがいつになるか分からないですけど、そのきっかけを掴むのが自分は得意なので頑張ります」

 実際、清水エスパルスでも、シュトゥットガルトでも、マインツでも、レスターでも、順調に試合に出られてきたわけではない。いつだって打ちのめされ、どうしたら試合に出られるか、どうしたら成長できるかを考え、試行錯誤しながら這い上がってきた。成長するためには、逆境を味わうことが必要だということを、岡崎は知っている。

 8カ月の沈黙の末に得意のヘディングで決めた節目の50ゴール――。日本代表における逆境から抜け出すきっかけとして、これ以上ふさわしいものはない。

文=飯尾篤史

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