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【コラム】横一線となった日本代表の守護神争い…川島の復活劇がもたらした“相乗効果”

2017.03.27

今回の日本代表GKは川島(左)、林(中)、西川(右)が招集された [写真]=三浦彩乃

 難敵UAE(アラブ首長国連邦)代表のホームに乗り込む、2018 FIFA ワールドカップ ロシア アジア最終予選の大一番まで2週間あまりと迫っていた3月上旬。日本代表を率いるヴァイッド・ハリルホジッチ監督に心境を直撃する機会があった。

 約1時間半に渡って次々と熱い言葉が飛び出したなかで、2次予選から数えて13試合を消化していたアジアでの戦いにおいて、胸を張れることがあると指揮官は切り出した。


「流れの中で許した失点はひとつのみだ。世界を見渡してみても、日本のような代表チームはあまりないと思っている」

 シンガポール、カンボジア、アフガニスタン、シリアの各代表と戦った2次予選は8試合で無失点。UAE、タイ、イラク、オーストラリア、サウジアラビアの各代表と上位2位以内を争っている最終予選では5失点を喫しているが、4つがPKや直接フリーキックから生まれていた。

 試合を積み重ねるごとに熟成され、全幅の信頼を寄せていた守備陣は、ほぼ不動のメンバーで固定されてきた。特にゴールキーパーは西川周作(浦和レッズ)が実に11試合で、先発の座を射止めてきた。好調時は動かない、とされる「勝負の鉄則」を、しかし、指揮官はあえて破った。

川島の国際Aマッチの出場は昨年6月のブルガリア代表とのキリンカップ2016以来 [写真]=Getty Images

 UAE戦でゴールマウスに立ったのは川島永嗣(FCメス)だった。先発を告げられたのは、前日22日の公式練習後。国際Aマッチの出場は昨年6月3日のブルガリア代表とのキリンカップ2016以来で、公式戦に至っては2015年6月16日のシンガポールとのアジア2次予選初戦にまでさかのぼる。

「2次予選から最終予選まで、(西川)周作が守ってきてくれたからこそ今の結果がある。それだけ、周作は自分にとって常に大きな存在だった」

 3つ年下の西川が抱いたはずの悔しさ、無念さを川島は心に刻んで力に変えた。林彰洋(FC東京)とともにベンチで戦況を見守った西川は、あらん限りの声をピッチへ送り続けると誓いを立てた。

「代表とは常に一番いい選手が出る場所だと思っている。それ(先発)は監督が決めることですし、自分はしっかりと(現実を)受け止めながら、自分が出ないときの役割というものがあるので、それを自分なりに考えながらとにかくチームに貢献しようと」

 守備陣へのテコ入れを、指揮官は今月16日の代表メンバー発表の席で示唆していた。公式戦7試合を終えていた浦和がそのうち6試合で失点を許し、中には西川らしくない単純なキックミスが原因となったものもあった。

「トップコンディションに持っていくには、まだこれからだと感じている」

 西川に関してこう言及したハリルホジッチ監督は、試合中に左頬骨を骨折するアクシデントに見舞われ、今回の招集を見送らざるを得なかった東口順昭(ガンバ大阪)の不在を残念がった。

「悲しい出来事だ。彼は素晴らしいコンディションでプレーしていた。次の試合で先発できる状態だった」

 次の試合とは、つまりUAE戦のこと。昨年9月に直接FKとPKによる失点で逆転負けを喫した、因縁の相手へのリベンジマッチ。さらに敵地という状況も踏まえて、指揮官は何よりも経験を重視していた。

 30歳の西川も経験豊富だが、コンディションに不安を残す。ワールドカップを2度戦った川島はメスで第3キーパーに甘んじ、公式戦の出場は今年1月のカップ戦の一度だけ。リーグ戦ではリザーブとベンチ外を2試合ずつ繰り返し、後者の時はリザーブリーグで若手に混じって試合勘の維持に努めていた。

「チームではリーグ戦に出られない立場なので、毎日の練習の中でアピールするしかない。その意味では、むしろコンディションがどうこうと考えることもない。できることをするしかないので」

 モチベーションをしっかりと保ち、目標を繋ぎ止めてきた努力の軌跡は、UAE戦の前半20分にはっきりとした形になった。FWアリ・マブフートと1対1になった絶体絶命の場面で、川島はマブフートがシュートを放つ瞬間に一歩前へ踏み出し、低い姿勢のまま両足を大きく広げた。

 相手のシュートコースを狭め、自分の体のどこにでも当たる状況を瞬時に作り出す技術と経験。ボールが川島の左太ももに当たって難を逃れた場面に、西川は痺れる思いに駆られていた。

「本当に『ど』のつくアウェイの環境で落ち着いていて、パーフェクトに近いセーブでした。ゴール前の迫力、1対1における体の使い方、上手くコースを消す技術は(川島)永嗣さんにしかできない。何よりもあのメンタルの強さを、自分も見習っていかないと」

 最後尾から安心感と存在感を放ち、2‐0の快勝に大きく貢献した34歳の守護神も、林を含めた3人による切磋琢磨が一挙手一投足を支えてくれたと笑顔で振り返る。

UAE戦ではベンチで戦況を見守った林(左)と西川(右) [写真]=三浦彩乃

「誰もが試合に出たいと思っているし、実際、誰が出てもおかしくない。その中で出た人間が常にベストを尽くす。今回は自分がチャンスをもらうことができたけど、チャンスを掴みたいという一人ひとりの想いがお互いのレベルを上げて、日本人キーパーのレベルをも押し上げていくと思う」

 25日に埼玉県内で行われた帰国後の初練習で、西川は5本放たれたPKのうち4本を止めて雄叫びをあげた。「常に良い準備をする、というテーマがあるので」と静かな口調で、28日のタイ代表戦(埼玉スタジアム)以降の戦いへ捲土重来を期す。

 新天地FC東京で好プレーを見せる林。早期復帰を目指す東口。今回バックアップに選ばれたリオデジャネイロ五輪代表の中村航輔(柏レイソル)を含めて、試合でピッチに立てるキーパーは一人だけ。UAE戦の勝利は、横一線状態となった日本代表の守護神争いの幕開けをも告げた。

文=藤江直人

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