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【コラム】HSVで絶対的存在、日本代表では“結果不足”…酒井高徳が直面する正念場

2017.02.17

HSVと日本代表で活躍を誓う酒井高徳 [写真]=元川悦子

 今シーズンのブンデスリーガで残留争いを強いられているハンブルガーSV(HSV)。昨年12月末のウインターブレイク突入時(16節終了)は16位で、マルクス・ギズドル監督も1月以降に再起を賭けていた。だが、再開直後の1月21日のヴォルフスブルク戦、同28日のインゴルシュタット戦で連敗。キャプテンマークを巻く日本代表DF酒井高徳はインゴルシュタット戦で目の覚めるような豪快なミドルシュートを決めて一矢報いたが、直後の2月3日のレヴァークーゼン戦で出場停止を強いられることになった。

 キャプテン不在の戦いが不安視される中、チーム全体が奮起する。レヴァークーゼン戦は手堅い守備からギリシャ代表DFキリアコス・パパドプーロスの一発で勝利。これで勢いに乗ったHSVは、7日に行われたDFBポカールのケルン戦を2-0でモノにし、さらに11日にはリーグ戦2位・ライプツィヒを3-0で撃破。順位も残留圏の15位に上がり、16位ブレーメンとの差も3ポイントに広がるなど、降格危機脱出も見えてきた印象だ。

酒井高徳

後半戦からHSVのキャプテンを務めている [写真]=Getty Images

 しかし、酒井高徳は楽観ムードに警鐘を鳴らしていた。

「みんな残留争い脱出に近づいたと言いますけど、抜けたというのにはまだ早いのかなと。個人的にも、チームとしても、その状態が一番危ないんで。今までも残留争いをしてきたけど、こういう時が一番危ない。ドイツの場合、ホントにもうビックリするくらいすぐ(2部に)落ちる。降格圏から15ポイントとか、10ポイントとかもし離れていれば、話は別ですけど、ドイツの9ポイント差以内はホントにすぐ入れ替わっちゃう。だから、『もう安心』っていう気持ちになるのはちょっと早いかなとは思ってますけど」と改めて気を引き締めた。

 今シーズンの酒井はここまでリーグ戦1試合の出場停止を除き、全19試合に出場している。シュトゥットガルトから移籍した昨シーズンはドイツ人DFデニス・ディークマイアーとの定位置争いに苦しみ、ベンチの日々を強いられたが、シーズン中盤からレギュラーを奪取。尻上がりで調子を上げる形で今シーズンを迎えた。ところが、HSVは開幕11戦未勝利。信頼を寄せてくれたブルーノ・ラッパディア前監督が9月に更迭され、今のギズドル監督が立て直し役を担うことになり、現在に至っている。この新指揮官にキャプテンを託された酒井は、本職の右サイドバックでなくボランチでも起用されるケースが少なくなかった。2017年に入ってからは右サイドバックに戻っているものの、多彩な役割を託されることで彼自身、選手としての幅を確実に広げることができたようだ。

「ボランチをやったことで、視野の確保もできるようになったし、首を振る回数も増え、落ち着きも出てきたのかな。違うポジションやると気づくことは多いですね。自分が改めてサイドバックに入った時には『ボランチにはこう動いてほしい』とか『今はボランチがボールを受けたいタイミングじゃない』といったことが、直感的に分かるようになった。それは大きいですね。自分自身はボランチをやってても全然問題ないし、またやろうとも思える。試合に出るならポジションはあまり関係ないって思ってるんで、出られるところで一生懸命やろうとは思いますけどね」と本人も努めて前向きに言う。そのポジティブな考え方がギズドル督やチームメートから信頼されるゆえんなのだろう。

 この先のHSVは18日のフライブルク戦の後、25日に王者バイエルンに挑むことになる。3月に入ると、1日に行われるDFBポカール準々決勝のボルシアMG戦を挟んで、5日にヘルタ・ベルリン、12日にボルシアMG、18日にフランクフルトと上位陣との対戦が続く。ここからが1カ月間が一番の勝負どころと見られるだけに、酒井の言う通り、決して楽観は許されないのは確かだ。

 その先には日本代表も待っている。2018 FIFAワールドカップロシア アジア最終予選の後半戦スタートとなるUAE(3月23日=アルアイン)・タイ(27日=埼玉)の2連戦があり、昨年11月のサウジアラビア戦(埼玉)で出番なしに終わった彼自身にとっても正念場。右サイドを争う酒井宏樹(マルセイユ)はクラブでコンスタントに試合に出ているし、左サイドを争う長友佑都(インテル)は卓越した実績を誇る。その2人を上回るパフォーマンスを見せないと、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督からの信頼は勝ち取れないだろう。

酒井高徳

W杯アジア最終予選の前半戦はサウジ戦以外の4試合にフル出場した [写真]=Getty Images

「欲を言えば、代表全試合に出て活躍したいし、『日本を勝たせたい』って気持ちはつねにあります。だけど、肝心なところで出られないのにはそれなりの理由がある。もちろん悔しい気持ちはつねにあります。今までの最終予選を振り返ると、自分が出ている時には必ず毎試合に1回は大きいチャンスに絡んでいるんですよね。結構、大きいチャンスだと自分は思うんです。でも、その大きいチャンスが得点や勝利につながっていない。キヨ(清武弘嗣=セレッソ大阪)君だったり、蛍(山口=C大阪)だったり、大迫(勇也=ケルン)だったり、宏樹はチャンスを結果につなげているから、試合に出続けている。僕にはホントに『代表での結果』が足りないと思います」

「実際、(昨年9月の)UAE戦(埼玉)で負けているし、(同10月の)イラク戦(埼玉)も自分がマークしていた相手に失点しているから。だからこそ、僕には明確な結果が必要。それが今の自分に一番足りていない。それがしっかり出るまで長くかかるかもしれないけど、我慢強くやり続けるしかない。結果がついてくれば自分はスタメンで出続けられるって自信は心の中では持ってます」と彼は改めて語気を強めた。

 HSVで絶対的存在になった今、日本代表でも看板と言える選手になりたいと思うのは自然なこと。それだけの卓越したキャリアを酒井高徳はドイツで積み重ねている。降格争いのプレッシャーを感じながら戦い続けていることは、必ずや日本代表での最終予選にもプラスに働くはず。インゴルシュタット戦で決めた豪快なミドル弾を含め、ドイツで培った経験値を還元してくれれば、日本はもっと強くなる。若きリーダー候補にはこれまで以上の大きな影響力を示してほしいものだ。

文=元川悦子

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