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【コラム】ハリルを救ったホタルの閃光 イラク戦前に指揮官が打っていた“布石”とは

2016.10.07

山口蛍(中央)のゴールがハリルホジッチ監督を救う形となった [写真]=瀬藤尚美

「美しい勝利ではなかったが、勇気でもぎ取った勝利だ」

 試合終了間際に山口蛍(セレッソ大阪)の劇的な決勝弾で薄氷の勝利を収めたイラク戦。日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は最後の最後まで諦めなかった選手たちのメンタルを称えた。

 ヨーロッパ組の合流が遅れたことで、9月のUAE(アラブ首長国連邦)戦に続いて今回もフィジカルコンディションに課題を抱えていた日本代表。それを想定していた指揮官は、イラク戦の前日会見で「(海外組は)トップパフォーマンスにはならないと思う」と述べ、選手たちには「とにかくメンタルで違いを見せつけろ。本当の強さは困難なところで発揮するものだ」と話したという。

 ハリルホジッチ監督の予想どおり、試合は厳しい展開となった。「相手にはデュエルがあった」と振り返ったように、序盤から激しく力強いプレーで迫りくるイラクに決定機を作られてしまう。26分に右サイドを鮮やかに崩して原口元気(ヘルタ・ベルリン)のゴールで先制したが、60分にセットプレーから失点。監督は投入準備していた山口に指示をしていたため「ゴールシーンを見ていなかった」というが、UAE戦の2失点(直接FKとPK)を含めて最終予選で許したゴールはすべてセットプレーから。これには「しっかり確認しなければならない」と厳しい表情を見せた。

 1-1のスコアで迎えた後半のアディショナルタイムは6分。ホームで2戦続けて勝利を逃すことが許されない中、チームはセンターバックの吉田麻也(サウサンプトン)を前線に上げるパワープレーを選択する。そして90+5分、前線の左サイドで必死にキープした吉田が倒されてFKを得ると、埼玉スタジアムをこの日一番の声援と拍手が包んだ。そして清武のキックがクリアされたところで山口が右足を一閃。力強く放たれたシュートがゴールネットを揺らすと、殊勲のヒーローを囲む日本ベンチ前は歓喜で溢れ返った。

 この劇的な一発には指揮官の打った布石があった。「中盤の選手に得点率を高めてほしい」と考えていたハリルホジッチ監督は、試合前に山口と長谷部誠(フランクフルト)の両選手に「ゴールを決めたらシャンパンをごちそうする」と奮起を促していた。そして期待に応える決勝点。試合後には山口に対してだけでなく、最後の最後で勝ち点3を手にした選手たちも「チームは2杯ほどシャンパンを飲める価値がある」と評価した。そして「今日はチームの強い気持ちを感じ、ずっと勝つと信じていた。ムダなファウルを与えてナイーブさを感じさせる場面もあったが、選手たちが初めて叫んでいる姿を見た。強豪国がいつも美しく勝利するわけではない。我々がこれまでこのような展開で勝つことはなかった。勇気とメンタルがもたらした勝利。選手たちは本当によくやった。これがワールドカップだ。このような強い気持ちがチームを作っていくんだ」と興奮した口調でまくし立てた。

 山口のゴールが決まる直前、ゴール裏の応援に合わせてスタジアム中から大きな拍手が鳴り響き、ものすごい雰囲気になっていた。ハリルホジッチ監督も「最後は本当にサポーターの声援が後押しになった。チームは苦痛を感じ、サポーターの皆さんも同じ気持ちを味わったと思う。でも、国民の皆さんが最後の最後に勇気を与えてくれて、それが結果につながった。重ねてありがとうと言いたい」とホームの大観衆に何度もお礼を述べた。そして記者会見場で取材するメディアに対しても「ここにいる皆さんにもありがとうと言いたい」と感謝の言葉を残し、立ち上がって拍手しながら上機嫌でロッカールームへと戻っていった。

文=青山知雄

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