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臨戦態勢で臨む日本代表、アジア最終予選初戦 問われる指揮官のチームマネジメント

2016.08.29

日本代表のハリルホジッチ監督 [写真]=Getty Images

 指揮官の緊張感が伝わってくる。9月1日、6日のロシア・ワールドカップ最終予選に挑む日本代表のメンバーである。

 24人のメンバー発表にあたって、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「アジアは伸びている。本当に厳しい戦いが始まる。誰も勝手に勝利をくれるわけではない」と、熱を帯びた口調で話した。楽観的なムードをとにかく一掃したい、という思いがうかがえる。

 指揮官の頭を占めるのは、昨年6月18日のアジア一次予選開幕戦である。シンガポールをホームに迎えた日本は、23本のシュートを浴びせながらもゴールを奪えず、スコアレスドローに終わった。

「シンガポール戦を絶対に忘れてはならない」と、ハリルホジッチ監督は言う。「最終予選の1試合目には、(シンガポールより)強いUAEが待っている。そして、アジアカップで我々はUAEに負けている。リベンジよりもさらに強い気持ちと勇気を持て、勝利に向かっていかなければならない」と、語気を強めて続けた。

 選手の顔ぶれに、これまでと大きな変化はない。そのなかで、二人の選考に指揮官の思いが浮かび上がる。一人目は太田宏介である。「最近の2試合には出ていない」と知りながらも、「今回は左利きの選手が必要」という理由で復帰させた。なぜ、ハリルホジッチ監督はレフティーの太田を求めたのか。

 日本のホームにやってくるUAEが、攻撃的なサッカーを選ぶとは考えにくい。アウェイのタイ戦でも、日本のテーマは相手の守備をこじ開けることになる。リスタートの有効活用は試合を動かくポイントのひとつで、本田圭佑、柏木陽介とは違うタイプのキッカーとして、太田がボールをセットする機会があるかもしれない。

 もうひとりは山口蛍だ。長谷部誠、柏木陽介に次ぐ3人目のボランチに定着しつつあった遠藤航ではなく、ハリルホジッチ監督はなぜ山口を選んだのか。

「彼のようにしっかりとボールを奪える選手はいない」という言葉どおり、カウンターへのケアをより厳重にするために、山口のボール奪取力を選んだのだろう。ボール奪取力なら遠藤も劣らないし、攻撃にスイッチを入れるタテパスはリオ五輪代表キャプテンが上回るものの、経験と実績がより重視されたと考えられる。

 24人のリストには入っていないが、興味深い選手がもうひとりいる。香川真司、清武弘嗣に次ぐトップ下の選手として、「川崎フロンターレでプレーする35歳」をハリルホジッチ監督はバックアップに指名した。「少し年齢が上」という選手は、もちろん中村憲剛である。Jリーグでのプレーを見る限り、代表に相応しい。いまだけでなく、以前からである。

 しかし、ハリルホジッチ監督はこのベテランに興味を示してこなかった。ロシアW杯開催時の年齢を考慮して、彼や大久保嘉人、遠藤保仁らは選考対象から外していた。

 4-2-3-1のシステムで香川と清武が使えなくても、本田圭佑を起用すればいい。宇佐美貴史だってできるだろう。それでも中村を「バックアップ」として臨戦態勢に置くのは、海外組のコンディションが不確定要素を含んでいるからであり、W杯最終予選でのプレー経験を持つ35歳の存在感と安定感を担保しておきたかったのだろう。

 二重三重のセーフティネットを張り巡らすのは、「最終予選ではリスクは取れない」との判断からだ。それ自体は決して悪いことはない。ただ、少しばかりエキセントリックな指揮官の緊張感が、選手たちを縛りつけるようなことがあってはならない。海外組のコンディションも含めた指揮官のチームマネジメントが、最終予選のスタートで問われることになる。

文=戸塚啓

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