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コロンビア戦で手倉森ジャパンが見せた「反発心」…指揮官のメンタル回復策と想定外だった二つのミス

2016.08.08

コロンビア戦に臨んだリオ五輪日本代表。2点差を追い付いてドローに持ち込んだ [写真]=千葉格

 リオデジャネイロ・オリンピックではスターティングラインナップがキックオフのおよそ30分前に発表される。だが、それよりも早く選手たちはピッチに姿を現し、スタメンとサブに分かれてウォーミングアップを始めるため、その光景から公式発表より前にその日のスタメンが分かる。

 コロンビア戦前に双眼鏡でスタメンと思われるフィールドプレーヤー10人の姿を確認していくと……大島僚太(川崎フロンターレ)と南野拓実(ザルツブルク)の姿がない――。

 ナイジェリアとのグループステージ第1節で好パフォーマンスを見せた攻撃のキーマンが二人ともスタメンから外れ、ミスを連発したDF陣にメスが入れられることはなかった。

「5失点したからディフェンスラインにテコ入れして、4点を取れたから中盤は変えなくていいかな、と最初は考えたんだ」

 試合後にそう明かした手倉森誠監督は、「でも」と言って続けた。

「5失点した責任を押し付けるような交代はしたくない。自信を回復させたいなと。ただ、前から取りに行きたいと思った時に、90分出場した選手は後回しにする(途中出場させる)プランを今日は選んだ。GKだけは変えたけど、クシ(櫛引政敏/鹿島アントラーズ)にも『自信を回復させるチャンスを絶対に与える』という話をした」

 そうした指揮官のマネジメントに対して右サイドバックの室屋成(FC東京)が言う。

「正直、次(コロンビア戦)は出られないかなって思ったりもしたんですけど、それでもテグさんは自分を使ってくれた。ここでまた変なパフォーマンスを見せたら、テグさんを失望させてしまうと思ったし、使ってくれたテグさんに感謝しながら、ここで絶対に信頼を取り戻そうと思ってプレーしました」

 おそらくそれは、ディフェンスラインの選手たち全員に共通する思いだったことだろう。テオフィロ・グティエレスやドルラン・パボンら強力なアタッカーを擁するコロンビア相手に、日本は終始強気な高いライン設定で応戦していく。

 前線に入った興梠慎三(浦和レッズ)と浅野拓磨(アーセナル)もコロンビアのディフェンスラインに積極的にプレッシャーを掛けていく。指揮官が前日会見で宣言していた「攻撃的な守備」、「攻撃的な精神」は前半、確かに見て取れた。

 この「攻撃的な守備」と「攻撃的な精神」を分かりやすい形で具現化していたのが、ボランチに入った19歳の井手口陽介(ガンバ大阪)だった。2015年7月のコスタリカ戦以来、約1年ぶりに遠藤航(浦和)とボランチを組んだチーム最年少は、南米の選手を思わせるほどガツガツと激しく敵のボールホルダーにアプローチし、その勢いのまま攻撃に参加する。結果、日本の思惑どおりの展開でスコアレスのままハーフタイムを迎えた。

 ところが後半に入った60分、その井手口のミスで先制されてしまう。「後ろにトラップするかなと思って先読みして行ったら、そのまま前を向かれてしまって。僕の判断ミスです」と井手口が言うように、マークしていたグティエレスにクルリと入れ替わられ、ゴール前への進入を許してしまったのだ。

 すかさず、手倉森監督が動く。呼び寄せたのは、大島と南野だ。

「(監督から)『守備から入って後半にいく』という話を事前にされていた」と大島が言えば、「点を取って来いと言って送り出された」と南野は言う。反撃の準備は整ったはずだった。

 だが、痛恨のミスはその時に起こった。

「本当に覚えていないくらいの感じで、クリアしようと思った時には足に当たって……」

 相手のシュートをGK中村航輔(柏レイソル)が防いだリバウンドが藤春廣輝(G大阪)の足に当たってゴールラインを割ってしまう。攻撃のスイッチを入れた瞬間に喫した痛恨の2失点目――。

 だが、まさにそこからアジア最終予選でも見せた「反発力」が発揮された。

 1分後に大島→南野→浅野とつないで鮮やかなゴールで1点を返すと、「GKの位置を見ていて狙った。打った瞬間に入ると思った」と言う中島が右足で豪快なミドルシュートを叩き込む。その後も大島を中心に軽快にパスをつないでコロンビアを翻弄する日本の攻撃が、スタンドを埋めたブラジル人の観客を魅了した。日本人サポーターの「ニッポン!」コールに合わせてブラジル人の観客も「ジャパン!」コールを連呼。その大合唱が日本人サポーターより圧倒的に多いコロンビアサポーターの「コ・ロン・ビア!」コールをかき消していく。

 93分、南野のフィードに抜け出した浅野が後方からのボールを巧みな胸トラップからシュートに持ち込んが、これはGKがキャッチ。その直後に引き分けを確定させるホイッスルが吹かれた。亀川諒史(アビスパ福岡)を右サイドバックに送り込んでサイド攻撃を強めたが、最後のひと押しができなかった。

「モチベーションビデオや『日本の魂を示そう』という俺の言葉もあって、初戦は大きなものを背負わせすぎた。だからこの試合では、『仲間を信じて助け合おう』、『まずこのチームの力を示そう』と。それができて初めて日本の力を示せるんだと」

 こうした指揮官のアプローチによって、わずか2日間でメンタル面を回復させて臨んだコロンビア戦。前半は「攻撃的な守備」で応戦し、互角以上の内容でゲームを折り返すことに成功した。

 そして後半、大島と南野のダブル投入で「2点取るプランはあった」という指揮官の狙いどおりに流れを一気に手繰り寄せると、1点を返したあとはコロンビアに決定機を一度も許さずに2点目を奪取。追い込まれてからの「反発心」をしっかりと発揮してみせた。90分を通じて狙いどおりの戦いはできた。あの二つのミスだけを除いて――。

 試合を追うごとに成長していったアジア最終予選と同じように、このオリンピックでも2試合を終え、大きな成長の跡を見せている。その成長の物語が、あと1試合で終わってしまうのはもったいない。現在、日本はグループ4位。決勝トーナメント進出の命運は、ナイジェリア対コロンビアの結果に委ねられている。この試合でコロンビアが引き分け以下に終わらなければ、その先はない。この状況にも「世界でギリギリの修羅場を経験していないチームに、いい修羅場が来ている。他力本願だけど、可能性を残したことで何かしでかしそうな状況になった」と指揮官は微笑む。コロンビア戦のような内容でまずはスウェーデンを叩き、吉報を待つしかない。

文=飯尾篤史

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