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【五輪インタビュー】ロンドンの地で輝いた走り…永井謙佑が体感した世界とは

2016.08.02

 日本屈指の快足ストライカーが世界を驚かせた。

 2012年のロンドン・オリンピック。FW永井謙佑は自慢のスピードで優勝候補の一つであったスペイン代表の最終ラインを混乱に陥れ、モロッコ戦では追走するDFとのスプリント勝負を制し、観衆がスタンディングオベーションで称えるスーパーゴールを放った。44年ぶりのベスト4進出を果たした関塚ジャパンの快進撃を記憶している人は多いだろう。

 悲願のメダルまであと1勝――。最後は左足にケガを負いながらも、チームの最前線で走り続けた。アジアのライバル・韓国の前に散ったあの日から4年が経過した今、永井謙佑は何を思うのか。

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――あれから4年が経ちました。当時のことは覚えていますか?

永井謙佑(以下、永井) うっすらと覚えていますよ。

――初戦のスペイン戦では世界を驚かせる大金星を挙げました。下馬評を覆そうと意気込んで試合に臨んだのでは?

永井 スペインは優勝候補の最右翼でしたし、ユーロ2012の優勝メンバーも来ていたので、僕たちのモチベーションは高かったです。周囲の「負けて当たり前」という評価に凹むのではなく、逆に「やってやろうぜ」くらいの気持ちでした。結果的にその開き直りが良かったんだと思います。

――当時のスペイン代表は本当に豪華なメンバーを揃えていました。実際に“世界レベル”を肌で味わった印象を教えてください。

永井 パス回しが本当にうまい。今までに体感したことのないレベルでしたね。最終ラインこそ若干ボール回しにもたついている印象はありましたけど、前線にボールが入ったらポン、ポン、ポンとつながれて。もうリズムが違いましたね。退場者(41分にDFイニーゴ・マルティネスがレッドカードを受ける)が出なかったら、完全にスペインのペースになっていたと思います。

――特に印象に残っている選手はいますか?

永井 イスコや(フアン)マタは本当にうまかったです。(ダビド)デ・ヘアもレベルが高かったですね。

――I・マルティネスの退場を誘ったシーンをはじめ、永井選手の前線からのプレスがとてもはまっていました。そこは狙い通りだったのですか?

永井 そうですね。僕が行けばキヨ(清武弘嗣)や(大津)祐樹、(東)慶悟が連動してプレスを掛けられていましたし、そこを剥がされたとしても、(山口)蛍やタカ(扇原貴宏)がいた。きれいにはまっていたと思います。攻撃面では、相手の守備が不安定だったので、僕は(味方が)トラップした瞬間に走り出すことを意識していました。

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動き出しの早さでDF陣を圧倒。規格外のスピードを武器に、前に出てきた相手の裏に生じたスペースを狙い続けた [写真]=Getty Images

――アジア予選では守備的な相手に対して、永井選手の特長であるスピードを生かせないこともありましたが、本大会では1トップの永井選手を走らせる“戦術永井”が功を奏しました。戦術面の変更について、大会前に関塚隆監督から具体的な指示はありましたか?

永井 特に監督と一対一で話したことはなかったです。ただ、実はイギリスに渡ってから、予定されていた親善試合の前に選手だけで一度ミーティングをしました。そこから(吉田)麻也を含めた3人くらいで監督のところに行って、守備面を中心に話し合いました。それまでは相手にボールを蹴らせないように縦を切っていたんですけど、中を切ってコースを限定させるというような細かい部分を詰めたんです。それを親善試合で実践したらうまくフィットしたので、みんなの共通理解も高まりました。いい流れでスペイン戦に入ることができましたね。

――グループリーグ第2節のモロッコ戦は均衡した試合になりました。

永井 モロッコはめっちゃ強かったです(笑)。守備が堅くて、終盤はすごく攻め込まれました。最後は麻也や(鈴木)大輔、ごんちゃん(権田修一)が体を張って止めてくれたのを覚えています。

――84分に永井選手がループシュートを決めて、会場ではスタンディングオベーションが起きていました。

永井 初戦で点を取れなかったので、僕の中では「やっと入った」という感じでした。クリアボールをキヨが持った瞬間に、「来るかな」と思って(相手DFの)背後に抜けました。

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ゴールが遠い日本は84分、永井の一発で嫌なムードを断ち切った [写真]=Getty Images

――自身のゴールで決勝トーナメント進出を決めたわけですが、そのときの心境は?

永井 うれしかったというより、ホッとしましたね。自分の結果が出たことへの安堵感がありました。

――3戦目のホンジュラス戦は0-0で引き分けてグループ1位通過を決めました。

永井 無敗、無失点できていたので自信を持っていましたね。体の疲れはありましたけど、全員で戦って勝ち点をしっかり取ることができました。

――無敗での突破を決めて、チームの雰囲気も良かったのでは?

永井 1位突破だったのでブラジルとの対戦を避けることができたんですけど、油断をせずに次の試合に切り替えようと、浮かれている様子はなかったですね。

――本当に試合間隔が短いですよね。8月1日にホンジュラスと戦って、同4日に準々決勝のエジプト戦を迎えます。

永井 中2日の日程なのに、移動があるんですよね(苦笑)。長時間動かないで座っていると十分な回復もできない。過密日程と長距離の移動は本当につらかったです。

――そのエジプト戦では14分に先制点を決めました。

永井 あのシーンですよね(苦笑)。キヨが前を向いたので「来るかな」と思って、ちょうどGKとDFの間でボールを受けたら……。

――あそこで完全に痛めたんですか?

永井 はい。ももかん(大腿部の打撲傷)を受けてしまって、交代せざるを得ませんでした。

――チームは終盤に2点を追加し、4試合連続無失点での準決勝進出を決めました。

永井 相手に退場者(41分にDFサード・サミルがレッドカードを受ける)が出たのは大きかったと思います。気持ち的にも楽になれた。戦術もチームに浸透してきていたので、シンプルに点を加えることができました。逆に引いていたらやられたかもしれないけど、継続的に連動したプレーを見せていました。チームの完成度も増して、エジプト戦のときが一番はまっていたと思います。

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――そして準決勝のメキシコ戦。大会前の親善試合では2-1で勝利していた相手でした。

永井 本大会直前に対戦していたので、プレスをかけにくいと感じるくらい深みを取られてしまいました。序盤こそプレスがはまっていたんですけどね……。祐樹のスーパーシュートで先制したところまでは「いける」という感触がありました。でも、徐々に前線からの守備がはまらなくなってきて、相手の8番(マルコ・ファビアン)に同点弾を決められてしまった。あの選手はすごくうまかったですね。9番(オリベ・ペラルタ)のシュートも衝撃的なうまさでした。スペインの個人能力も高かったですけど、メキシコもめちゃくちゃうまかったです。

――メキシコに1-3で敗れ、3位決定戦に回りました。永井選手は、U-18日本代表のときにワールドユース予選で韓国に0-3で敗れています。アジアのライバルを相手に借りを返したいという思いもあったのでは?

永井 そうですね。すごく意気込んでいました。韓国は最終ラインから前線の大きい選手に向けてロングボールを多用してきて、押し込まれるシーンが多かったですね。タックルも激しかったし、完全にスペースを消されていました。

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永井は71分までプレー。韓国に裏のスペースを消され、スピードを生かすような場面を作れなかった [写真]=Getty Images

――笛が鳴ったときの心境は(0-2で敗戦)?

永井 いやあ、「また負けたのか」という感じでしたね。本当に悔しかった……。

――過密日程で精神的にも、身体的にも限界に近かったのでは?

永井 やっぱり体力的にどんどんきつくなりますけど、そこは相手も一緒ですからね。でも、約2週間で6試合をこなしたのは初めての経験でした。

――大会を通して2ゴールを決めましたが、ご自身のパフォーマンスについてはいかがでしょう。

永井 (エジプト戦で)ももかんを受けて、明らかにパフォーマンスは落ちました。チームに本当に申し訳なかったと思っています。負傷してからの2試合は全然納得できなかったですね。

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――話を変えて、オリンピック全体についても伺いたいと思います。サッカー以外の競技も各会場で行われますが、通常の遠征とは違いを感じましたか?

永井 僕らはイギリス各地で試合があったので、ロンドンで行われたメキシコ戦の前だけ選手村に入りました。色々な競技の選手がいたので、そこで「サッカーだけじゃないんだな」と実感しましたね。

――他競技の選手との交流は?

永井 本当に遠目から見るくらいで、話はしなかったですね(笑)。

――オリンピック期間中の“今だから言える”エピソードがあれば教えてください。

永井 日本でもニュースになっていたと思いますが、スプリンクラーが作動してしまったことですかね。スペイン戦の前にホテルのスプリンクラーが誤作動して、廊下も部屋も水浸しでびしょびしょになりました。僕と麻也の部屋は無事だったんですけど(笑)。

――そのニュースは覚えています(笑)。今でも当時のメンバーと交流はありますか?

永井 会えば話しますし、今でも仲はいいです。特別にオリンピックの話をすることはないですよ。(当時の資料を手に)これを見ると、みんな若いですね。麻也は老けているけど。うん、麻也は老けている(笑)。

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――チームにとって、大会直前に合流するオーバーエイジはどのような存在でしたか?

永井 麻也もトクさん(徳永悠平)もオリンピック経験者だったので、すごく助かりました。一緒にチームを盛り上げてくれましたよ。まあ、麻也は同級生なのでオーバーエイジという感覚がなかったかな。

――では、改めて永井選手がオリンピックという舞台で得たものは何でしょう。

永井 世界での経験を積めたことです。さまざまな国の異なるサッカースタイルや強靭なフィジカルを体感することができました。自分たちの年代で戦う最後の大会で、チーム一丸となって上を目指すことができたのは良かったです。大きな大会で結果を残すことはなかなか難しいこと。下馬評も最悪な状態でロンドンに行って、結果的にメダルは取れなかったですけど、あの短期間で6連戦をこなすこともオリンピックに出ないとできない経験です。日本ではなかなか味わうことのできないイギリスのスタジアムの雰囲気を肌で感じることもできて、すごく楽しかったです。

――オリンピックを経験する前後で変わった部分はありますか?

永井 戦いの中で一番感じたのはリーチの差です。日本人と足の長さが違うので、シュートを打とうとしても相手の足が伸びてくるんですよ。だから、相手の股やコースを狙って打つことを練習しないといけないと思いました。

――ご自身の経験を踏まえて、手倉森ジャパンにアドバイスを送るとしたら?

永井 とにかく初戦が一番大事!

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――前回大会は、初戦で勝利して勢いに乗りましたからね。

永井 スペインを撃破してチーム自体にも勢いが出たし、僕自身もいける感じがしました。ひとまず先のことは何も考えずに、一戦目に全パワーを注ぐくらいの気持ちでいいと思いますよ。僕たちはあと一歩のところでメダルに手が届かなかったので、ぜひ手倉森ジャパンはメダルを日本に持って帰ってきてください!

インタビュー=武藤仁史/写真=黒川真衣、Getty Images

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