ボスニアに敗れて優勝を逃した日本代表。欧州勢相手に課題が浮き彫りとなった [写真]=三浦彩乃
キリンカップサッカー2016で優勝したボスニア・ヘルツェゴヴィナは、率直にいいチームだった。FWエディン・ジェコもMFミラレム・ピアニッチ(ともにローマ)もいないB代表のようなメンバーだったが、その分だけ、モチベーションは高かったのだろう。
4分間のアディショナルタイムをしのいで2-1の勝利を掴むと、東欧からの来訪者たちは歓喜を爆発させた。表彰式を待たずに、センターサークルで輪を作った。何となくやり過ごそうといったメンタルのチームなら、優勝したところでもっとサバサバとしていたはずである。
ひるがえって、日本はどうだったか。
前半は悪くなかった。FW宇佐美貴史(ガンバ大阪)のキレ味鋭いドリブルと、MF清武弘嗣(ハノーファー)のゴールへの意欲が結びついた先制弾は、市立吹田サッカースタジアムを沸かせるのに十分な一撃だった。
有り得なかったのは失点である。1-0とした直後、1本の縦パスから圧倒的な高さを見せつけられ、GK西川周作(浦和レッズ)が一度はセーブしたものの押し込まれた。集中力の欠如を問われても、反論の余地はない。
66分に許した2点目も、ひどくあっけないものだった。途中出場した選手のファーストプレーがアシストになってしまったのである。こちらも、警戒のバロメーターが下がっていたとしか思えない。
3日前の準決勝・ブルガリア戦で7-2と大勝した日本だが、豊田スタジアムがゴールラッシュに沸いたこの試合は、今大会で最もレベルの低いゲームだった。ボスニア・ヘルツェゴヴィナとデンマークの準決勝はPK戦までもつれており、3位決定戦にまわったデンマークはブルガリアを4-0で一蹴しているからだ。
成果と課題を整理しよう。
成果は…見つけにくい。
2試合連続でMF長谷部誠(フランクフルト)のパートナーを務めたMF柏木陽介(浦和レッズ)は、ブルガリア戦で悪くないプレーを見せたものの、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ戦では存在感を示せなかった。対戦相手の実力に彼のパフォーマンスを照らし合わると、レギュラー定着とは言えない。
ブルガリア戦で代表初ゴールをPKで決めたFW浅野拓磨(サンフレッチェ広島)は、吹田スタジアムでの国家斉唱をピッチで聞いた。しかし、初スタメンの好機は空回りに終わった。彼が決定機を活かしていれば、少なくとも2-2の同点に持ち込むことはできていた。爆発的なスピードは新たなオプションとなる可能性を秘めるが、評価は持ち越しとなった。
ニューカマーのMF小林祐希(ジュビロ磐田)は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ戦でデビューを飾った。15分強の出場時間でインパクトを残すには至らなかった。ただ、代表1試合目でいきなり結果を、しかもリードされた状況で残すのは、やはりハードルが高い。戦力となりうるかどうかを見極めるには、もう少し時間を必要とする。
成果をあげるならば、現時点での課題がはっきりしたことだ。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の指揮下で初めて欧州勢と対戦した2試合は、アジア勢相手では表面化しない課題を浮き彫りにした。
キリンカップはテストマッチだったため、ハリルホジッチ監督はボスニア・ヘルツェゴヴィナ戦で5人の控え選手をピッチへ送り出すことができた。フレッシュな選手の登場は、疲労の増していく時間帯のチームを支えた。
これが公式戦だったら? 3人までしか交代できない。屈強なフィジカルも相手と何度も競り合いを強いられたチームは、終盤にもっと崩れていたかもしれない。1-2というスコアは、テストマッチだからこそのものでもある。
何よりも気になるのは攻撃だ。ボスニア・ヘルツェゴヴィナ戦には、FW本田圭佑(ミラン)とMF香川真司(ドルトムント)が出場しなかった。しかし、彼らが出場していても、チームの根本的な課題は明らかになっただろう。
キリンカップの日本は、日本らしいサッカーを展開した。アルベルト・ザッケローニ監督が指揮を執った当時なら、「自分たちのサッカー」と選手たちが呼んでいたものである。それが悪いなどと言うつもりはない。実際にゴールシーン以外にも、日本人選手の長所が発揮されたシーンがあった。
ただ、「自分たちのサッカー」だけでは限界があることを、日本は2014年のブラジル・ワールドカップで突きつけられた。自分たちの強みを最大限に活かすためにも、相手の目先を変える必要性を認識しなければならない。ハリルホジッチ監督が「縦に速いサッカー」を持ち込んだのも、世界のスタンダードを植え付けると同時に、日本サッカーの強みを引き立たせる手段を増やすためだったはずである。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ戦で、縦に速い攻撃はどれぐらいあっただろう。チーム結成当初のコンセプトに、揺らぎを感じたキリンカップである。
文=戸塚啓
By 戸塚啓