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なぜパスを選択したのか…涙の浅野、悔しさを糧にさらなる成長へ

2016.06.08

キリンカップ決勝のボスニア戦後、目に涙を浮かべ悔しさをこらえる姿があった [写真]=新井賢一

 誰よりも責任を感じていた。試合後のピッチにただ一人、人目をはばからずに悔し涙をこぼすFW浅野拓磨サンフレッチェ広島)の姿があった。「最後は絶対に自分が決める」。ストライカーとしてのプライドを胸に代表初先発のピッチに立ったが、決定的なラストチャンスで選択したのはシュートではなく“パス”だった。

「やっぱり消極的な部分が出てしまった。自信を持って、シュートで終わりたかった」

 7日に行われたキリンカップ決勝のボスニア・ヘルツェゴヴィナ戦後、浅野は「後悔している」と唇を噛んだ。

 1点のビハインドを負った日本代表は、後半アディショナルタイムに同点のチャンスを迎えた。ここでMF清武弘嗣(ハノーファー)が出したパスに浅野がペナルティエリア内右へフリーで抜け出す。誰もがシュートを放つと思った瞬間、浅野は中央へと折り返し、結果としてゴールネットを揺らすことにはつながらなかった。

 自信がなかったのか、それともより確実性を求めたのか――。

 脳裏によぎったのは86分の場面だった。MF小林祐希(ジュビロ磐田)から浮き球のパスを受けた浅野は、右足でゴールを狙ったが、相手DFにブロックされてしまう。ゴール前に目を向けると、FW金崎夢生(鹿島アントラーズ)が走り込んでいた。「その場面が少し頭に残っていたので、より確実なほうを選んでしまった」。試合終了のホイッスルが鳴ると同時に、浅野は両手で目頭を覆った。

 自分に対する憤りも感じていた。「あの経験が生かされていない」と浅野が口にしたのは、今年1月のリオデジャネイロ・オリンピック アジア最終予選の準々決勝イラン戦のことだ。延長後半10分、右サイドをフリーで抜け出してシュートチャンスを迎えたものの、最終的に選んだのはパス。この時も中央へ折り返したボールは味方に渡ることはなかった。「あの時も横パスを選択して、ゴールまで結びつかなかった。全く同じミスをしている」と、4カ月半前と同じ過ちを繰り返した自分を責めた。

 浅野にとっては、「悔しい」の一言に尽きる試合だっただろう。だが、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督にインパクトを与えたのは間違いない。初戦のブルガリア戦では、指揮官が反対する中で自分が獲得したPKを断固として譲らず、A代表初ゴールを奪った。ボスニア戦では持ち前のスピードを生かしてディフェンスラインの裏を突く動きを繰り返し、ハーフタイムには「浅野がいい動きをしているから、裏を狙え」という指示が出たほどだ。

 周囲との連係も少しずつ深まってきた。右サイドで縦関係を築いたDF酒井高徳(ハンブルガーSV)は、「『PKを蹴った勢いで打て!』って思ったんですけど、後ろにパスを出したので。そうやって学んでいくものだと思うし、まずはそこで彼にパスの選択肢もあったところを褒めたい。しっかり中が見えていたのはポジティブなこと」と若武者の一瞬の判断に理解を示した。

 GK西川周作は涙を流すストライカーに「本当にいいプレーをした」と声を掛けた。「浅野は『ホント、すみません……』ってみんなに言っていましたけど、これが彼にとってのいい経験になって、チームとしても最終予選で生かせられればいい。今日の後悔は力になる」。号泣する浅野に、多くのチームメイトが次々と声を掛けに行く姿には、今後への期待が感じられた。

 さまざまな経験を積んだキリンカップ。反省点もあったが、決して自信を失ったわけではない。「90分間を通して納得のいくプレーをするために、もっともっとやらないといけないと思った一方で、『やれるんだ』というある感覚はつかめた」と話す浅野の視線は、すでに先を見据えている。

 悔しさはゴールへの執念を強くする。「点を取れなくて何度も悔しい思いをした」というFW岡崎慎司(レスター)は、まさに悔しさをバネにはい上がってきたストライカー。代表歴代3位となる通算49ゴールがそれを証明している。決定機でシュートを打たずに後悔するのも一つの経験。リオ五輪の主力としても期待される21歳に失うものはない。8月のブラジルで輝くために、そして9月から始まるアジア最終予選のピッチに立つためには、今日の涙を大きな成長の糧にするしかない。二度あることが三度あっては意味がない。“三度目の正直”で結果を出すべく、浅野拓磨が強い覚悟を胸に未来へ向かって走り続ける。

文=高尾太恵子

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