ブルガリア戦から一夜明けた4日にトレーニングを行った清武弘嗣 [写真]=兼子愼一郎
7-2という予想以上の圧勝に沸いたキリンカップサッカー2016初戦・ブルガリア代表戦(豊田)から一夜明けた4日午前、日本代表が豊田スタジアムでトレーニング実施。練習開始前の写真撮影には左ひざ裏負傷の本田圭佑(ミラン)と前日に右脇腹を痛めた香川真司(ドルトムント)の2人が揃ったが、香川は大事を取って早退してしまった。本田もランニングにすら加わらずトレーナーとリハビリに専念しており、7日のボスニア・ヘルツェゴヴィナ代表との決勝戦(吹田)は両エース不在で戦わざるを得なくなりそうだ。
そこでクローズアップされるのが、ブルガリア戦の前半から後半にかけて、トップ下で攻めのタクトを振るった清武弘嗣(ハノーファー)。「まだメンバーがどうなるか分かんないですし、どうなんですかね」と本人は慎重な物言いを崩さなかったが、前日終盤にトップ下に入った原口元気(ヘルタ・ベルリン)があまり機能しなかったことを考えると、指揮官も清武を中央に据えるはずだ。2011年8月の日韓戦(札幌)で国際Aマッチデビューを飾って以来、主にサイドで使われてきた26歳のファンタジスタがトップ下で先発するのは滅多にない機会。長友佑都(インテル)も「キヨを孤立させない距離感をうまく作ることが大事」とサポートに徹することを約束しており、彼の一挙手一投足がキリンカップタイトルの行方を大きく左右すると言っても過言ではなさそうだ。
清武はご存じの通り、2014年夏から2シーズン在籍しているハノーファーでトップ下に君臨し続けてきた。とりわけ今シーズンはエースナンバー10を託され、絶対的中心選手として戦った。チームは2部降格を強いられたが、彼自身が異次元の輝きを放ったのは間違いない。「ハノーファーでは組み立てから攻撃のすべてに関わってきた。海外でそういう役割はなかなかできないこと。自分としては非常に充実した2年間だった」と本人もかつてないほどの自信をぞかせた。
とはいえ、ハノーファーと日本代表ではトップ下の位置づけが微妙に違う。それは清武自身も強く意識している点だ。
「代表ではボールが出てきますし、必ずここにボールが来るっていう信頼関係があるので、僕が下がってボールを触ってもしょうがない。いいギャップで待っていることがすごく大事かなと思います」と彼が説明するように、代表ではよりゴールに近い位置でプレーすることになる。次戦でボランチとして彼をサポートする可能性もある遠藤航(浦和レッズ)も「あまり自分のところで起点を作るよりは、速くキヨ君にあてちゃった方がいい。その後のサポートも自分が後ろにいられれば対応できるし、そこからの展開もできると思う」とまずは清武を経由した攻めの組み立てをイメージしているという。
前線の組み合わせがどうなるか流動的ではあるが、まずは中央に陣取る彼にボールを集めてから展開すれば、トップの岡崎慎司(レスター)や金崎夢生(鹿島アントラーズ)、左サイドの宇佐美貴史(ガンバ大阪)らもアクションを起こしやすい。長友が指摘したように、彼ら周囲といい距離感を保ちつつ絡めれば、清武自身のゴールチャンスも増えてくるだろう。
かつてセレッソ大阪のエースナンバー8を背負った大先輩・森島寛晃(現強化担当)が「真司にあって、キヨにないものはゴール」いう名言を残したように、清武は得点の部分では香川には遠く及ばない。香川はブルガリア戦で2点を加えて通算得点を27に伸ばし、歴代6位に浮上したが、清武はまだ2ゴールにとどまっている。国際Aマッチ出場数が36で、80試合に達した香川の半分以下という事情はあるにせよ、やはりトップ下でスタメン出場する以上は、ゴールへの迫力やバリエーションをより前面に押し出していく必要がある。
「今回はドリブルからシュートを2本打ちましたけど、真司くんとのダイレクトのつなぎがあったから、余裕を持ってドリブルをすることができた」とブルガリア戦後の清武は香川とのいい連動によってフィニッシュまで持ち込めたことを前向きに捉えていたが、次戦では香川のいない状態で冷静な判断をしながらゴールまで突き進まないといけない。清武がシュートへの貪欲さを出すことによって、相手マークも引きつけられ、岡崎や宇佐美といった面々がフリーになるというメリットもある。そういったいい相乗効果を示して、「トップ下・清武」の圧倒的存在感を示してくれれば、9月から最終予選に挑む日本代表にとっても朗報となる。
今回の代表シリーズラストとなる7日の一戦では、背番号13のパフォーマンスをしっかりと見極めたいものだ。
文=元川悦子
By 元川悦子