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隠し通した痛みからの解放…GK西川が抱く“新生”への秘めた思いとは

2016.04.01

29日のシリア戦に出場したGK西川周作 [写真]=Getty Images

 ついに“新生・西川周作”が日本代表デビューを果たした。

 29日に埼玉スタジアムで行われたシリアとの2018FIFAワールドカップロシア アジア2次予選を5-0で制し、9月からの最終予選進出を決めた日本代表。2次予選全8試合を史上初めて無失点で乗り切り、次なるステップへと歩を進めた。GK西川周作浦和レッズ)はこのうち6試合に出場。W杯予選での連続無失点記録で松永成立(横浜F・マリノスGKコーチ)と川口能活(現SC相模原)と並んでいた5試合を更新して単独トップに立った。西川自身も「そうやって歴史を作っていくのは幸せなこと。今日はみんなで集中して守ることができた。(記録続行は)プレッシャーよりもモチベーションになった」と普段どおりの柔らかな笑顔で語ってくれた。

 では、いったい何が“新生”なのか。話は今から3カ月前にさかのぼる――。

「来シーズンは新しく生まれ変わった僕をお見せできると思います。何が新しいのか? それは楽しみにしていてくださいよ」

 元日に行われた天皇杯決勝。西川はこう笑いながらミックスゾーンをあとにした。微かな疑問を抱いたまま数日が経過し、浦和レッズから出された『西川周作選手、ケガのお知らせ』というプレスリリースを目にしたのは1月4日のことだった。

 診断名は「左ひざ関節遊離体」。同日に遊離体摘出手術を行い、全治約4週間の見込みだという。シーズン中はケガを抱えながらプレーし続け、オフに入るのを待って手術に踏み切ったのだろう――直感的にそう感じていた。

 2月上旬、鹿児島県指宿市で行われていた浦和のキャンプで西川を訪ねた。そこには「レッズに来てから一番充実したキャンプを送れているんじゃないかと思います」といつもの笑顔で話す彼の姿があった。そして“新生”の秘密について明かしてくれた。

 ちょうど一年前の指宿キャンプあたりから痛みを抱えていたという西川。昨シーズンはその痛みと「うまくつきあいながら、割りきってやろうと思っていた」と振り返る。そして代表チームのメディカルスタッフともコミュニケーションを取りながら手術のタイミングを見計らい、新シーズンに万全の体制で臨めるオフ突入直後に実施に踏み切ったのだそうだ。

 彼が悩まされていた「遊離体」は“ねずみ”とも呼ばれ、軟骨や骨の小片が関節内に遊離して動き回るものを指す。これが関節の狭い隙間に挟まったり、引っかかったりすることで痛みと可動域制限が引き起こされる。西川の場合は左ひざ外側に遊離体があり、インサイドキックを蹴るたびに関節に挟まって強い痛みが出た。そのためシーズン中は左足キックを極力控え、利き足ではない右足の使用頻度を高めるようにしていたという。正確無比な左足キックを最大の武器とするがゆえの苦しみを味わったはずだが、「神様が自分に課した一つの壁だと思って、右足を極めるという部分でポジティブに捉えた。おかげで右足キックがうまくなった」と温和な表情で語る。

 この手術によって西川はすべての不安を取り除くことができた。痛みと隣り合わせの戦いから解放され、平常運転に戻ったとも言える現状を「新鮮でうれしい」と説明してくれた。

「余計なものがなくなって、ステップも、しゃがむことも、踏ん張ることもできるようになった。しっかり力を伝えて飛ぶこともできるし、昨シーズンがウソだったかのような感覚。キャッチング、構え、飛び出し、ボールへの反応、一発で相手の裏を狙うキック……すべてで無心にプレーできる」

 彼がキャンプ中に感じていた手応えは決して間違いではなかった。

 今回の代表招集直前に行われた明治安田生命J1リーグ第4節の湘南ベルマーレ戦、西川はキャッチの瞬間に得意の左足で鋭く前方へ蹴り出し、関根貴大にピンポイントパスを供給。あわやゴールというシーンを作り出した。先のシリア戦でもハイボールへの対応で相手に体を当てられてキャッチしそこなったボールを着地と同時に素早くターンして両手に収め、次の瞬間には左サイドへ走り出していた岡崎慎司(レスター/イングランド)の足下へ糸を引くようなフィードを届けた。試合終了直前には相手と一対一になるピンチで体を投げ出してビッグセーブ。「絶対に無失点で終えてやろうと思っていた」という執念でシュートをブロックして連続無失点記録を樹立した。

 一連のプレーは、まさに左ひざの不安が払しょくされたことで生まれたものと言っていい。細かく見ていけば、もっとメリットが生まれている場面は見つかるだろう。だが、これだけが“新生”たるゆえんではない。彼は万全の状態を取り戻したことで生まれる変化と進化をしっかりと見据えている。これまでも“11人目のフィールドプレーヤー”として存在していた西川だが、その範囲をさらに広めようとしているのだ。

「もっと守備範囲を広くして、他のGKがやっていないような、一つ先のことに取り組んでいきたい。ビルドアップに参加して、相手の背後をどんどん狙っていきたい。ドイツ代表の(マヌエル)ノイアー(バイエルン/ドイツ)のように『ゴール前にいるだけがGKではない』という時代になってきていますし、日本ではそういうスタイルを『西川がやっている』と言われるようにしたい。そういったプレーを浦和でも代表でも生かしていければ、チームのためになると思いますから」

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シリア戦で味方へパスを繋ぐ西川 [写真]=Getty Images

 左足に確実な手応えを感じる一方で、痛恨のミスもあった。3月の国内組合宿直前に行われた第2節ジュビロ磐田戦で、チームメートにつなごうとしたヒールパスを奪われて失点。これにはヴァイッド・ハリルホジッチ監督も目を留めたようで、西川に対して「ああいうプレーは気をつけたほうがいい。リスクを負うな」と苦言を呈した。その後、指揮官は代表メンバー発表の壇上で東口順昭(ガンバ大阪)の起用を明言。西川自身は「競争意識を持てというメッセージだと思う」とポジティブな姿勢を見せつつ、「確実なことは確実にやらなければ。それが監督からも要求されていることだし、ハッキリやることがチーム全体のメッセージとしても重要。つなげる自信があるなら、しっかりつながなければいけない」と反省の弁を口にした。磐田戦以降の2試合を無失点に抑えた西川は24日のアフガニスタン戦で東口にスタメンの座を譲りながら、出場機会を取り戻したシリア戦で明確なプレーを徹底。自らが代表チームで果たすべき役割を再確認し、攻守に抜群の存在感を見せて“新生・西川周作”をアピールした。

 今回の3月シリーズでは南アフリカ、ブラジルとW杯2大会でゴールを守った経験を持つ川島永嗣(ダンディー・ユナイテッド/スコットランド)が代表復帰。再合流した川島に加えて東口への評価も高く、林彰洋(サガン鳥栖)もスケールの大きいプレーで虎視眈々とその座を狙っている。日本代表の正守護神争いはまさに激化の様相を呈してきた。

 だが、西川にも2015年後半戦で日本代表のゴールにカギを掛け続けてきた自負がある。浦和で幾度となく目前でタイトルを逃してきた悔しさも頭を離れない。だからこそ新シーズンに懸ける思いは人一倍強い。「チームとしても個人としても今年は勝負の年。今まで以上に強い気持ちでやらなければいけない」と覚悟を固める。その第一歩こそが今回の左ひざ関節遊離体除去手術だった。

 彼にとって日本代表の立ち位置は「やっとスタートラインに立ったところ」でしかない。「まだまだこれからですよ。もちろん満足なんてしていないし、強い相手に対して自分の力を試したい。もっともっと活躍したいですから」。9月から始まる最終予選に向けて、ハリルホジッチ監督は各選手に所属チームでのレベルアップを求めている。中でも多くの代表候補が在籍する浦和への注目度は当然ながら高くなる。西川自身も「監督はJリーグをかなり見ていますし、特にレッズの試合はすごく見に来ている印象がある。『そこでしっかりプレーをしないと、代表でもプレーできないぞ』というメッセージはすごく伝わってくる」と感じている。チームで結果を出すことが日本代表にもつながる。当然ながら周囲の期待は自然と大きくなるだろう。

 だが、新しく生まれ変わった西川周作の可能性に最も期待しているのは、ハリルホジッチ監督でも浦和サポーターでもない。他ならぬ、彼自身だ。

「今シーズンは自分自身に対して今まで以上に期待していますし、身体の状態が良ければチームをもっと救えるんじゃないかと思います。それをピッチ上で示していかなければならないという責任もある」

 “新生・西川周作”としての日本代表デビュー戦で、その可能性は十分に披露した。「これからは何でもできる西川でいきたい。試合には練習では得られないものがあるし、ようやくフィーリングが上がってきたので、これからどんどん手応えを感じていけると思う」と語る“笑顔の守護神”は、今後いかなるバージョンアップを見せてくれるのか。西川の細かなプレーや狙いどころに注目していけば、その明らかな違いが必ずや見て取れるはずだ。今は彼が遂げていくであろう“新生”からの“進化”が楽しみで仕方がない。

文=青山知雄

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