アフガニスタン戦の翌日に練習を行った岡崎慎司。代表100試合出場に迫る [写真]=兼子愼一郎
清武弘嗣(ハノーファー)の縦パスを反転しながら受け、瞬間的に相手を股抜きし、左に持ち替えながらゴールを決めるという高度な技あり弾で見る者を魅了した岡崎慎司(レスター)。2018 FIFAワールドカップロシア アジア2次予選・アフガニスタン戦の興奮冷めやらぬ25日午前、彼は埼玉県内で日本代表のトレーニングに参加。金崎夢生(鹿島アントラーズ)や清武ら前日の先発組9人と一緒にクールダウンに努めた。
出場機会のなかった本田圭佑(ミラン)、途中出場にとどまった香川真司(ドルトムント)らフィールドプレーヤー9人は5対5やクロス&シュートなど実践的なメニューをこなし、GK4人もトレーニングを入念に行った。岡崎らクールダウン組は一足早くグランドから引き上げた。
練習後、メディアから一番の注目を集めたのは、やはり岡崎だった。プレミアリーグ優勝争いの原動力になっている勢いを、彼がそのまま日本代表にもたらしていることの意味を、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督もチームメート誰もが認めている。こうしたクラブでの日々の積み重ねの成果として、背番号9は今回の芸術的ゴールを奪った。この一撃は岡崎が日本代表での足掛け9年間で奪い続けてきた48得点の中で最も難易度が高いゴールと言っても過言ではないだろう。
「急激にうまくなっているのではないか?」という問いかけに対し、本人は「決めた時はそうは思わなかったけど、咄嗟だったんで。でも前を向けたから自分の最大限の力を出せた。あそこで何回前を向けるかっていうのが僕のバロメーターだから」とイングランドで意識的にトライしている動きが自然と出たことを口にしていた。
レスターの攻撃陣を担うイングランド代表FWジェイミー・ヴァーディやアルジェリア代表MFリヤド・マフレズらは、何人のDFに囲まれても強引に前へ出てシュートまで持っていける力強さがある。代表から離れた4カ月間、こうした強烈さを目の当たりにしながら、岡崎は自身の個性を磨き上げることに徹したという。
「あいつらみたいに異常なほどの結果を残すためには、もう1個先のレベルでやらないとダメ。ハードワークはみんなするんですよね。だから俺のよさって何やろって考えたら、やっぱり結果を出すしか上には行けない。そこで、間で受けた時に相手の前に入るトラップを意識するようになった。一歩先手を取ることは今の自分の最大のよさかなと思います」と彼はより鋭い動き出しを身につけたことを明かしていた。
代表に対しても、2014年ブラジル・ワールドカップの後はどこか方向性を見失っている自分がいた。「若いやつも出てきているし、そいつらを見つつ、自分の立ち位置を考えていかなあかん」という意識でいたという。だが、2008年10月のUAE戦(新潟)で初キャップを踏んだ頃の岡崎は、そんな達観したスタンスではなかった。自分が技術面で同い歳の興梠慎三(浦和レッズ)や年下の香川に劣っていると認め、より貪欲に泥臭くゴールという結果にこだわり続けてきた。傑出したチャレンジャー精神があったからこそ、彼は2010年南アフリカ・ワールドカップでスタメン落ちを強いられても、ブラジルW杯で1トップや左サイドと便利屋のように使われても、ガムシャラに這い上がり、ピッチに立ち続け、ゴールをコツコツと奪ってきたのだ。
「個人的に前の代表の時と違うのは、単にリフレッシュされたってことだけだと思う」と本人は謙遜していたが、明らかに挑戦者意識はここへきて強くなっている。こうしたメンタリティが岡崎をもう一段階ステップアップさせたに違いない。
尋常な人間には考えられない成長曲線を描いてきた生粋の点取屋は、29日のシリア戦(埼玉)に出場すれば節目の国際Aマッチ100試合目を迎える。これまで3ケタの大台に達したのは遠藤保仁(ガンバ大阪)、井原正巳(現アビスパ福岡監督)、川口能活(SC相模原)、中澤佑二(横浜F・マリノス)の4人だけ。憧れの中村俊輔(横浜FM)の98試合も抜き去り、岡崎は名実ともに偉大な名選手の仲間入りを果たすのだ。
「ホントに代表初戦かのような気持ちで『結果を出してやろう』と。果たしてベテランに、30歳になる選手がそれでいいのか分かんないけど、俺みたいな選手を誰かが見て、感じ取って、次のやつがつなげていってくれたらっていう考え方。言葉とかサポートしてとかってよりも、俺がもっとのし上がっていきたいって思いをプレーに込めていくのが一番、若いやつに伝わるのかなと。キャラ的にも変えることはできないので」と彼は苦笑いしながら、姿勢で存在感を示し続けていくという。うまくいけば、シリア戦で100試合出場・通算50ゴールというダブルの大記録を達成できるかもしれない。そんな輝かしい数字とともに、日本の1位通過、チームとしての前進が見られれば最高のシナリオだ。
文=元川悦子
By 元川悦子