韓国戦に臨んだ日本の先発メンバー。DF室屋成(下段左12番)がファン選出のMVPに輝いた [写真]=Getty Images
AFC U-23選手権カタール2016において手倉森誠監督の率いるU-23日本代表は大会前の厳しい評価を覆す躍進でリオデジャネイロ・オリンピックの出場権を勝ち取り、さらにライバルのU-23韓国代表を決勝で破り念願のアジア王者に輝いた。サッカーキングチャンネルでは特番として日本戦の6試合を全て裏実況し、優勝を決めた韓国戦の後に“手倉森ジャパン”のMVPを視聴者の投票で選んだ。公式の大会MVPを受賞したMF中島翔哉(FC東京)をはじめ、候補にエントリーされたのは下記の通り。
決勝は負傷で欠場したFW鈴木武蔵(アルビレックス新潟)など、日替わりヒーローが現れたチームだっただけに、他にも試合ごとに少なからずインパクトを残した選手はいたが、9人までというシステム上の都合もあり、大会を通してほとんどの試合に出場し、しかもハイパフォーマンスが目立った選手が入った。その中で得票率が二桁を超えた選手はDF室屋成(明治大学)、FW浅野拓磨(サンフレッチェ広島)、GK櫛引政敏、DF植田直通(ともに鹿島アントラーズ)の4人。中島は9.4パーセントで、視聴者の評価では9.5パーセントの遠藤航(浦和レッズ)に続く6位となっている。
遠藤航:9.5パーセント(5)
矢島慎也:2.5パーセント(9)
室屋成:25.4パーセト(1)
浅野拓磨:13.2パーセント(3)
櫛引政敏:17.9パーセント(2)
植田直通:11.7パーセント(4)
中島翔哉:9.4パーセント(6)
原川力:3.8パーセント(8)
久保裕也:6.7パーセント(7)
遠藤は大会前にインフルエンザを煩い、練習が十分ではない状態で開幕を迎えたが、手倉森監督の厚い信頼で奮闘し、左足の付け根に違和感をうったえながら最後までハードワークでチームを鼓舞し続けた。特に相手のカウンターを高い位置で潰す守備や韓国戦での決勝点につなげたインターセプトは見事だった。「遠藤はもっとできる」という意見もあった通り常に安定していたわけではなく、中盤でのミスパスが目立つなど、ボランチとしては攻撃面に課題を残した。コンディションをしっかり整えて新天地の浦和で主力に定着し、リオ五輪はもちろん、A代表でも主力を狙っていくことが期待される。
中島にとってハイライトはイラン戦の鮮やかな2発のミドルシュートだが、大会を通してほぼ運動量を落とす事無く攻守に絡み、抜群のボールキープで苦しい時間帯にもチャンスの起点として機能した。昨年はFC東京で試合に出られない時期も長く、終盤戦でジョーカー的な役割を担ったものの、手倉森ジャパンの10番として懐疑的な意見も多かった。
その意味でも大会で評価を一変させた1人であり、天才的なテクニシャンでありながら献身をいとわないことも証明しことは確かだ。逆サイドでチャンスができた時のゴール前への飛び出し、厳しくマークされた時のパスの引き出し方など突き詰めれば課題は多いが、それらは試合経験を積めば十分に伸ばせる部分だ。手倉森監督の信頼はかなり厚そうだが、FC東京でしっかり結果を残して大手を振ってリオ五輪に臨んでほしい。
4位の植田はセンターバック(CB)でDF岩波拓也(ヴィッセル神戸)とコンビを組み、持ち前の身体能力をフルに発揮して力強くボールを跳ね返し続けた。彼がいなければロングボールの競り合いはかなり劣勢を強いられていたことだろう。不可解な判定による不運なPKもあったが、シュートブロックでも多くのピンチを阻止し、まさしく手倉森ジャパンの防波堤として大車輪の働きを見せた。
今回の内容と結果は大きな自信になったはずだが、DFというのはどれだけトータルで高いパフォーマンスを見せても、1つのミスが命取りとなり、そこから失点すれば批判をあびることになる。こぼれ球をゴール前で空振りしてしまうなど、今回も相手のフィニッシュに決め手があれば“戦犯”になりかねないミスも散見された。タイトルを義務付けられる鹿島で定位置を掴み、頼れるCBとしてリオに行くためにも安定感を磨くことが求められる。
3位の浅野は決勝の韓国戦で途中出場ながら2得点を決め、公約だった“ジャガーポーズ”を披露。この試合のMOMは間違いなく彼だろう。しかしながら、自らゴールを奪えなかったそれまでの試合でも自慢の快速とトップスピードでもブレない技術で攻撃を活性化した。準決勝のロスタイムにMF原川力(川崎フロンターレ)が決めた殊勲のゴールも浅野がチャンスメークからゴール前に入り直し、シュートコースを空けたことがお膳立てとなった。能力の絶対値はすでにA代表にも相応しいが、さらに質と精度を磨いて、より怖いストライカーに成長することが期待される。
2位の得票を獲得した櫛引は1試合目の北朝鮮戦こそぎこちなさを見せたものの、その後は大方の予想を上回るパフォーマンスを発揮。準決勝まで無失点を続け、決勝では韓国に2ゴールを許したものの、勇敢なセービングで危機を救い、劇的な逆転勝利を呼び込んだ。3試合目で先発したGK杉本大地(徳島ヴォルティス)の安定したプレーも決勝トーナメントでの奮起につながったはずだ。身体能力に疑いの余地は無いが、これまでポジショニングなどが不安要素になっていただけに、大会での成長分も加味する形で評価を上げた1人だ。
一部ではGKにオーバーエイジ枠を使う要望も出ているが、櫛引にはさらなる成長も十分に見込める。もっとも同ポジションにはGK中村航輔(柏レイソル)という強力なライバルがいる。今大会はケガで辞退したが、アビスパ福岡のJ1昇格を支えた能力を復帰した柏でも発揮できれば正GKの有力候補に浮上しそうだ。櫛引としては新天地の鹿島でベテランのGK曽ヶ端準と切磋琢磨し、早期にポジションを掴みたいところ。また課題であるフィードやバックパスの処理に磨きをかけることがリオ五輪での活躍、さらにA代表にもつながってくる。
25.4パーセントという得票率でMVPに選出されたのが唯一の大学生として参加したサイドバック(SB)の室屋だ。右サイドで相手のサイドアタックを封じ、機を見たオーバーラップから良質な軌道のクロスを上げた。準々決勝のイラン戦では延長前半に左足でMF豊川雄太(ファジアーノ岡山)のヘディグでのゴールをアシスト。結果的に3-0で勝利したが、このゴールが呼び水になったことは間違いない。とはいえ、やはり目立ったのが守備の奮闘だ。
対戦相手の多くが左サイドにエース級のアタッカーを備えていたが、室屋の働きでほとんど無力化された。特に準決勝で対戦したイラクのMFアリ・ヒスニ・ファイサルを押さえ込むディフェンスは素晴らしかった。中盤との連携が合わなかったところから同サイドでチャンスを作られる場面もあったが、1対1ではほとんど負けることなくしのぎ切ったことがファンからの好評価を得たと言える。
大学生であることにかけ「全科目平均点で総合トップ」「単位免除」といったコメントも出るほど、大会を通して最も安定したパフォーマンスを見せたことがMVPに選ばれた理由だろう。今大会で“最大の発見”とも言える室屋だが、ビルドアップやゴール前に絞った時の対応など、プロレベルで評価すれば課題が多く、相手の守備が同サイドによった状況でサイドを変えるプレーなども、さらに上のステージで活躍するために意識してほしい点だ。
もちろんSBというポジションは高いレベルの試合を重ねるごとに洗練されていく傾向があり、ビルドアップにしても純粋なボールスキルだけでなく、試合の中で視野を広げ、判断力を高めることで向上できる要素だ。室屋は今年の春に4年生になるが、特別指定選手としての参加が決まっているFC東京からプロ契約のオファーを受けたという話も出ている。
室屋は青森山田高校から明治大学にスポーツ推薦で進学したこともあり、指定校推薦だった先輩のDF長友佑都(インテル)とは状況が異なる。今大会の貢献度を考えれば、コンディションさえ万全であればリオ五輪のメンバーに選ばれる可能性は高いが、日本トップレベルのSBに成長することが期待される中で、どういう選択を取っていくかが注目される。
鮮烈なインパクトを残して優勝の立役者となった室屋にしても、手倉森監督が率いてきたチームで常に主力だったわけではない。オーバーエイジ枠が行使されるのか、されるとすればどのポジションで誰が選ばれるのかといった注目も高まっているが、今回はメンバー外だった選手もリオ五輪の出場を目指し、Jリーグや海外の所属クラブで向上心を持ち続けること。最終的に誰が選ばれるにしても、そうした競争が“手倉森ジャパン”をさらなる進化へと導く力となるはずだ。
文=河治良幸
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By 河治良幸
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